騎士の引き立て役⑫




翌日、ナイトとランスは一緒の部屋になった。 問題児二人、という認識になった今であるが、姫の近衛となれば同じ部屋にするのが風習。 ひょうきんな先輩が責任をもって面倒を見てくれるらしいのだ。 朝の準備を終え、あることを決めたナイトは自室のドアに手をかけた。


「ランス。 少し団長のところへ行ってくる」

「・・・分かった」


ナイトには気になっていることがあった。 それを確かめるために騎士団長のもとへと向かった。 ランスも察してくれたのか素直に見送ってくれた。


―――団長はどこだ・・・?


探していると騎士団長は城の門のところで立っていた。 


「団長! おはようございます」

「おぉ、ナイトか。 おはよう。 こんな朝っぱらからどうした?」

「一つ聞きたいことがありまして」

「何だ?」

「どうして俺を特別枠で合格させたんですか?」


昨日リンチに遭いかけた時に言われた言葉が気になっていた。 合格した時は嬉しくて理由など何も考えていなかったが、コネであると聞いた今それが真実なら特別枠での合格は相応しくないと思ったのだ。 

騎士団長はしばらくナイトを見つめた後静かに言った。


「俺は前騎士団長、つまりナイトの父親と親友でな」

「え!?」

「勝負をすれば全戦全敗。 まるで鬼のような強さを持つ人だった」


騎士団長と父が親友だったことなんて全く知らなかった。


「その人の息子が、騎士の試験に落ちるはずがないだろう?」


騎士団長がナイトの肩に手を置きそう言った。 だがそれは昨日言われたことが真実であるということでもある。


「・・・じゃあ、俺が父さんの息子だから合格にしてくれたんですか?」


実力が不足しているとは自分でも思っていないが、それを聞けば実際に落ちた人は不満に思うのも当然だと思った。 だが騎士団長は首を横に振っていた。


「それもあるが、ナイトは実際に実力があるじゃないか。 国を守る騎士なのだから、実力は一番に考慮する」

「・・・ありがとうございます」


そう言われても腑に落ちない。


「それとナイトは試験の当日。 目立たないように動いていただろ?」


どうやら騎士団長にもバレていたようだった。 もっともランスにバレていたことが、それ以上の実力者である騎士団長にバレていないと思うのは浅慮が過ぎる。 


「・・・はい」

「そんなことをした理由は知らないが、見る奴が見れば分かるものだ。 力を隠しているということくらいはな」

「ッ・・・」

「きっとナイトとランスはいいパートナーになると思う。 これからも二人で切磋琢磨し、成長していってほしい」

「ッ、はい!」


元気よく返事をしたナイトを見て騎士団長も大きく頷いた。


「ナイトー!」


その時後方からランスに呼ばれた。 ナイトと騎士団長は声の方へ目をやる。


「そろそろ剣の稽古が始まるぞー!」


ランスは大きく手を振っていたが騎士団長と目が合うと深く礼をした。


「行ってきなさい」

「はい! 頑張ります!」


ナイトも深くお辞儀し、走ってランスのもとへ向かった。


「表情が明るくなったな。 団長と話してスッキリしたのか?」

「あぁ。 身分だけで決められたわけではなかった」

「ということは、少しはその理由も入っていたのか」


ランスは少し残念そうな表情をする。


「俺の父さんは団長と親友だったみたいなんだ」

「え、マジで!?」

「俺もその話を聞いた時は驚いた」

「あー、そうか。 ナイトの父さんは前騎士団長だったな。 その人の息子が、騎士の試験に落ちるはずがないか」


ランスが騎士団長と同じことを言ったため、笑ってしまった。 ランスも不思議そうにナイトを見ていたが、つられるようにランスも笑い出した。


「でもちゃんと俺の実力も見てくれていたみたいだから。 これで俺も集中して剣の稽古を頑張れる」

「あぁ。 これからもよろしく頼むぞ、親友!」






                                  -END-



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騎士の引き立て役 ゆーり。 @koigokoro

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