第14話 君と見る夜空・下

 翌日25日のお昼頃、昼飯を食べた俺たちは出かける準備を終えてデートをするため街中に繰り出そうとしていた。


 楽しく、思い出に残るデートにしようと昨日から意気込んでいたんだが、昨日の忘年会以降、美空の様子が少しおかしい事が気懸りだ。

 でも、美空が俺に相談して来ないという事は話しにくい、もしくは俺とは関係ない可能性が高いから余り気にしてもしょうがないとは思う。

 それにもし暫く続くようなら俺から声を掛けようとこっそりと胸の中で決意する。


 そして、俺とそれを知らない美空はバスに乗って繫華街に向かった。

 一時間ほど街中をぶらついていたけど、美空は表面上はいつも通りだったが、やはり何処かぎこちない。

 そんな美空に俺が腕を引かれて入ったお店は色々な場所の紅茶や緑茶、コーヒーが売っているところだった。


 前々から美空と高いお茶とか飲んでみたいという話を偶にしていたのだが、美空が覚えていてくれたらしい。

 けれど、正直俺はお茶とかには詳しくないので、美空がどれを購入するかを決める為に店員さんに話しかけている間にその店の反対側のコーナーにある商品を見ようと移動する。


 移動した先にはお茶を飲むときにに似合いそうな簡単なアクセサリーやネクタイピンといった小物が売られていた。

 その品々を見ながら、美空に似合いそうなのはどれかなと考えていた自分の美空中心の思考に内心苦笑していると、とあるアクセサリーが俺の視線を引き付ける。


 それは中心にさり気なく小さな花束が添えられているブローチだった。

 俺が美空に渡した指輪とも雰囲気が近く、とても似合う事が容易に想像でき、更に値段も一万円と少しだったため、美空に隠れて購入した。

 夜にでも渡そうと懐に俺がしまったタイミングで美空も選び終わったようでこちらに駆け寄ってくる。


「優斗、決めたよ。結局緑茶に惹かれて緑茶にしたんだけど、これで良いかな?」


「勿論、俺が見ても正直よくわからないからね。それに俺は美空と飲むことが一番大事だから美空の気に入ったので大丈夫」


「そっか。ちなみに私も同じだからね」


 何の憂いもなさそうな笑顔を浮かべた後、俺の耳元で可愛いことを囁いて美空は会計をするためにレジに向かっていく。

 その笑顔を見た俺は気になっていた美空の違和感のことを忘れてしまった。







◆◆◆







 そして夜になり、俺は美空と街を照らすこの時期だけの木々の明かりを眺めていた。

 

 ふと、美空が立ち止まったのでどうしたのかと美空の方を見ると、頬に美空の唇でスタンプを押された。

 自分の胸が跳ねた事を実感しながら、美空の方を今一度よく見ると、美空の瞳は所々から透明な雫が溢れていた。


「美空?」


 若干、というかだいぶ焦りながら美空を呼ぶと美空は震える声で俺に伝える。


「ごめんね、こんな風になるつもりじゃなかったのに」


「ちょっとこっちに行こう」


 目元を拭う美空を連れて、メインストリートから少しそれたベンチに2人で座る。

 

「何を悩んでるんだ美空。良かったら俺に教えてくれないか」


「ごめん、優斗。最初っから相談すればよかった」


 そう言って美空が語りだしたことは俺が想像もしない話だった。


「昨日の忘年会で私たちと同年代の人たちがホテル行こうとか言っているのを聞いて私たちこのままでいいのかなって不安になったの。それでさっき抱いてって言おうとしたんだけど、優斗の頬にキスしたら自分の不安の為に優斗を使おうとしていることが嫌になっちゃた」


 美空の告白に驚く俺が居る一方、同意をしている自分もいることから俺自身も薄っすらとだが、思っていたことなんだろう。

 そんな俺たちの悩める問題を解決する方法は全く思いつかなかった。


 解決策というより今、俺が取れる選択肢はこのまま家に帰るか、それとも何処かで泊まるかしかない。

 もし、美空の不安をなくせる自信がないならば、家に帰るという選択肢を取ったほうが良い。

 けれど、これからもずっと美空と一緒に暮らす上で俺はここで自信を持って行動を起こさないといけないことをわかっていた。


 だから、俺は自分の不安も美空の不安も全て明日の朝には包み込めていることを信じて美空に告げる。


「よし、ちょっと寄り道しようかお姫様。俺らの関係は俺らが決める。そうだろ。それにもし何かあっても俺たちは一緒だろ」


 そんな俺の言葉に顔を上げた美空はしばらくその言葉を吟味するように黙った後に先ほどのように揺れる瞳ではなく、しっかりと定まった瞳で頷いた。







◆◆◆






 12月26日の早朝、未だに星々が空を支配している時、俺と美空は帰宅するためにゆっくりと歩いていた。

 そんな美空の胸元には祝福を受けているように小さな花束が輝いていた。


 ただ言えることは例え今回のことで俺たちの関係が特別じゃなくなったとしても、腐れ縁の幼馴染で婚約者という事は変わらない。




 この腐れ縁の幼馴染たちは来世になっても寄り添うために再び出会うことを願う。

 


 そう何回も。





















 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第2章完結です。

これからは後日談という形で不定期に投稿していきます。


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そして、現在作者が連載中の『電子の海で再び君と』も読んでいただけると嬉しいです。

 https://kakuyomu.jp/works/16816452221492579846

 

 


 

 


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