異世界に転移したら北痘神げんこつ全勝者というジョブが付いてた

@pirororo

第1話

side蓮見



通学途中の電車に乗っていたはずだったのだが、いつのまにか俺達は森の少し切り開かれた場所に倒れていた。

男は俺の他に5人、女は2人。


「なんだこれ?どうなってるんだ?」


俺の他に意識を取り戻した眉間に黒子がある男が口にした。


「分かりません。気付いたらここに倒れてました」


俺が答えると、その男はこちらに目を向けて少し身を強張らせた。

そりゃ今の御時世、知らない人に声掛けられたら驚くよな…


「そ、そうか。とにかく他の倒れている人を起こそう」


眉間に黒子のある男の名前は森勇者(もりゆうじ)さんと言った。

あ、俺は蓮見健次郎(はすみけんじろう)と自己紹介済みだ。


倒れていた人達とそれぞれ自己紹介し合った後、状況整理をするとこんな感じだ。



蓮見健次郎…俺、20歳大学生

森勇者…眉間に黒子の男、32歳会社員

長継(ながつぐ)レオ…ガタイのいい男、26歳無職

慈下時夫(じげときお)…華奢な男、24歳医療系大学院生

白崎修一(しらざきしゅういち)…目の色素が薄い男、29歳会社員

坂東正義(ばんどうまさよし)…片目が隠れる長さのボサボサ頭、16歳高校生

五條百合奈(ごじょうゆりな)…髪の長い綺麗な女性、19歳短大生

桃福(ももふく)リンネ…ショートカットの女の子、14歳中学生


この8人だ。

坂東君曰く、俺達はどうやら異世界に転移したらしい。

長継さんが何を馬鹿なと言うのも束の間、このあと空中に現れた神を名乗る子供にそう告げられたのだ。

神は言う。


『プライベートウインドウを開いて自分のステータスを見てごらん?』


まるで流行りの転移小説のような展開に胸を躍らせたのも束の間、ステータスを見て皆がどよめく。


蓮見健次郎[ケンジロー]


STR100

AGR100

INT100

VIT100

DEX100

LUK100


ジョブ:北痘神げんこつ全勝者


スキル:【シューウイげんこつ】【あたくさんたくさん…たくさん継続する】【広州a】



なんだこの意味のわからんジョブとスキルは…


俺が声をあげようとすると周りから先に声が上がる。


「神様!私【豚】ってどういうことなんですか!?」


最初に声を上げたのは五條さんだ。え、豚なの!?


「待って!?あたし【ほぼ目玉の親父】ってなってるんだけど!!」


次に声を上げたのはリンネちゃんだ。いやいや親父て…


他にも森さんは【ナム豆鳳凰げんこつ】、長継さんは【世紀末敗者】、慈下さんは【朱鷺】、白崎さんは【ひつきぼしの白鷺のにぎりこぶし】なのだそうだ。坂東君は俯いて震えているだけで不明だ。

神は言う。


『いやぁ、君達の居た国で流行ってた動画が面白かったからさぁ、名前が似た人集めて再現したんだよねぇ。この先は君達の自由にしていいからさ、僕を楽しませてよ!」


そう言って、神様は消え去ってしまった。


俺達はしばらく呆然としていたが、とにかく現状把握をして、生きる為に行動を起こさなければならないと、各々動き始めた。




しばらく経った後……






side坂東


やぁ、僕は坂東正義。よくわからないけど異世界に転移したしがない少年だ。異世界転移と聞いて心躍らせたのも束の間、僕に与えられたジョブは【ボールの棒】。もはやジョブでもなんでもないよね。でもこれって多分よくある不遇系成り上がりのシチュエーションだよね?役立たずって追放されてさ。

2人だけいる女子勢もなんか役立たずっぽいし、両手に花で追放されちゃうのもアリ寄りのアリだよね。


って冗談はさておき、僕はこの元ネタを知っている。夜中に視聴して笑い転げたのもいい思い出だ。

となると、僕はバットの役。当然スキルは無いし、あの動画でも大したことはしていない。あくまで主役は蓮見さんと森さんと長継さんだ。

この三人が闘うシチュエーションは現時点で避けなければならない。


幸い近くに湧水が湧く水場があるので、ライフラインは確保出来ている。

あとは火や住居、食料の確保だが、食料は先程森さんが鹿のような生き物を「得るや否やぁ!」と叫びながらスキルで狩ってきた。首らへんをズブシューって斬ったみたい。ちゃんと血抜きされてたから流石としか言えない。

異世界とはいえ、魔物とかがいるかもしれないけど、今のところは見かけていない。


住居も蓮見さんの【シューウイげんこつ】や森さんのスキルで木を切って確保してきている。丸太にして小屋を作るらしい。

火は慈下さんの趣味がソロキャンプらしく、火おこし機を作成して火を確保した。至れり尽くせりだ。


長継さんはガタイの見かけとは裏腹に手先が器用で、食器なんかを木で作成すると張り切っている。


今のところ何も出来ていない五條さんと桃福さんと俺は雑用を買って出て何か出来ることをやっている。


皆が皆、変な性格をしていなかったのは僥倖だ。不遇なジョブだったけど、とにかく前向きにやっていこうと思う。











って、無理だろおおおおおお!!

なんなんだよこれ!なんなんだよ!!


こんな異世界転移あるかああああ!!!


何が【ボールの棒】だよ!ネタとかふざけんなよ!!




って、一人悲嘆に暮れていると、桃福さんが長継さんの作ったマグカップに水を汲んで差し出してきた。


「坂東さん大丈夫?お水、飲む?」


心配そうな桃福さんの眼差しに、僕は心配ないと応える。


「ありがとう」


桃福さんの後ろで蓮見さんや森さんがスキルの練習をしている。


「広州ぁ!」

「無駄でしたのぉ〜」

「あーたくさんたくさんっ!!」

「決定的な一撃!kenshirouでぇぇーす!」

「北斗星の神のこぶしの奥深い意義の日の足が不自由な人は生んで殺します」

「退きません、こびへつらいません、反省しません!帝王に逃走はないことだぁぁ!ぅあのようにぃぃ!」

「あのようだぁぁ!あーたくさんたくさんたくさん…たくさん経過するぅぅ!!……北斗っ有情メンっ飛行をちょうど!」


耐え切れなくなった僕は飲みかけていた水を盛大に吹いた。

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