存在の位置が辛い

一色 サラ

あってほしいようで、なくていい存在

 屋根裏に置かれている箱に、君たちはいた。いつも3月が近づくたびに、見たくないと願っていた。その冷たい目や佇まいが、どうしても怖い。子どもの時、よく怖くて泣いていた。


「あなたのために、飾ってあげてるのに、お雛さまとお内裏様が可哀そうでしょう」

 慰めてくれることもしてくれない母親の無責任な言葉に、いつも傷ついていた。母親は、そんなことに、気づくこともなく、毎年、2つの人形は、居間に置かれていた。 

 逃げ出すように、家を出て、もう何年も経つ。大学入学と同時に家を出た。それから就職して、結婚もした。それから、一度も家に帰っていない。母親とも会っていない。消えてほしい。その存在が自分を否定してくるように、頭の中を支配していく。 

 私は子どもを産めない。母親のような親になるのではないかと思って、どうしても、子どもを作ることに、抵抗が消えない。旦那さんは子どもを欲しがっている。

  母親の顔が、鏡に映る。それが母親そっくりの自分の顔だ。この顔が本当に嫌だ。そのせいで、鏡を凝視できない。美人な顔でも、ブサイクと言われる顔でもない。人に見せれない顔ではないことは知っていても、嫌いなのだ。

 そんなことを他人に相談したら、『整形したら』と言われてしまった。本当に、整形したら、母親の呪縛から解き放たれるのだろうか。自信を持つことができるのだろうか。

 整形外科クリニックの前に立っていた。そこで、看護師に「どこが不満なんですか?」と言われてしまった。1つのクリニックで言われて、引け目を感じてしまって、また違うクリニックに訪れた方がいいのだろうか。それを聞いていたのか分からないが、診察室に入って来た医師が看護師に、「人それぞれ、顔にコンプレックスを持っているものだよ」と言ってくれて、助かった。

 そこで、目と鼻の整形をお願いした。旦那にはそのことを黙ってした。もしかしら、離婚を告げられるかもしれないとも感じた。それでも、この顔を変えたい。

 たれ目を吊り目にして、鼻の高さを少し高くしてもらった。手術時間もさほど、かからず、30分程度で終わった。さほど、顔が変わった印象はなかった気がした。ただ、どうこか達成感を感じてしまった。

 帰って来た旦那に、整形をした顔を見せたが、さほど、怒ることはなかった。それどころか、「垢ぬけたね」と言われた。そんなに私は暗かったのだろうか。でも、何となく心が晴れやかになった。

 これで、少しは前向きになれたのかもしれない。デパートに並ぶ雛人形とお内裏を久しぶりに見た。今思えば、何にも揺るがない存在になれない自分にコンプレックスがあったのかもしれない。

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存在の位置が辛い 一色 サラ @Saku89make

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