騎士の引き立て役⑦
―――・・・一体何だ?
ランスに目配せをしてみたが、首を横に振っているばかりで心当たりはないらしい。 ニヤニヤと伺うような目付きに不快感ばかりが募ったが、目的が分からないため下手に攻撃はできなかった。
一人、また一人とどこからともなく人が現れ気付けば十人程になっている。
「お前たち・・・」
どうやら彼らは今朝会った昔ナイトをいじめていた奴らと騎士試験に落ちた人たちのようだった。 最初は分からなかったが顔見知りが現れれば分かる。 隣にいるランスが小声で言う。
「流石に二人では、この人数に勝てないぞ」
「・・・」
ランスは今からよくないことが起こると分かったようだ。 試験に落ちた男が二人を囲みながら言う。
「聞いたぞ? お前も受かったんだって?」
まだ公表されていないはずだが、ナイトが受かったことは既に知られているらしい。
「お前だけ特別枠とか卑怯だろ。 合格させた理由は、騎士で有名だった父の息子だったからみたいだし」
―――・・・そう、だったのか?
何故特別枠として合格したのかは知らなかった。 そもそも騎士試験での正規合格者も何故合格したのかなんて明かされない。
ただ騎士試験の結果受かっていたことから推測するしかないし、補欠合格なら理由があったにせよ試験の結果ありきで合格したのだと思っていたためだ。
「俺だってな、大きな夢があるのに何だよそれ。 俺は昔、大事な幼馴染が通り魔に殺されたんだ。 もう大切な人を失いたくないから、強くなって騎士になろうとした」
「・・・」
事情は理解できるが、実力が足りていなかったのだから仕方がないと思う。 だが次の言葉で何故彼が怒っているのか理解した。
「なのに何だよ? お前だけ身分で入るとか卑怯じゃねぇか!!」
壁を思い切り殴る様は本気で悔しがっていることが分かった。 すると今度は昔ナイトをいじめていた人が言った。
「合格したからっていきがるなよ? お前はいつになっても俺たちの下っ端なんだ。 騎士になったからって、立場の逆転は許さねぇ!」
そんな彼らにナイトは静かに言う。
「・・・ランスは関係がないんだよな?」
その言葉に彼らはチラリとランスのことを見る。
「あぁ、そうだな。 文句があるのはナイトだけだ」
「それならランスだけは解放してほしい」
頼むと鼻で笑うように言った。
「ランスだけ解放して告げ口でもされたら、俺たちはもうお仕舞いだろ? それは無理な相談だな」
男たちは武器を手に持っている。 刃物ではないため殺そうとしているのではないのかもしれない。 しかし鈍器でも本気で殴れば無事に済むわけがないのだ。
男たちがやる気ならナイトも無抵抗でやられるわけにもいかない。
「俺がお前たちを一人で倒したら、騎士として十分な実力があると満足してくれるのか?」
「おい、ナイト! 何を言って!」
ランスは咄嗟に止めに入った。 一方で彼らは嘲笑する。
「あぁ、それなら納得をしてやろう。 お前一人で俺たち十人に勝てれば、の話だけど」
「・・・分かった。 勝負しようじゃないか」
引き受けるとグイとランスに腕を引かれた。
「駄目だって、ナイト!」
「大丈夫だから。 ここは俺に任せて」
「二人でも無理だと分かっているのに、一人でなんて無謀過ぎる!」
「やってみないと分からないでしょ」
ナイトはそう言って掴むランスの腕を軽く振り払った。 それを見た彼らは余裕な笑みを浮かべる。
「正々堂々と戦うために、部外者であるランスには手を出さない」
「あぁ」
一対十の状況で正々堂々と口にした彼らに失笑が漏れそうになった。
「ランスも手出しはできないように、拘束させてもらうぞ」
「・・・分かった」
承諾してランスを見ると彼は何か言いたそうだった。 ランスは大人しく彼らに拘束される気はないようなため、ナイトがランスを手出しできないようにした。
「ナイト・・・」
ランスから不安気な声が聞こえてくるのに“大丈夫だ”と目で合図した。 そしてナイト一人対彼ら十人の戦いが始まった。 流石に剣では戦えないため素手で戦うことにした。
「・・・ナイト、やられるなよ」
ランスのその言葉に頷くと同時に攻撃を仕掛けた。 実戦では開始の合図なんてないことは先程の強盗侵入で既に経験している。
もし先程の件がなければナイトも一人で戦えるとは考えなかったのかもしれないし、負けていた可能性は高い。 だが今のナイトは本気で命を狙ってくる相手と対峙し経験を積んでいる。
騎士試験を落ちた見習い以下の彼らや、訓練を積んですらいないいじめっ子たちが今のナイトの相手になるはずなどなかったのだ。 それからの時間はあっという間だった。
攻撃を手甲でいなしては重い一撃を彼らの腹に叩き込んでいく。 意識を刈り取るまではいかないが、悶絶し戦闘能力を奪うにはそれで十分だった。
「くッ・・・! ナイト、調子に乗るな!!」
ナイトは別に調子に乗っているわけではない。 騎士になるために誰よりも訓練してきたナイトからしてみれば、彼らは努力が足りな過ぎた。
いくら十人いても連携が取れていなければただ足を引っ張るばかりでしかない。 ナイトの実力は確かに高いと言えるものだが、相手の実力がお粗末だったということもある。
気付けばナイトの周りは十人が地べたに悶絶して転がっていた。 心臓の音が鳴り止まなかった。
―――俺が今、全員を倒した・・・?
―――やっぱり俺は・・・。
呼吸を整えながら自分の両手を見つめる。
「ナイト、お前・・・」
ランスは心配そうな表情をしていたが、ナイトの見事な戦いを見て驚いていた。 それはナイトも同様だった。
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