第3話

はぁ~今日の1日は何だったんだ?

トメさんの用事が終わって畑を耕して…

でもそんな事より源さんに話を聞いてみたい




「初めて村に行った時、何があったんですか?」





またまたドストレートな質問




「ハッハッハッ!それ聞く?」




源さん、嫌どころか何だかたのしそう




「あの時ね~僕はこの土地のブランド名だけが欲しかったんだよね~。◯◯産みたいな。出来た物がどんなものであろうと関係なかったんだね。しかもどんな製法でも無農薬や有機野菜として売っても消費者には解らない。ブランド名さえあれば消費者は飛び付く。内容なんて解りはしないって思ってたんだよね。」




あんた案外悪徳やったんやね




「それを村長に悟られてしまったんだね。怒鳴られたね~村長に。体に入るものを何だと思ってるんだ!って。僕はその時に何を怒っているのか解らなかった…お金になればそんな事どうでも良かった。」




あんた案外悪徳やったんやね(再掲)




「その時ね、僕の車が故障で使えなくなって。帰れなくなってね。タクシー呼んで!とかヘリ呼んで!って案外無茶な事言ったっけ(笑)しまいには歩いて帰ると。かなり無茶だよね~(笑)」




あんた、無茶苦茶やな(そのまま)




「その時に雨降ってきて、歩いてたんだけどかなり激しくなってきて。少し熱っぽくなってきて…そんな時に通りかかったトメさんに声かけてもらって。」




人に迷惑もかけてるんやね




「トメさん家に泊めてもらってね…温かいお風呂に入れてもらって…トメさん何にも言わないんだ。翌朝トメさんのご飯と味噌汁食べてたら、何だか涙が出てきて。本当に美味しかったから。何だか体が、細胞が喜んでいる気さえしたんだよね。トメさんニコニコ見てるんだよ」




トメさん凄いな




「トメさんからね、この村の野菜はみんな一生懸命作ってるんだと。昔から薬は使わないから手間がかかるんだと。大事なのは土地。見えているところじゃなくて見えない土の中が一番大事なんだよって言ってた。」




源さん曰く、トメさんは人生の師匠なんだと。大事な事に気づかせてくれたって。まあ以前が酷すぎるけどね。




ーーーーーーーーー

「珠世!珠世!聞いてる?ねえ珠世!!!」




彼女は加藤なつき。SD1…つまり営業部の同期




「私の話聞いてる?だから、今付き合ってる巧の事なんだけど!」




「え?巧って奈良巧?あんた達付き合ってたの?」




奈良巧 SD1の営業で同期

なかなかスカした奴だ

って事は社内どころか部署内恋愛どころか同期恋愛か?へっ~




「へっ~って、最初から言ってんじゃん。飲み始めて1時間だよ!んもう、何聞いてんだか」




加藤なつきから夜会わないかって誘い

私は畑帰りもあり、モヤモヤを払拭したく賑やかな大衆居酒屋を指定。でも、畑の事が頭から離れない

しかしこいつも読心術を会得してるのか?いやいや、簡単な話、顔にモロ出ちゃってるのかもね…




「だから巧がね、趣味とか性格も案外合ってると思ってたんだけど、何だか会っているうちに違うかなって…珠世どう思う?」




そんな事知るかよ!違うんなら違うんじゃないの!




「誰しもそんな時あるんじゃないの?巧はまあまあイケメンだし、趣味も合うんなら楽しいじゃない…」




ああ、気持ち0のコメント。自分でも嫌になる




「でもね、仕事が押して約束が無しになるっていうのは良いのよ。でもその後何かフォローがあっても良いんじゃない?LINEくれるとか…そんな事もないんだよ。レストラン行ってもさ、オーダーしたのと違う料理が来たんだけど、作り直して下さいって。お腹空いてたからなんでも良かったんだけど…」




ああ、良くある痴話話ね




「男ってそうじゃないわけ?ツンデレが良いと思ってたり。その方がモテるって勘違いしてる奴もいるんじゃないの。あとハンバーグが食べたくて入ったお店でロールキャベツ出てきたらやっぱり嫌じゃない?別に変じゃないと思うけど。」




私、もともと男目線っていうか、女子聞きが出来ないんだよね。頷くだけ不可女子なんっすよ




「そんな事言って珠世はどうなのよ!好きな人に全く不満は無いわけ?許せちゃうの?」




許せるもなにも、今彼氏いませんし

知ってて言ってるのかこの野郎!




「いなくても気になっている人とか…」




また読心術か??

でも?!えっ!

何で源さん浮かんでくんのよ

いやいや、軽いノイローゼか。

畑ノイローゼの結果か?

ないない、源さん?社長?ないない

そんな流行りのドラマじゃないんだから




ーーーーーーーーー




プップー

「おはよう!!」

今日も元気なプリウス君…ではなく源さん。




「今日のみんなのご機嫌はいかがかな?(笑)」




みなさんお察しの通り“みなさん”というのは彼の場合、畑さんの事なのである。もうこのやり取りも慣れてきた。道すがらの車内、他愛のない話も出てくる




「佐藤さん、趣味とかないの?」




お見合いかい?あんた




「いや~私は特に…」




「僕はね!今は畑がなんと言っても~!!」




お~い!その話したかっただけなんかい!!!こりゃいかん。切り返さないと…




「い…いやいや、ありますよ!お酒ですかね。この前も同僚の恋ばなを聞かされて…」




ひぁ!勢いでありきたりな…本当に下らない事言っちゃった。




「へぇ~そんな話するんだ!佐藤さんの話?佐藤さんの彼ってパワフルそうだもんね~。だってそうじゃないと佐藤さんの圧力で消えちゃうもんね~ハッハッ!」




源さん、セクハラ系パワーワードもなんのその。全開だよあなた…




「いやいや私の話ではなく同僚…友人の悩みを聞いていてですね…」(って話聞いてないんかい!)




私は頼りになる女なのよ…先日のなつきの相談にもちゃんと?乗ってたんだから!




「ふ~ん…趣味は合うのに何だか合わないか…」




また読心術!って私が少し勢いでペラペラ喋りました。




「何か解るような気がするな…畑でいうと…」




また畑か!




「趣味とか趣向なんかは目に見えて解りやすい物でしょ?キラキラして見えるっていうか…当然飛び付きやすいんだけど、本質はそこじゃない。」




なんだか変な話になってきた?




「本当に大事なのは土の中、人間でいえば目に見えないところなんだと思うよ。つまり、マイナス部分の感情が大事っていう事」




更に解らんか




「簡単にいうとね、電車に乗ってて優先座席に彼が座っているとする。前におばあさんが立っても譲ろうとしないとか…レストランでお店の人を呼ぶときに横柄だったりとか…何を言いたいかっていうと、“無意識な嫌な部分の感情が一緒かどうか”が大事じゃないかって事。あ~こういう時にこんな事する人は嫌だなとか、こういう態度は失礼だと思うなっていうマイナスの部分…つまり見えない土の中が一緒じゃないとどんなに見た目が良くても必ずよい結果は生まれない。大事なのは土の中って事」




な~る~ほ~ど~ね~




「良く趣向があうとかいうけどそれもどうでも良くて。和食が好きな人が洋食を好きな人と出会ったら、趣味は合わないよね。でもその人と付き合うと好きな物が2倍になるかもしれない。自分の世界を拡げてくれるかもしれないって考えたらその方がワクワクしないか?土の中がしっかりしていればどんな物でもちゃんと育つんだよ。趣味がない人でも2人で育てていけば良いわけだしね」




何だか妙に説得力がある。源さん、楽しそうだけど何だか悲しそう?




ーーーーーーーーー




「いゃ~ちょっとそれは…いゃ~…」




「僕は一向に構わないけど…ね!」




ね!じゃないわ!なんでそんな事に…




今日は天気問題なかったはずだけど、折からのゲリラ豪雨で土砂崩れがあって。




「明日の朝には復旧するから今日は泊まっていきなと…」




そんな村長からの電話




「はい」




まあしゃあないか




「トメさん、会合に出てて(この場合の会合というのは茶飲み話である)雨で帰れなくなったから竹下さん家に泊まるって。なんだかプチ旅行みたいって喜んでたみたい。あの人子どもみたいだよね~」




「はい?」




「トメさんから好きに使っていいから楽しんでって言ってたボ」




「あの?何言ってんすか?ねえ村長!しかも最後のボって何?ボって…村長!村長!」




プープープー




完全に楽しんでやがる




「源さん、泊まっていっても良いみたいなんですけどトメさん帰れないって。ねぇ…いゃ~ちょっとそれは…いゃ~…」




「僕は一向に構わないけど…ね!」




ああ、この人に聞いたのが間違いだった。

まあ会社の人だし村の人もみんな知っている訳だから問題ないか…気持ち切り替えて農村家を楽しむか。もう夕方時だからご飯を…ってやっぱり私が作らなきゃいけないんだろうなぁ~って




「源さん何してるんですか?」




「えっ?夜ご飯」




あんた何で急にエプロン姿になってるのよ。しかも素早いし…似合ってるし…




「あ…て…手伝います」




先手を打たれた!挽回しないと!




なかなか風情のある土間?

キッチンはやはり広々

お鍋も何もかもが大きい




「そこの野菜を切っといてくれる?」




源さんシェフの指示

まな板の上には新鮮な野菜

ホントにキラキラしている

これが本当の野菜なんだなぁ~私…今まで何食べて…




「キャ!」




あ~ら、言わんこっちゃない

ぼっ~とする癖

やっちゃった!ちょっと切った!

でもこのくらいの傷…大丈夫!手伝います




「ちょっと見せてみて」




えっ…あっあっあっ




ぐいって手を持たれて一瞬で消毒→処置。あんたは…




「はい完了!馬鹿だな~気を付けろよ(笑)」




(笑)って…子犬の様に頭ぐしゃぐしゃにされる不甲斐ない私。もうもうもう挽回するしかない!

気を取り直してまな板に向かうぞ!




「あ~それじゃまた指切るよ。あのね…」




えっ?源さん?

私の背中から重なる様に両手を持って、一緒に包丁を…




「左手は猫の手で…包丁は線に添ってね…」




ドキッ…ドキッ…ドキッ…ドキッ…ドキッ




何この感覚?源さんの言葉が聞こえなくなるほど心臓が…。何?風邪ひいた?私…

しかも源さん…良い匂い…




「あっあっあっ有り難うございます」




ひとしきり大声でお礼を言うのが精一杯だった。




ーーーーーーーーー




夕食は野菜たっぷりの豚汁

菜っぱのお浸し

野菜のグリル(これは野菜を焼いただけのスペシャルな逸品。当然私の作)




「どうせだから…あれも頂く?」




源さん…それは…

トメさん大好きなお酒のコレクション

純米大吟醸!




いや~それはいくらなんでも…

泊めてもらって食材まで…




「美味いな~この日本酒!」




も~飲んでんのか~い!って

人の話を聞きなさいよあんた!

まあ酒の席だから、この際普段聞けないことでも聞くか




「源さん彼女とかいるんですか?」




我ながらメジャーリーガー級の直球勝負




「最近は畑の事でいっぱいでね」




むむ、返事になってない。まあ良いか。




「佐藤さんは好きな人いるの?」




待ってました!礼儀は知ってるんですね~

質問したらちゃんと質問を返すんですよ…うんうん!




「実はですね~片想いっていうか。2年先輩の憧れの人はいるんです」




彼の名前は戸賀正

同じ大学でサークルの打ち上げて知り合った

っというか…見た…だけ…

私はいつも見てましたよ

でもあちらは…知らないんだろうなぁ~




「へぇ~…で、告白でもするの?」




いや!源さん飛躍し過ぎ!

ってか憧れでジトーっと見てただけって察しなよ!




「いや、そんなんじゃないんすよ…でも今度、東京就職のサークルの集まりで先輩も来るみたいで…」




少し赤ら顔。

お酒ではなく、かなり恥ずかしい話




「でも、好きなら伝えないと…男は勘違いも良くするけど鈍感だからさ」




むむむ、まて…何か興味深い事を話し出したぞ




「男に告白させようとか、振り向いて貰おうとかいろんな手を駆使しているうちに、誰かに取られちゃうよ。趣味が合わないとか好みが…なんて考えてる暇があったら想いを伝えないと…」




元々男目線の強い私には心に迫るお言葉




「な~んてね。実は全部僕の失敗談から来るお話」




源さん苦笑い




夜も更ける




ーーーーーー

農村の朝は清々しい!

空気がうま~い!

ってもう11時間じゃん!

遅刻~って、今日は土曜日だった

てか社長一緒なんだから遅刻も何もないか




ブロン…ブロン…




何だか車の音?それも何台も

そっか!!道開通したんだ!

それにしても威圧感のある音だね~




ドンドン…ドンドン!

「市川さんおられますか!?」




何?市川?トメさんの事?




一先ず出るしかないか

不法侵入じゃないことをせっかくしないと




「あ…はい…あの~トメさ…市川さんは昨日会合で…」




しどろもどろで苦しい説明をする不甲斐ない私




「涼子…やっぱり来たか」




私の背後から源さんの声

え?今涼子って言った?




車から降りてくる長身の女性

明らかに異質な人。美しさ?いや威圧さがあるというか




「やはりあなただったのね…藍…」




「待ちくたびれたよ。恋い焦がれるってこの事だね」




「ふざけないで!」




えっ…何だかこの人達、知り合い?

どういう関係?




その時スーツ姿の男性が間に割って入る




「君たちには用はない。部長は市川様とお話があってはるばるフランスから来られた。市川様はどちらに行かれた?」




なんだこいつ?

今から話がヒートアップしそうなのに

まあイケメンちゃイケメンか…




「あの~さっきいいかけたんですけど!会合でね!てかあなた名乗るくらいしなさいよ!」




スーツ男に一発かましてやったわ!

いや~どうよどうよ!

てか、ポカーンって何よそのリアクション

私の威勢の良さにびっくりしたか?びっくりしたか?びっくら小吉か?




「珠世?」




「えっ?」




「佐藤珠世?」




私夢の中にいるんですか?

目の前の人、見たことあるような!?




「戸賀…先輩…」


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