騎士の引き立て役⑨




答えを聞くのが怖かった。 姫様を攫うというのが自分を試す言葉だったのは分かったが、何か他のことを隠すためだったのではないか。 そんな予感がしていた。 

だがどうやら恥ずかしがっていることと、次の言葉からそうではないと分かった。


「・・・ナイトを守るためだよ」

「ッ・・・」


思ってもみなかった言葉に少しだけ動揺した。 だがランスはケロッとした態度で言う。


「そう思っていたけど、ナイトも騎士になっちまったからなぁ。 あぁ、参った参った」

「俺が騎士になったのは、ランスのことを支えるためだよ!」

「・・・え?」


被せるようにそう言うとランスは驚いた顔をした。 これ以上悲しいことで国民を誰一人失わないために騎士になろうとしたのが一つ目の理由。 そしてもう一つの理由はランスのためだった。 

ランスは時間をかけてその言葉の意味を理解すると吹き出した。


「・・・ふッ。 お互い相手のために騎士になっていたのか?」

「そうみたいだな」


―――よかった、ランスを止めることができて。

―――何より、ランスの動機が俺と同じで凄く嬉しい。


笑い合っていると再びアナウンスが鳴った。 一瞬で二人の緊張が高まる。


「何だ?」


アナウンスに耳を澄ますと、どうやら強盗の数が増えたことを知らせていた。


「より騒ぎになってきたな・・・。 どうする? このまま城に戻るか?」

「そうだな・・・。 流石に団長の命令もあるし、これ以上外にいるのも・・・」


真面目なナイトはやはり命令を守らなかったことに重みを感じていた。 だがどう見ても今は緊急事態で、今でも避難して走っている人は大勢いるのだ。


「このまま俺たちだけ安全な場所に戻るとか、折角騎士になった意味がなくないか・・・?」


その場に留まりどうするのかを考えていると逃げ遅れた子供を発見した。


「お母さーん! お父さーん!」


避難の過程ではぐれてしまったのかもしれない。 もしかしたら両親が既に捜しているのかもしれないが、このまま無視するのは流石に気が引けた。


「せめてあの子を避難所へ送ってから考えよう」

「あぁ」


二人の意見が一致し早速子供を確保しにいった。 大声で泣かれると強盗に気付かれるためまずは慰めてみることにする。


「君、大丈夫? お母さんとお父さんは?」

「お外で走っていたらはぐれちゃった」

「避難所へ向かおうとしていたんだ。 その時にはぐれたんだろう」


安心させるようにナイトは言った。


「安心して。 お母さんとお父さんのところまで連れていってあげる」

「本当?」

「あぁ、おいで」


ランスはそう言って子供と手を繋いだ。 三人は避難所へと戻っていくが、到着する寸前に強盗と鉢合わせした。


「ッ、マズい!」

「キャー!」


明らかに異様な見た目に恐怖したのか子供が叫んでしまった。 強盗はその声に気付きナイトたちの方へ振り返る。 ナイトは咄嗟に子供の手を握った。


「俺はこの子を守る! ランスが戦ってくれ!」

「え、俺? いや、ここはナイトが戦った方が」

「どうして俺なんだよ! ランスが戦った方がきっと早いから!」

「わ、分かった!」


ランスは挙動不審な態度を見せるもその指示に従った。 ランスは手こずることなく強盗を退治する。


「凄い・・・!」


子供は感心していた。 どうやらランスの格好いい戦いぶりを見てすっかり泣き止んだようだ。


「何とか一人は倒せたけど・・・」

「おーい!」


声の方を見るとそこにはひょうきんな騎士が一人駆け付けてきていた。


「・・・ナイトの知り合い?」

「いや、知らない人」


新人の集まりでは見ない顔で城の外にいるということは先輩なのだろう。 どうやらランスの戦いを見ていたようだった。


「お前たちも戦闘に加わってくれ! その子供はこっちが預かるからー」


その言葉にナイトとランスは顔を見合わせた。 ランスが代わりに言う。


「あー、俺たち実は新人なんです! 城で待機って言われていて」

「そんなの大丈夫大丈夫ー!」


どことなく頼りなさそうな先輩だ。


「・・・どうする?」


騎士団長の命令は重要だが、ここまでやってきて今更という気持ちもある。 だがこのまま城に戻れば命令違反がバレない可能性は高い。 二人は命令か先輩の言葉を優先するのかで揺れていた。



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