うまくこうさく出来ないから
ひなもんじゃ
エピローグ
交錯/錯乱
その日の事はほとんどがおぼろげだというのに、どうしても忘れられない。
いつもの場合、私が塾から帰ってきた3時間後くらいに、家に帰ったなりまるで道路上で挽かれて動けなくなった動物のようにぐちゃっと倒れて玄関に倒れこみ、「今日も駄目だった」とか、「ショーテージを埋め合わせないと」とか、「自分が悪い」とか、鬱々としたものを吐いているなか、私が父のグチャグチャで書類まみれになっている鞄から弁当を取り出し、食べたかを確認するのが大抵のルーチンワークだった。殆ど一つも食べた痕跡がなく残っている場合が多く、無論残飯処理をしなければいけないけど、それでもなお私が作っているのは母と関係が悪くなった一端には自分にも原因があって、その時かばってくれた父をどうしても埋め合わせしないといけないという気分からだった。その後、死体のように融けている父をずるずると食卓へ連れていき、とりあえず水を飲ませるのだった。
でもその日は、自宅に帰ると固定電話には何故か父の会社の電話から着信履歴があって、なんとなく嫌な予感がしたのだった。履歴は23分前を指していた。
私は、丁度塾から帰って自分が食べる用の値切れの惣菜と冷凍うどんをスーパーで買ってきた後だったので、冷蔵庫に買ってきたものを仕舞いながら子機で父の会社に電話を折り返した。
「はい、渡辺です…」
「渡辺さんのご家族ですか。私○○株式会社のNと申しますが……」
「今、渡辺さんが救急搬送されて病院にいます。出来れば今すぐ来てください」
その後、どうやって父を迎えに行ったのか覚えていない。
ただ、病院から父が帰ったあと泣き叫びながらながら「透、透」と私の名前を呼び続けていたことと、私もとにかく現状から脱することを決意したことだけは覚えている。
うまくこうさく出来ないから ひなもんじゃ @hinamonzya
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