騎士の引き立て役⑪
ナイトにとってランスは命の恩人に等しい。 そんなランスをずっと引き立てて生きていきたいと思っていた。 だがそのランス本人が引き立てないでいいと言っているのだ。
「・・・分かった」
だからナイトはそう決断するしかなかった。 するとランスは嬉しそうに笑う。
「やっと俺に並んでくれたな」
「うん」
ナイトはランスに言われて隣に立つことの意味が理解できた。 引き立てるということは、相手のことを信頼していないということだ。 自分がそうしなければ活躍できないなら仕方がないが、ランスは違う。
ランスからしてみればナイトの好意は自分に対する侮りにも思えていた。 確かに今はナイトの方が実力があるのかもしれないが、それならそうで真正面からランスはナイトとぶつかりたいのだ。
「おーい! お前たちはもう戻っていいぞー!」
ひょうきんな先輩が遠くから手を振りながら言っている。
「俺たち、役に立ったかな」
「十分に立っただろ。 後は先輩たちに任せよう」
「あぁ。 急いで城へ戻ろう」
二人は全速力で城へと駆けた。 今回は誰にも邪魔されることなくすんなりと到着した。 命令違反もギリギリにバレず済むかもしれない。
そのような思惑は城の前に仁王立ちで待つ騎士団長の姿を見て木っ端微塵に砕かれた。
「「ッ・・・!!」
―――こんなに早く見つかるだなんて・・・。
二人は騎士団長の前で足を止め深く頭を下げた。
「「申し訳ありませんでした!!」」
「どうして待機命令を出したのにもかかわらず、城を抜け出したんだ!」
見つかれば脱走したことを責められるのは分かり切っていたことだ。 騎士として未熟な者が現場に出れば、下手をすると味方の足を引っ張ってしまう可能性もある。
言い訳の余地はなく答えないでいると騎士団長が言う。
「理由を言え」
ナイトは顔を上げ母が心配だったことを話そうとした。 だが先にランスが頭を下げたまま口を開く。
「俺がナイトを誘ったんです!」
「え、ランス!?」
「自分の家族が無事に避難できたのかが心配で、見に行ってしまいました!」
今度はランスが嘘をついてくれた。 確かにランスに誘われたのは事実だが、ナイトの母の様子を見に行こうという誘いだった。
―――ランス、どうして・・・?
先程ランスと対等な立場になったことを思い出す。 今感じている感情は先程ナイトがランスを庇った時にランスが感じていたものだ。 嘘をついて庇われるのは対等な関係ではない。
ランスはそれを分からせてくれているのだろう。 騎士団長はそれを聞き溜め息をついていた。
「全く、新人のくせに出しゃばりやがって。 本来ならここで合格を取り消すところだぞ!」
「「はい・・・」」
騎士団長が目を瞑ったのを見て生きた心地がしなかった。 覚悟はしていたが、現実に目の当たりにすれば後悔が勝っている。
「だがまぁ、二人の活躍していた姿は俺も見ているからなぁ・・・」
その言葉に二人は顔を上げ騎士団長を見る。 見られていないと思っていたのは自分たちばかりだった。
「新人の中で、ああも動ける奴はなかなかいないだろう。 理由も家族を助けるためだった。 市民からの人気も高かった。 お前たちをクビにすれば擁護する者がたくさん出てくるかもしれん。
ただし、命令違反は明白で一方的に庇うことはできん」
ナイトもランスもどんな処分が下っても仕方ないと思っていた。 騎士団長という立場からしても、ここで甘い顔をするわけにもいかないはずだ。
「ランスとナイト!」
「「はい!!」」
「命令に違反したお前たちは、一週間臭い臭い第三棟の便所掃除を行ってもらう!!」
「「ッ、はい!!」」
「覚悟しておけよ? お前たちは知らないだろうが、あの匂いときたらどんな戦場よりも・・・。 っと、とにかく反省しろよ!」
何とか合格を取り消されることだけは免れた。 だが今回の件で評価が下がったのは確かだ。 これからは一生懸命稽古に励み信頼を取り戻さなければならない。
「お。 お前たち、まだここにいたのか」
「あ、先輩・・・」
その時ひょっこりひょうきんな先輩も戻ってきた。
「何だ、お前たちはコイツと知り合いなのか?」
騎士団長はナイトとランスに向かって言ったが、何故かひょうきんな先輩が笑顔で食い付く。 二人のシュンとした顔を見て、どのような状況なのか分かったのだろう。
「団長! 俺がコイツらに一緒に戦えって言ったんだよ!」
「何?」
その言葉に騎士団長はギロリとひょうきんな先輩を見る。
「やはり俺は見る目があった! この二人の実力は相当なものだったぞ! 団長は見ていなかったのか?」
呑気にニコニコしている先輩に騎士団長は激怒する。
「全てはお前のせいだったのか!」
「えぇ!?」
「ならお前も罰として便所掃除だ!!」
「そ、そんなぁ! 団長、それはあんまりだぁ・・・」
騎士団長は背を向けここを離れていく。 ナイトとランスは何も言えずに見送っていた。 その時騎士団長が去り際に言った。
「・・・あとその新人二人を姫の近衛にするから、面倒も見てやってくれ」
「「ッ・・・!?」」
二人はその言葉に顔を見合わせ喜んだ。 ひょうきんな先輩はかなりの実力の持ち主で姫の近衛の騎士だったのだ。
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