第17話
「ふう……」
特大クレープのあと、けっこうなサイズのパフェも食べきった万帆は、とても幸せそうな顔をしていた。食い意地に引いた光だったが、万帆の幸せそうな顔を見ると癒やされた。
「そろそろ帰るか」
「ううん……もうちょっと、一緒にいたいです」
もうちょっと一緒にいたい。
万帆が、少し恥ずかしそうにおねだりするのを見て、光は体全体が締め付けられるような、快感と衝撃の混じった感覚を覚えた。
「この席、他の席から全然見えないですね」
「ああ。落ち着くだろう」
「そっち、行ってもいいですか」
「うん?」
四人座れるテーブル席なので、光の隣は空いていた。
万帆はおもむろに立ち上がると、すたすたすたっ、と光の隣に飛び込んだ。
「こっちの方が、近くていいです」
「お、おう」
一気に距離が縮まり、光はうろたえる。もともと女子に対する耐性がゼロの男だ。肩が触れ合うほどに近づくと、緊張して何も考えられなくなってしまう。
「光くんの腕……太くて、おっきいです」
万帆は光にかまわず、どんどん距離を縮める。
光の大きな腕を、全身で抱きしめた。
「硬い……しゅごい……」
万帆はぎゅっと光の腕を抱き、二の腕あたりに頬ずりをはじめた。
万帆からすれば硬いのだが、光が感じているのはとても柔らかい感触である。人体がこんなに柔らかいとは知らなかった光は、それが万帆の身体であると意識すると、もはや理性が飛びそうになり、必死で己を抑えようとしていた。
何だ、これは?
全然、俺の思っていた万帆さんのイメージと違う。
いや。万帆さんは、もとは美帆のような性格だったと、自分で言っていた。もしかしたら、本当はこっちが普通なのかもしれない。
だとしたら、俺はこの姿の万帆さんこそ、受け入れなければならない。
そう考えるのだが、なにせ女子にこうやって身体を寄せられたのは初めてなので、光は硬直したまま何もできなかった。
「あの、光くん」
「な、な、なんだ」
「キス、してください」
「なに?」
「この前、わたしからしましたよね。温泉で。今度は、光くんからしてください」
「そ、そ、そんな」
「嫌ですか?」
「嫌、というわけでは」
「キスしてくれないと、光くんがわたしのこと好きなのかどうか、確かめられません」
「なっ――」
確かに、万帆とキスすることは光が夢見ていたことの一つである。しかしこんな風に万帆から求められるとは思っていなかった。ならどういう時にすればいいのか、と言われると、それも考えていなかったのだが。
「ど、どこにキスすればいい」
「ここです」
万帆は唇を指さした。
温泉の時は頬だったから、もっと進歩した事になる。
やっと付き合えた、と思って喜んでいたのに。これから段階を踏んで仲良くなろうと思っていたのに。いきなりこんな、進んでしまっていいのか。
「は、や、く」
万帆が、身体を揺らして光に迫る。ぷに、ぷにと柔らかいものが腕に当たり、光はますます追い込まれた気持ちになる。
ええい。もう、どうにでもなれ。
光は、万帆の顎をやさしく掴んで、くい、と顔の向きを合わせたあと。
優しく、万帆に口づけをした。
「んっ……」
一秒にも満たない接触だったが、万帆はかすかに身体を震わせ、それを受け止めた。
「えへへ。光くん、だいすき」
万帆は光の腕から身体を話したかと思うと、今度は上半身全体に抱きついてきた。
「ずっといっしょですよ」
「お、おう」
いや、流石にここでずっと一緒にこうしていたら困るのだが、と光は冷静になって思ったが、万帆の求めているものはよくわかったような気がした。
好きな人と。ずっと、一緒に。
いかにも女の子らしい願望だった。もちろん光も今はそう考えている。願わくばずっと、万帆とこうしていたい、という気持ちはあった。
「……あら」
ふと、光の身体から顔を離した万帆が、何かに気づいた。
「す、すごい……」
万帆の支線の先にあったのは、大きなテントを張っていた光の……もはや言うまでもない場所だった。
「わたしと一緒にいて、興奮したんですか」
「……」
「ふふ。うれしいです」
う、嬉しい?
こんなものを女子に見せるのは失礼じゃないのか。実はずっと前からこの状態で、万帆には見えないよう不自然な前傾姿勢を保っていたのだが、抱きつかれたことで維持できなくなっていたのだ。
「ちょっと、触ってみてもいいですか?」
万帆はとてもいたずらっぽい、悪魔のような顔で、光の耳元にささやいた。
「う――」
光はもはや、思考が何にも追いつかなかった。
俺は――
俺は、どうすれば――
学校一の美少女が自分の体操着をくんかくんかしていたところを目撃してから高校生活の全てが狂った男のラブコメ 瀬々良木 清 @seseragipure
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