騎士の引き立て役⑧




既に二人の行く手を阻むものはなく、ナイトはランスの手を縛った縄を解いていた。 元々キツく縛っていなかったため簡単に解け、ランスは何か言いたそうにナイトを見ていた。


「どうした?」

「・・・いや、何でも」


ランスは視線をそらした。


「ナイト、ありがとう」


そして地面に横たわっている彼らにランスは言った。


「これでナイトがコネではなく実力で合格したことが分かっただろ? もうナイトにちょっかいを出すなよ!」

「「「・・・」」」


彼らはその言葉に答えるどころではなかった。 もっとも正々堂々(?)と戦った結果のため文句のつけようがないはずだ。


「行くぞ、ナイト」

「・・・うん」


二人は再び城へ戻ることにした。 自室待機の命令は継続しているはずだし、母も無事だと分かった今街に出ている必要はない。 そうなると気になるのは先程のランスの言葉だ。


―――・・・やっぱり見過ごせない。

―――ランスが悪になるだなんて。


だから勇気を出して言った。


「あ、あのさ、ランス。 さっきの話なんだけど」

「ん?」

「・・・やっぱり、姫様を攫うのはよくないと思う」


これだけは譲れなかった。 それを聞いたランスは溜め息をついた。


「ナイトだって、俺の事情を理解してくれているんだろ?」

「うん、ランスの気持ちは分かる。 でもそれでランスの手が悪に染まるのなんて、もっと嫌だ」

「・・・」

「だからお願い。 ・・・姫様を攫わないで」


拒むランスを説得しているとランスは観念したように息を吐いた。


「・・・遅過ぎるって」

「・・・え?」


ランスが何故か可笑しくて仕方がないと言わんばかりに笑い出した。


「ナイト、止めるのが遅いって。 ようやく俺を止めてくれたな?」

「え、何、どういうこと?」

「大切な親友が危険な悪事に足を踏み込もうとしているのにもかかわらず、止めてくれなかったから少しショックだった」


ナイトはよく分からなかった。


「姫様を攫うっていう動機は嘘だったのか?」

「あぁ」

「・・・どうしてそんな嘘をついたんだよ。 普通に信じたんだけど」

「だってナイトは、いつも俺を引き立ててばかりだろ?」

「・・・それは・・・」


その通りのため上手く言い返せずに言いよどんだ。


「自分を犠牲にしてまで俺を持ち上げる。 悪いことは全て自分のせいにする」

「・・・」

「ナイトは真面目だから自分の主張はちゃんとするけど、俺が粘ればいつも折れる。 そうだろ?」


そう聞かれるも何も答えられない。 その通りだが頷くこともできなかった。


「その沈黙は肯定ということでいいのか? 自覚、あったのかよ」

「だって・・・」

「それを俺はずっと心配していたんだ」


ランスは立ち止まって言った。


「どうしていつも、俺を引き立ててくれていたんだよ?」


俯きながらナイトは答えた。


「・・・いじめられていた俺を、助けてくれたから」

「え?」


それは何年も昔のことだ。 父もいて幸せだった幼い頃、ナイトは身体が弱いという理由でいじめられていた。 その時いつも隣にいたランスが庇ってくれたのだ。


―――あの時の恩は、今でも忘れていない。


それを聞いたランスはポカンとした表情で言う。


「・・・それだけ?」

「うん、それだけ。 だけどそれが何よりも嬉しかったんだ」

「・・・」


照れたのを隠すようにランスは視線をそらした。


「昔に俺が庇ったから負い目を感じて引き立ててくれていたのか?」

「そういうマイナスな理由じゃない」

「じゃあ何だよ?」

「何もしなくてもランスは目立っていただろうけど、俺はランスに恩を返したかったから。 だからもっと目立つように引き立てて、こういう形で返そうと思った」

「・・・そうか」


納得したランスにナイトはもう一度尋ねかけた。


「それじゃあ、ランスの本当の志望動機は?」



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