騎士の引き立て役⑩
そのような迷いがあっても実際に自分たちが巻き込まれてしまえばどうしようもない。 強盗は今の騒ぎを聞き付けたのか、人数を増やしてやってきている。
「見つけたぞ!」
のんびりしているうちに新たな強盗が加わっていく。 ナイトとランスは何も言わず互いに頷いてみせた。
―――戦い方はいつもと変わらない。
ナイトはランスをなるべく引き立たせるよう戦うことにした。
「俺は裏へ行く! ランスは表を頼む!」
「・・・」
そう言うも何故かランスはすんなり動こうとしない。 モタモタしている暇はないが、意志疎通ができていなければどんな大事が起きるのか分からなかった。
「・・・ランス? どうかした?」
「・・・まぁ、別にいいけどさ。 ナイト、後で話があるから」
「?」
ランスは静かに呟くと表へと出ていった。 早速戦闘が始まり、金属同士を打ち鳴らす音が聞こえてくる。
―――ランスの奴、どうしたんだろう。
「ナイトも早く動け!」
「あ、分かった!」
悠長に考えている時間もなくナイトも戦闘に加わる。 今までに経験したことのないくらいの人数でかなりの体力を消耗した。
―――ここまで動ける自分に驚いているけど・・・。
―――ッ、流石にそろそろキツい!
戦っていると黄色い声援が聞こえてくる。
「いいぞー! そこの少年、もっとやれー!」
「強盗を懲らしめてー!」
―――何だ?
チラリと声の方を横目で見る。 多くの人の目に付くところでランスは戦っていた。 それを見ていた町の人はランスを応援している。 どうやら新人のヒーローだと思われているようだ。
―――ランス・・・。
―――うん、やっぱりランスはこうでないと。
その光景を見てナイトは素直に嬉しく思っていた。 ランスはナイトにとっても未だにヒーローなのだから。
―――俺も気を引き締めて頑張らないとな!
ナイトはあまり人がいないところで強盗を次々と倒していく。 経験を積めば積む程疲労なんてまるでないかのように容易く強盗を倒せるようになる。
人数は多くても所詮は正規の訓練を受けていない荒くれもの。 腕っぷしは強くても所詮それだけだ。 しばらく戦った後ようやく周りが落ち着き始めた。
「はぁッ、はぁ・・・」
ほぼ体力がなくなり疲れ果てた。 殺さないように戦ってきたために、余分に体力を消耗している。 地面には転がっている強盗がたくさんいるが、ナイトの思惑通り誰も死んではなさそうだ。
―――俺はここまで戦っていたのか・・・。
身体を休めているとランスが戻ってきた。
「ナイト! 大丈夫か?」
「あぁ、ランスもお疲れ。 あまり疲れていないだなんて流石だな」
「そんなことはないけどな」
何故かランスは少し寂しそうな目でこちらを見てきた。
「・・・どうした? あ、さっき話があるって言っていたけど何の話?」
思い出したことを尋ねてみた。 ランスは複雑そうな顔をして言う。
「・・・ナイトさ。 俺の気持ちも分かってる?」
「え?」
「俺、さっきリンチされた時の戦いで気付いたんだよ。 ・・・今のナイトは、俺よりも強いということに」
「ッ、そんなわけがないじゃないか! 実際成績一位なのはランスだって、団長は言っていたし!」
「ナイトが試験本番で本気を出せなかったのは、お母さんが心配だったからって言っていたよな? でも本当は、俺よりも試験の結果でいい成績を取らないよう調整したからじゃないのか!?」
「ッ・・・」
「合格発表の時はそんなこと思わなかったけど、今日のナイトを見ていてハッキリと分かったよ」
ナイトは気まずくなり視線をそらした。
「本気でやれば試験の最優秀はナイトだったんだろ?」
「・・・それは分からないよ。 いくら何でもそこまでは分からない」
「ナイトの気持ちは嬉しいよ。 それに俺自身、騎士としての資格は十分あると思ってもいる。 だけどな? ナイトが不合格になるということは、本来不合格だった奴が合格になったということだ。
今回はたまたまそうならなかったけど、それがどれだけ危険なことなのか分かっているのか!?」
「・・・」
ナイトはランスの剣幕に何も言えなかった。 どう考えてもランスの言っていることが正しい。 だが感情はランスを優先させたいというのが勝っている。
まだナイトが納得しないのを見てなのか、ランスは目の前までやってきて両肩を掴んだ。
「ナイトには俺の後ろじゃなくて、隣に立ってほしい」
「・・・どうして?」
「ナイトはもう守られる存在じゃなくなったんだ。 俺を支える必要もない」
「・・・でも」
「頼むから、俺と対等な立場でいてくれ」
「ッ・・・」
ランスはナイトに向かって深く頭を下げた。 それは親友同士ではなく、対等な騎士としての礼だ。
「正しいと思った自分の意見は、俺が折れるまで貫き通せ。 もう俺を引き立てなくていい」
そう言うとランスは腰を真っすぐにしてナイトを見た。
「ナイトの返事は?」
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