第5話
ゆきが死んでからどれだけ経ったかはもう良く分からない。だけどゆきが死んでから私は死神の仕事を以前よりも自分の意思では積極的に行わなくなり、惰性に身を委しているだけであった。
ゆきの存在を忘れたことは一度も無い。時々胸が苦しくなって呼吸がし辛くなるがそんな時に自分の首にかけた銀のアクセサリーをそっと撫でると楽になった。
魂の回収を行う時、私は病院を訪れるのを辞めた。病院に行くたびにゆきを思い出して悲しみが私を襲うからだ。失うぐらいに最初から失う原因すら作りたくなかったし、私の心にゆき以外の人を入れたくなかったからあれから一度も病院には行ってない。
「ゆき……」
ゆきに会いたいと思わない日は無いがそれは叶わない夢だと私は知っている。彼女は死んでしまったのだ、死んだ人間が蘇ることなどはあり得ないことである。
「……ましろ」
「………………え!?」
今私は空の上にいる。そんな私に上から声をかけてくる存在がいること自体にも驚いた。
だがそれより驚いたのは私が聞いた声は私が待ち焦がれている人の声だったからだ。
「もしかして、忘れちゃったの?」
「ゆ……き……なの?」
動揺を隠せない私が上を見上げると白い法衣を着て背中から純白の翼が生えたゆきがいた。
「うん、本当はましろと同じ死神が良かったんだけどね」
「そんなの、関係ないよ」
ゆきが死神ではなく天使になっていたが生き返ったのだ。これでまた一緒にいられると私の胸は歓喜で満ちていく。
「ねぇましろ、お願いがあるんだけど良いかな?」
「お願いって?」
「あの時の続きをして欲しいんだけど」
顔を赤らめながら呟くゆきの言葉の意味を察した私は羞恥心で顔がボッと熱くなる。今もし鏡を見るならゆきと同じような顔色になっているだろう。
「ここじゃないと、駄目?」
「出来れば今して欲しいなぁ」
ゆきの要望を叶えるべく私は彼女の顔に近づいてそっと唇を重ねた。あの時とは違う、確かな温もりを感じられた。
「ゆき……大好きだよ」
「私もだよ。ましろずっと一緒にいようね」
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