西のほうから -10
『赤い水草』の話を聞いた『ヒヅメ』は言いました。
「なるほど。それでここへ逃げてきて、お金を集めているのか」
「そうだよ。はやくお金を集めて国に戻らないと、家族が殺されてしまうかもしれないんだ」
「そうか。でもやっぱり、人のものをぬすむのは、ここでは『悪いこと』だ。何か別のやり方を考えよう」
「たとえばどんな?」
「今考える」
『ヒヅメ』がそれを考えていると、遠くのほうから音が聞こえた気がしました。
その音は、ずっと向こうの穴から聞こえて来るようでした。
『ヒヅメ』は耳をすませました。
それは、誰かが穴の壁を叩いている音です。
そしてその音を聞いた人が、また壁を叩きます。
そんなふうにして、音を聞いた人が次々に壁をたたく音です。
それがずっと遠くのほうから、ここまで続いているんです。
音は西のほうから聞こえてきます。
それは、『ナマズとくらす人たちの兵士』が来たってことを、みんなに教える音でした。
『ヒヅメ』は『赤い水草』の手をつかみました。
「今から(わたしが)教えた通りに壁を叩いてほしい」
「え? また頭の中で声がする! 気持ち悪い!」
「すまない。でも教えるのはこっちのほうがはやいんだ。良いか、壁の叩き方はこうだ。ここでこうやって、壁を叩いていてほしい」
「どうして?」
「みんなに知らせるためだ。『ナマズとくらす人たちの兵士』が来た、って」
「そんな! わたしはまだお金を集めていないんだ! 今あの人たちに見つかったら、わたしは殺されてしまう!」
「穴の中に隠れていれば大丈夫だ。ずっとここで壁を叩いていれば良い」
「わ、わかった!」
『赤い水草』は『ヒヅメ』に教えられた通りに、壁を叩きはじめました。
『ヒヅメ』は『赤い水草』をそこに残して、1人で穴の外に出ました。
まだ兵士たちの姿は見えません。
『ヒヅメ』は穴の外にいる人たちに、穴の中に隠れるように伝えました。
それから『牛の人』たちのところへ行きました。
『牛の人』たちは体が大きいので穴の中に隠れることが出来ません。
『ヒヅメ』は『牛の人』たちに 「逃げろ」 と伝えました。
『牛の人』たちは走りだしました。
『ヒヅメ』は地面に耳をつけました。
西のほうから、重くて大きい足音が、たくさん近付いてくるのがわかります。
『ヒヅメ』は、穴の外にもう人がいないことを確かめると、穴の中に戻りました。
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