これからも君と

2人のバレンタイン ver2022

 色々慌ただしかかった年末から2か月、大学の期末テストも終わった俺と美空は時間を持て余していた。


 時間を持て余していると言っても、それは肉体的な話で実は俺の精神的には余裕はあんまりない。

 なぜなら今日は2月14日バレンタインデー。

 幼馴染の彼女、いや、婚約者がいるとしても男にとってこの日は意識しなくても多少は緊張してしまう。

 この日を謳い文句にした企業の人を問いただしたいという過激派の気持ちは非常に俺もよくわかるけど、実際に美空から貰えないと考えると寂しい気持ちになるから、何とも微妙な気持ちだ。


 そんな今日であるが、美空の要望でショッピングモールに行くことになってる。

 美空が言うには色んな国やメーカーのチョコの食べ比べをしてみたいから、その食べ比べる品を選びに行くらしい。

 

 いつもは美空が作って2人で食べていたので珍しいと思いながら、出かけるための準備をする。

 美空とお似合いだと思われたいしな。



 そして、昼食を食べてから俺たちは目的のショッピングモールに向けて雪がひらひらと舞う中、歩き始めた。








◆◆◆







 

 目的地に着くと、バレンタイン当日という事もあってかいつもの休日以上に混んでいる。

 しかも、他人から見れば俺たちも変わらないんだろうけど、若いカップルや老夫婦が多いように見える。

 目的の場所が俺はわからないので美空の方へ視線を流すと、美空が俺の左腕を抱きかかえる。


「おっと。では、案内をお願いします。お姫様」


 急でバランスを崩しかけたので、揶揄うように俺が美空に告げると美空はさらに俺の腕を引いて振り返る。


「じゃあ、絶対にはなさないでよね。わたしだけの王子様」


 ちょっとあざとく首を傾けて、笑顔のお姫様を見た俺は何度目かわからない敗北を悟った。


「…かしこまりました。美空行こうか」

「あれ、もう終わり?」


 残念。と笑う美空を見て俺は余計に敗北を実感した。





 美空に連れられてきた地下には色とりどりのチョコレートが至る所で売られていた。

 俺の知っているような有名なメーカーはもちろん、外国語で書かれたものといった普段あまりお目に掛かれないものまで、そこはまさしくチョコの祭典。


「すげぇな。」

「ね。ほら見てチョコを求めるチョコモンスターがいっぱい居るよ」


 そういってチョコを買うためにコーナーを練り歩く人達を視線で示す。


「おい」

「そして、私たちも今からチョコモンスターの一員になります」

「おい」


 

 そうして俺たちは沢山のチョコレート販売店を回っていった。大手メーカーのバレンタイン限定商品だったり、外国のチョコ、お酒入りのチョコだけではなく、チョコレートの酒もあった。


 それらたくさんの商品の中からいくつかを見繕って俺たちは帰路についた。







◆◆◆







 

 そして、家について軽く夕食を食べた俺の前に5個のチョコレートが並んでいた。

 ちなみにチョコレートの酒は後で飲もうと思って冷暗所においてある。


「さて、これから優斗にチョコの食べ比べをしてもらって美味しいチョコを決めてほしいの」

「なんで?」

「優斗の好みを知りたいという将来のお嫁さんからのお願いだよ。黙ってやるやる」


 そういって、美空は俺の視界を布で塞ぐ。


「いきなりすぎないか」


 俺が抗議をしているとジタバタしていた腕を美空の身体で抑えられる。

 いつまでも慣れないその柔らかい感触に一瞬、硬直してしまった俺に畳みかけるように話しかける。


「ほら、あ~ん」


 



 結局5つのチョコを甲斐甲斐しく食べさせられた俺は美空の拘束から解放されていた。


「で、結局どれが一番美味しかった?」


 そんな悩みそうな質問に対して俺は即答する。


「4番目。これ一択だな」

「なんで?」


 あまりに俺が早く答えたから、驚いた表情をして美空が理由を聞いてくる。


「だって、このチョコが他とは段違いなレベルで一番俺の好みだったからな。こんなにうまいチョコがあるなんて知らなかったわ。どこのチョコ?」

「………」


 下を向いて黙り込んだ美空を不思議に思って、美空の頭を触りながら問いかける。


「どうした?」


 すると、美空は勢いよく顔を上げて口を開く。


「何でもない」


 そう言って、ドタバタと自分の部屋に戻って行った。


 …何なんだ?


 不思議に思いながらも、食べ比べたチョコを片付けようとチョコを見ると、俺が答えた4番目のチョコだけさっき目を塞がれる前とは違うチョコが置いてあった。

 気になってそのチョコの包装を見るとそこには


「ハッピーバレンタイン!婚約者になって初のバレンタイン。優斗愛してる!」


 と書かれていた。


「だからか…」


 その事実を知ると先程自分が放った言葉が次第に恥ずかしくなってくる。

 こみあげてくる羞恥に耐えきれなくなった俺はヤケクソになって美空の部屋に突撃する。


「美空。俺も愛してる」









 これは腐れ縁のバカップルのお話である。 

  

 

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腐れ縁の幼馴染が手強すぎる!【本編完結済み】 幽天こあい @sekka042

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