後夜祭(2)

「良いこと考えた……」


「何?」


「あのペアチケット、せっかくだから森さんを誘ってみようかな……って」


「あの遊園地高いだけでボロボロじゃないか。というかお前がチケット持ってたらおかしくないか?」


「そんなこと言ったら、今私たちが一緒にいるのだって変だよ」


「あ、それもそうか……って、あれ、あ……まずい」


「ん?」


「いや、え、ちょっと待って……あ」


 葵はズボンのポケットの中に手を突っ込んで何か探し始めた。


「……まずい。チケット……あのキャリーバッグの中に入れたんだった」


「……え?」


「あのキャリーバッグの外ポケットの中……入れっぱなしだ」


「あ……そういえば私の携帯は?」


「……それもだ……」


「……え? ……え?」


 調度様々な失態が明らかになったところで、森さんが私と葵のいるこの場所に息を切らしながら到着した。


「はぁはぁ。葵さん、紹介するね……この子三崎沙耶っていうんだけど……ってどうしたの?」


「ううん、何でもない……の」


 計画は成功だったのか失敗だったのか。運がだんだん良くなっていくと言った森さんの言葉が徐々に私の中で薄れていく。失ったものは大きい。しかしその分得た物だって大きいじゃないか。私は自分にそう言い聞かせて。立ち直る。


「あのね森さん……実は私……水野葵って名前じゃないの」


 森さんは首を傾げる。それも当然か。名前を偽るだなんてそんな『不思議で幼稚』なことをする意味も、理由もわからないのだから。


「えっと……ごめん、私クラスの子の名前ほとんど覚えていなくて……それじゃあ本当の名前は……?」


 バチバチと、火花の散る音が激しくなっていく。さようならペアチケット。さようなら私の携帯電話。そして私は私の私物で暖かくなった空気を、小さく吸い込んだ。


「わたしの本当の名前はね……加奈子っていうの」


 森さんは驚き、そして葵はクスリと笑う。これが私の『不思議で幼稚な最後の冗談』……なのかどうかは、森さんの判断に任せるとして。




 こうして私と森さんは、本当の意味での『友達』になれたのでした。



                                                                   完。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

灰色の少女 小さい頭巾 @smallhood

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ