第2話

今日は病院へと足を向ける。病院は病によって命を落とす人が最も多く存在する場所だ。

病院の中に入ると大抵の人は私を見ることが出来ないのだがたまに私のことを見れる人もいる。見れる人の大半はお年寄りだった。

自分の姿を見られたいという願望はない……むしろ見られたくないとすら思っている。私のことを見れる人はすぐに死んでしまうのだ。人が死ぬ瞬間など見てて気持ちの良いものではない。

見られた人の後を追うのは私の姿を見せてしまったことへの罪悪感。私のエゴでしかないがなるべく死んでから苦しんで欲しくないという我儘で私は自分の姿を見た人の動向をひっそりと見回る。

扉をすり抜けて琴切れた老人の魂を回収する。この人は多分寿命が自然に終えたのだろう。痛い思いをするよりも、苦しむよりもずっと良い。


「何をしてるの?」

「………………え?」


魂を回収した後に女の子の声で尋ねられたがそれが私に尋ねているのだと察するにはそれなりに時間がかかった。

同じ死神同士でもコミュニケーションを取ることが少ない私は当然ながら見えないはずの人間に声をかけられたことなどない。なにせ自分で言うのもアレであるが黒い法衣で身を包み、黒いフードで顔を見えないように隠しているという現世に降り立った死神の標準的な格好は怪しい存在にしか見えないだろう。

察すると同時に思わず私は声の聞こえた方向を振り返ってみると病衣を着て首元に銀のアクセサリーをぶら下げた美しい銀髪の少女がベッドの上で座っていた。


「私が見えてるの?」

「え……うん。そうだけど?」


私の問いに少女は戸惑っているように感じたが内心ではこの少女を私は憐んでいた。

まだ酒も飲めない年齢であろうにもうじき亡くなってしまうのは酷く可哀想だと私は思った。


「貴女は誰なの?」

「私は死神だよ」

「死神?魂を刈り取るって噂の?」

「違うよ。私たちは死んだ人の魂を運だけだよ」

「そっかー……」


少女は天井を仰いでいると何かを察したように呟いた。


「私、もう死ぬんだね」

「そうかもね」


私を見てしまった以上、長く生きることは不可能だろう。早ければ今この瞬間に少女は死んでしまうだろう。


「……貴女の名前を教えてくれない?」

「……ましろ」

「黒い格好なのにましろって名前なんだね。私はゆき、暇なら死ぬまで私の話し相手になってくれない?」

「別に良いよ」


どうせすぐ死んでしまうんだ……話しかけられた時には驚いたけど死んだ後は早く魂を回収するつもりだった。なら一緒にいるのは好都合だろう。


「先に言っておくけど私は23だよ」

「……え!?」


ゆきの年齢を聞かされた時は私に声をかけられた時以上に驚いて動揺したのだった。

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