⑥
魔獣達の舌が、炎が、爪が、一斉に集中した。
流華はくるりと手首を返して、掌を前方に向けた。
青白い光が発されたかと思うと、みるみるうちに魔獣達が光に包まれた。
光が消えた時には、灰も残っていなかった。
流華はゆっくりと手を降ろすと、カロンの元に姿勢良く歩き出す。赤いパンプスがコツコツと音を立てた。
「やめろ、来るな……来るな!」
カロンは杖で地面に何かを描きながら、流華に向かって叫ぶ。彼女の歩みは止まらない。
「は、発・【転移】!」
カロンは杖で地面を叩いた。赤い光が立ち上がり、彼を包む。
流華は躊躇なく光の中に手を入れて、カロンを引きずり出した。地面に転がったカロンの腹を踏みつける。カロンの口からごぼごぼと嘔吐物が溢れた。
「どこ行くの?」
「ぐぶっ……だずっ……だずげ」
流華は微動だにせず見下ろしている。
「瑛美もさっき助けてって言ったんだけど」
「お姉ちゃん!」
瑛美は、姉が彼を殺してしまうのではないかと本気で思った。
「頼む、そいつを捕まえてくれ!」
秀人が流華の元に向かう。優弦も拘束を解いて合流した。
彼女は振り返って妹を見る。
「捕まえて! お願い!」
「ん」
流華が足を降ろすと、一瞬にしてカロンの全身が青い縄で覆われる。
「次は無いから」
カロンは気絶した。
それで終わりだった。
カロンは迎えに来た太一と秀人でどこかに連行され、二度と会うことはなかった。
敵はどんな勢力だったのか、何が目的だったのかなど心配なことはいくらでもあったが、瑛美が知ってもどうしようもないことなので何も聞かなかった。犠牲になってしまった同胞を悼み、秀人が墓を建てたことだけ後日に知った。
そして、その後も予想通りにいくつか事件は起きたのだが、いずれも流華が指先を少し動かすだけで終わったので、瑛美の記憶に残ることはなかった。
優弦達はまずまず穏やかな暮らしを手に入れることができた。
流華は相変わらず瑛美にだけは特別甘く、過保護な姉だった。
今回とは全く別の騒動で、太一が昔伝説の魔物狩り“死神”として名を轟かせていたことが判明したり、霊力が無いと思われていた瑛美が覚醒し、流華に匹敵する力を手に入れることになるのだが、それはまた別のお話。
剣と魔法とお姉ちゃん 惟風 @ifuw
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