第三十四話 初音と燐の勝負その1
「そう言えば母さんが俺のいじめを知らなかったのって不自然だよな」
「お兄ちゃん覚えてないの? お母さんあの時期凄く忙しかったんだよ。ほら例のプロジェクトの件とかでさ」
「ああそれでか。だからあの完璧超人の母さんが認知できなかったのか」
「幾らお母さんでも人間だからね。無理があるよ」
「まあそうだよな」
「自分から言えばよかったのに」
「迷惑かけたくなかったんだ。まあ今に思えば早めに言っておけば良かったと思うけどな」
「まあもう虐めた連中何かと会う事なんてないんじゃない?」
「まあ会ってももう動じることは無いから安心しろ」
「ならいいけど」
俺はリビングのソファーで寝転がっている灯里と会話していた。
現在母さんは家にいない。何やら昨日の夜どこかの研究室長に呼ばれたようで、現在まで帰宅していない。かなり忙しい身らしい。
一体何をしているのだろうか?
実は例のプロジェクトの内容も俺と灯里は知らない。
知っているのは人類の生活を一変する技術を開発している事と言うだけだ。
「まあいいか。いずれ帰って来るだろう」
俺はそのまま部屋に戻り夏休みの宿題をやり始めた。
一時間後――
スマホにメッセージが一件届いた。
送り主は白雪初音。
一体何の用だ?
『出雲君これから私の家に来れる?』
『行けるけど、何か用か?』
『いいから今すぐ来て。お嫁さんの言う事は絶対よ』
『はいはい』
お嫁さんにする気はないが、突っ込む気にもなれないので、俺は適当に返信してチャットを切り上げる。
やれやれ仕方ない行くとするか。
「あれお兄ちゃんどこ行くの?」
「初音の家だけど」
「いちゃついたら罰金だからね」
「何でだよ。ていうかいちゃつかねえよ」
「ならいいけど」
何なんだこいつ。
全く思考が読めん。
「じゃあ留守番頼むな。出掛けるなら気を付けろよ」
「うん分かった」
スマホを見ながら適当に返事する灯里。
全く分かっているのか、お兄ちゃんは心配だ。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
俺はこうして初音の家に向かった。
◇
「姉とか妹いないことを祈る」
「あれ出雲君じゃん。どうしたの?」
俺に話しかけてきたのは燐だった。
相変わらず可愛いな。今日は白いTシャツに青いジーパンとラフな格好だがそれでも圧倒的オーラだ。
「初音に呼ばれて」
「出雲君も!?」
「え、燐も!?」
俺は嫌な予感がした。
帰ろうかな。
そう思った時、燐が躊躇なくインターホンを押す。
「お、おい」
「行かないの?」
「いや行くけど。心の準備が」
「心の準備って。友達の家に行くのに大袈裟だね」
「だって恐ろしい姉や妹がいるかもしれないんだぞ」
「舞花さん結構いい人だよ」
「いや危険人物だよ。燐騙されてはいけない」
「ま、まあ胸触られたけど」
「ほら見ろ」
ていうか何舞花さん。
俺ですら触ったことない燐の胸を先に触るとか酷すぎませんか。
ま、まあ触る気は無いけどな。
「来てくれて良かったわ。さあ早く入って二人とも」
初音が俺と燐の両腕を引っ張って家の中へと招き入れる。
一体何なんだ、こんなに急いで。
「可愛い初音よ。こっちに来い」
「久遠先輩。紹介しますね。私の旦那さんの出雲君と、親友の燐ちゃんです」
は!?
何を言ってるんだこいつ。
ていうか誰だこの美人。
「旦那だと!? 私は認めないぞ。こんな奴に初音は渡さん」
初対面でこんな奴って酷すぎるだろうが。
ていうか結局初音は俺達を何の為に呼んだんだ?
「二人とも久遠先輩から私を守って。私にさっきからキスとかハグとかしてくるの。もう耐えられないわ」
「お前俺達をスケープゴートにしようとしているだろ」
「未来の旦那さんと最高の親友なら私を守るのは当然の義務だわ」
「義務じゃねえよ。帰るわ俺」
「待って出雲君」
俺の両腕を掴んで離さない駄々っ子の初音。
はあ~。今日は最悪な日だ。
「舞花さんも笑ってないで、妹を助けてあげて下さいよ」
「いやーだって久遠ちゃんには逆らえないからね」
「何の弱みを握られてるんですか!?」
「あんなことやこんな事だよ。知りたい?」
「結構です」
「釣れないなー」
舞花は笑って椅子に座っている。
そういや加恋はいないな。
予備校かな?
灯里は今日は休みだけど。
「で、貴女は一体誰ですか?」
俺は目の前にいる久遠と呼ばれる美人な女性に聞く。
銀色の綺麗な長い髪が特徴的な美人でくっきりした瞳と鼻梁だ。
かなり上品そうに見えなくもないが、あまり関わりたくはない人種だ。
滅茶苦茶美人だが。
「私は皇久遠だ。宜しくな」
「皇ってあの皇グループですか!? ならご令嬢とか?」
燐が驚いた様子で聞いている。
皇グループってあの大手財閥グループのか。
「まあそうだがそんな事はどうでもいい。私の初音を奪おうとする二人には制裁を加えなければならない」
「いえ奪う気無いんで」
俺のあっさりした否定に突っ込みを入れる初音。
「ち、ちょっと出雲君!? そんなあっさり否定するなんて酷いわよ。約束したのに」
「あれは方便だから。じゃあ帰るわ俺」
俺が帰ろうとした時、皇久遠に捕まった。
そしてそこから初音の可愛さ自慢話を長々と俺と燐は聞かされた。
数時間後――
「も、もう帰っていいかな」
「わ、私も帰りたい」
俺と燐は完全に電源が落ちたコンピューターのようになっていた。
話が長すぎる。ていうかどんだけ初音LOVEなんだこの人。
「じゃあここで二人の勝負と行きましょうか」
突然舞花が話を切り出す。
誰と誰の勝負だ?
「初音ちゃんと燐ちゃんの出雲君を賭けての勝負」
「え!?」
「ルールは至ってシンプル。ここにある最新ゲーム機の最新対戦アクションソフトで勝利した方が出雲君にキスできる」
「酔ってるのか!? 酔ってますよね!?」
「私まだお酒飲まないんだ」
「素面でこれですか?」
「そうだよー」
最悪すぎる。最早狂気だ。
俺の人生を全力にぶち壊しに来るブルドーザーだ。
ラノベ作家なのに例えが酷い。俺の語彙力が無さすぎる。
だがこれだけは確実に伝えたい。この人たちはやばい。
勿論初音も含めて。
「やるわ」
「私もやろうかな」
おい何でこの二人までやる気になってるんですか?
俺に意見する権利は無いんですか?
「いや俺は帰りたいんだが」
「まあまあそう言うな出雲よ。この数時間で私が初音に相応しい男だと認めたんだ。キスされるがいい」
「数時間ごときで何が分かるんだよ。面接官のプロですか? メンタリストですか?」
「さあ座れ出雲」
こうして俺は嫌々強制的にゲームの参加者となった。
しかも結果待ちという罰ゲームを受ける一方的な損な役回りで。
「私が勝つ」
「ううん。私が勝つよ」
初音と燐が火花を散らしている。
そんなに俺にキスしたいのか?
俺は嫌だ。ファーストキスをした相手の人生を背負う必要があるとラノベで学んだんだ。責任を負いたくない。助けてくれーロリ母。
俺は心からそう叫んだ。
ド陰キャな俺の嫁になると声優アイドルの美少女がいつも口にするんだが~俺はアニメでライブで応援しているのでそっとしておいてください~ 風白春音 @darkblack
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