第三十三話 表紙描いて
「ここがホワイトラビットさんの家か」
俺は昨日SNSのウィッターで教えて貰った住所の場所まで来ていた。
改札には白兎と書かれていた。
珍しくかっこいい苗字だな。
「しかしネットで出会ったばかりの人物に住所教えるとかこの人大丈夫か?」
プライベートを守護する事を口酸っぱく注意したいところである。
まあでも来てしまったものは仕方が無い。インターホンを鳴らそう。
「ああ緊張するな。神様、ロリ母。どうか俺に幸せあれ」
俺は緊張した手つきでインターホンを押す。
ピンポーンと大きな音が鳴り響いた。
そして三十秒ぐらいの後、大きな扉が開いた。
「はーい。貴方がダークキャットさんよね?」
「はい。ええと貴女がホワイトラビットさん!?」
「そうよ。入りなさい」
「は、はい。お邪魔します」
滅茶苦茶美少女。
ていうか男性をイメージしていたので予想外な出来事で頭の回転が鈍くなってる。
まさかこんな可憐で可愛い美少女とは。
金髪のツインテールで整った細い眉毛に、くっきりした睫毛。黄金色の瞳は全ての者を魅了するであろう。派手な赤いワンピースとフリフリのミニスカートに身を包んでいる。
ハーフなのか?
「あのーご両親は?」
「私達二人暮らしなの」
「二人暮らし?」
「ええ。妹とね」
「高校生だよな?」
「ええそうよ。私は高校生。妹は中学生」
「それで二人暮らしなのか。凄いな」
「まあね」
自信満々な顔でそう言ったホワイトラビット。
料理とか掃除とか洗濯とか大変そうだな。
「ここが私の執筆部屋よ。さあ座って」
「あ、ああ」
大きなテーブルに数々の資料と思われる本。
デスクトップパソコンやノートパソコン、スマホにタブレットなど色々な物が置いてある。
俺は置いてあったソファーに腰かけた。
凄い柔らかい。
「お姉ちゃんその人がダークキャットさん?」
「ええそうよ。
「ふーん。可愛い子だね」
「そうね。一緒に話す?」
「話そうかな。勉強の休憩として」
「じゃあ座りなさい。今飲み物とお菓子持ってくるから」
そう言ってホワイトラビットは一度部屋を退出した。
残った俺と白愛と呼ばれるホワイトラビットの妹の美少女と部屋で二人きりである。
こんな所燐や初音に見られたらやばそうだ。特に初音には見られる訳には、知られるわけにはいかない。
「ねえ本名は?」
「猫屋敷出雲」
「珍しい苗字だね」
お前に言われたくねえよ。
お前の苗字も大概だろうが。
見たことねえよ周りに白兎さんなんて。
「お互い珍しいよな」
「うん。私は白兎白愛。中学三年宜しくね」
「あ、ああ宜しく。俺は高校一年だ」
「じゃあ先輩だね。お姉ちゃんと同い年だ」
「そうなるな」
やっぱりホワイトラビットは俺と同い年か。
同い年で駆け出しラノベ作家同士。負けてられないぞ。
それにしても金髪のロングテールに整った細い眉毛にくっきりした鼻梁、睫毛。誰もを魅了するであろう黄金色の瞳。
それでいてピンクのラフなTシャツにハーフパンツ。
やっぱりこの姉妹ハーフっぽいな。
まあハーフだから何だという話なんだが。
「お待たせ。紅茶とクッキーで良かったかしら」
「あ、ああお構いなく」
少しの間沈黙が走る。
うわあすげえ帰りたい。気まずい。
何の話題から切り出そうか?
「駆け出しのラノベ作家だと聞いたけど本当よね?」
「あ、ああそうだよ。これからデビュー予定だ」
「作家志望じゃなくて?」
「じゃなくて賞を受賞した」
「何処の?」
「海光社」
「な、なななな!?」
驚いて固まっているホワイトラビット。
何か知らんが勝った気分だ。兎を狩ったぜ。
「ていうかお前名前は? 妹は白愛だろ。俺は猫屋敷出雲」
「私は白兎雪花よ。どういい名前でしょ」
「あ、ああいい名前だな」
「それより貴方あの海光社からデビューするの!? なんて羨ましい」
それよりって何だよ。褒めてやったのに。
「お前も駆け出しとはいえラノベ作家なんだろ。どこから出版してるんだ?」
「私はポップポップ社よ。一巻で打ち切りだけどね!」
そう大きく拗ねた声で俺へと轟かせる。
俺は驚くが余り、少し身を引いた。
「そ、そうかそれは残念だったな。ポップポップ社って結構新しい出版社だよな」
「そうよ。ネット小説の賞に協賛として参加していた会社で私あるサイトの企画で特別賞を受賞したの。それでデビューしたわ」
「ジャンルは?」
「ラブコメよ」
「ああそれで俺に生配信の時聞いて来たのか」
「そうよ。ていうかあなた一体何者。高校生でチャンネル登録者数百万人超えでしかもラノベ作家って。ずるいわよ」
「運が良かっただけだ。それと師匠が」
「師匠?」
「ああ。有名ラノベ作家の黒羽燐が俺がラノベを書くきっかけなんだ」
俺の言葉に固まる二人。
驚きすぎてフリーズしている。
「おーい大丈夫か?」
「く、黒羽燐ってあの黒羽燐!?」
「他にいないだろ」
「どうして知り合いなのよ!?」
「中学時代からの親友なんだよ」
「私にも紹介して」
姉の雪花が身を乗り出して言ってくる。
大きな胸が強調されて目のやり場に困る。
そして妹の白愛も身を乗り出してくる。
「私も紹介してほしい」
「お前もラノベ作家なのか?」
「違う。私はイラストレーター」
「イ、 イラストレーター!?」
「そうよ。私が絵を描いて姉さんが文章を書く。これで天下を取ることが私達姉妹の夢なの」
「そ、そうか」
これは驚いた。まさか姉妹でそういう仕事に就いているとは。
しかしどんな絵を描くのだろうか、是非見せて欲しいな。
「ねえ黒羽先輩はどんな絵を描くの?」
「え!? あいつ絵描けるのか?」
「描けるに決まってる。だって今大流行のソウルリークはイラストも黒羽先輩自身が書いてる」
「え、マジ!?」
「本当に親友なの」
「本当だよ。だけどそれは知らなかった」
あいつ一言も俺に絵が描けるなんて言ってなかったぞ。
何で言ってくれないんだ?
何か胸の内がモヤモヤした。
「紹介してやろうか?」
「いいの!?」
「いいの!?」
「あ、ああ。燐なら断らないと思うぞ」
「お願いします」
「お願いします」
二人ともさっきとは打って変わってぺこりと丁寧にお辞儀をする。
全く仕方が無い奴らだ。
俺は燐にビデオ通話する。
出てくれるかな?
『あ、もしもし燐。今いいか?』
『いいけどどうしたの出雲君? ていうかその後ろの二人誰?』
俺は事の顛末を燐に話した。
すると燐は快く了承してくれた。
『そう言う事ね。いいよ、作品書いたら海光社に持ってきて。私と一緒に私の担当編集に読ませてみようか。イラストも一緒にね』
その言葉に二人の顔がぱーっと明るくなる。
そして――
『一生付いていきます燐師匠』
『私もです。燐先生』
『あははっ。いやー普通に燐って呼んでね』
『分かったわ。燐ちゃん』
『分かりました。燐先輩』
『うん。あ、それとビデオ通話じゃなく普通の通話で出雲君に代わって?』
「はい」と俺にスマホを差し出す雪花。
俺はスマホを取って耳に当てる。
『と言う事で宜しく頼むな。俺も含めて』
『はあ~。それはいいけど普通SNSで知り合った人の住所においそれと向かう? どう考えたって危険でしょ。それに初音ちゃんもこの事知ったら怒るよ』
『初音には黙っててくれ。頼む愛しの燐』
『何か癇に障ったから初音ちゃんに言うね』
『おい、何でだ。燐を褒めただけだろうが』
『愛しの燐って心にも思ってない事言わないで』
『いや可愛いとは思ってるよ。それは本当。だけど責任を負うのが嫌だから告白断っただけ。お前に非があるわけではない。これだけは信じてくれ』
『うん分かった。それは信じる。じゃあ早めに帰って来てね。瑠璃さん心配するから』
『あ、ああ。それとさお前絵上手いんだってな』
『ああー聞いちゃったか。正直出雲君に言うの恥ずかしくて言ってなかったんだよね。私昔から絵も描いてたから』
『俺の表紙も頼みます』
『多分それは無理。時間が無いと思うから』
『そっかー。まあいいや取り敢えずありがとうな今日は』
『うん。じゃあね出雲君』
『ああじゃあまた後でな燐』
俺は通話を切った。
ああ何か燐とこうして通話できることが凄く幸せに感じる。
改めて俺は燐と和解できて本当に良かった。
「それで白愛はどんな絵を描くんだ?」
「こんなの」
うめえー。滅茶苦茶うまい。
凄い線が細かくてポーズも難しいポーズだ。
これだけの美少女が描けるなら、イラストレーターとしては十分食っていけるだろう。
しかしこの絵で打ち切りって厳しいな。
「分かってるわよ。私の内容がてんで駄目だって言いたいんでしょ」
「いやそんなこと一言も」
「顔に書いてあるわよ。だからラブコメの書き方聞いたんじゃない」
「その件なんだが実は俺もラブコメ書くの苦手で没ってる。デビュー予定のジャンルはVRMMOモノだしな」
「そうなの!? 何だ役に立たないわね」
「黙れ。そっちから勝手に住所送りつけてきて来いって言ったんだろうが。大体な善良な俺みたいな奴だったから良かったものの、良からぬ奴だってこの世界には沢山いるんだぞ。気を付けろよな」
「ううっ、わ、分かってるわよ。反省しているわ。つい勢いで」
「それならいいが」
「でもこれだけは言うわ。何が善良よ。自分で善良なんていう人は信じられないわ」
「ま、まあ善良は言いすぎたな。普通の奴だ」
こうして俺はこの日ラノベ作家の姉白兎雪花とイラストレーターの妹の白兎白愛に出会った。
その後もラノベの熱い会話が続き、気づけば夕方を過ぎていた。
「じゃあな。お互い頑張ろうぜ」
「ええ」
「うん」
俺は連絡先を交換した後、家に戻った。
これからあいつらに会うときは初音にばれないようにしないとな。
「付き合ってもないのに何でこんなに配慮しないといけないんだ?」
我ながら大きなハテナが頭に浮かんだ。
「ああ、燐俺の表紙描いてくれないかな」
大きなハテナが頭から消えた後はそのことで頭がいっぱいだった。
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