第2話

今日はメインの仕事場?になる場所の下見だけ。社長…源さんの車に同乗させてもらって東京に…いやいや自宅に帰る事に。なかなかややこしい。そろそろ整理しないと自分でも解らなくなる。

ちなみに社長の車はプリウス。なぜか「プリウス君」と呼んでいるらしい。なかなかかわいい奴だ。




「どうだった?素晴らしい場所だったろう」




社長ちょっと自慢気




「でもどうしてあそこが最先端なんですか?」




社長の説明はこうだ




「最先端ってさ、テクノロジーの分野だけみたいに思われているけど、実はそうじゃないわけ。ネットやAIの世界だけが全てではない。それらはあくまでもツールであって本質的なものではない。」




なかなか難しい…




「少し前から欧米のセレブの間でスポーツミックスっていうファッションが流行ってるでしょ?」




そういえば、そんな事ざっしで見たな~




「スポーツブランドとラグジュアリーブランドのミックスコーディネート。これってただ物珍しいから流行ったんじゃなくってスポーツジムの需要が非常に高まった。ジムに通うのにただのジャージではお洒落じゃない。この中でスポーツミックスが生まれた。つまりオシャレにジムに通いたいっていうことだね」




なるほど!異業種のコラボが今の流行りって…




「勘違いしちゃいけないのは、ブランドのコラボが重要なんじゃないって事」




早くも小さな芽を摘まれました

撃沈…




「大切なのは通う道すがらのファッションではなく、なぜジムにそれだけの需要ができたか…」




ふむふむ…




「それはね…」




ふむふむ!!!




「着いたぞ」




言わんのか~い!!!




道半ば、ゴールを目の前にして「それは第一ゲートでして~」って言われたかの如き無力感




「有り難うございました…」




社長とプリウス君にお礼を言い、トボトボと家路に向かう私…佐藤珠世




ーーーーーーーーー




ああ、昨日のあれは何だったんだ?

また2週間後にあそこに行かなきゃなんない

しかし本質って?




今日は丸の内のオフィス

やけに高層のタワービルの28階に私共の会社はありまして…




早くエレベーター乗らないといろんな会社の人が入り乱れて大変な事になっちゃう!




6基あるエレベーターのうち1基が1階に到着した。雪崩れ込む各社の社員




ふっふっふっ…解ってないわね~

行きなさい!詰め込むだけ詰め込みなさい!

あと20秒で実はもう1基降りてくる。快適な条件で私はエレベーターに乗るのよ!




そうこうしているうちにもう1基が降りてきた。エレベーターフロアに残っているのはわが社の社員がほとんど。さすが最先端の会社!抜け目ない。

でも昨日の答えは何だったんだろう?

ちゃっかり余裕でエレベーターに乗り込み

ぼんやりと扉が閉まるのを見ていた私の視界に猛スピードでこちらに向かってくる人影を発見する!

スーツ姿のその男はどこかで見たような…




なんとか滑り込みセーフ!




「おはようございます…社長」

「おはようございます~源下社長!」




皆がにこやかに挨拶




えっ?おっ~!!!!!




「あっ!源さん!」




私は思わず声を挙げる

一斉に一番後ろに立っていた自分に全員の視線が向けられる。




「あの、源さん!昨日のことなんだけど…」




しゃべりかけようとしたその時




キッ!!!!!




言葉の途中で全てが凍りつくような視線を源さんから浴びせられる




エレベーターを降りる一瞬にその意味がわかった




「丸の内では…社長だろ!」




ーーーーーーーーー

朝から営業はバタバタしている

ここではSDだっけ…

なつきも…資料持って走り回ってる!

仕事してるって感じ…




だのに私は…




な~んに~もし~てい~ない~!!!




デスクはあるわよ

SDの皆さんとパーティションで区切っただけのスペース。

だから辛いんだってば

この落差!




そう思った瞬間、内線電話がなる




「秘書室です。30分後に社長が研究施設を視察されるとの事です。同行するようにと…」




げ!研究施設って?!

とうとう今回のシークレットプロジェクトの全貌が明らかになるのか?国家を揺るがすような最先端の研究が!ドラマの様な衝撃が待っているのか!!




ぷっぷー

地下の駐車場で待っていると社長専用のゴツい外車(名前はわからん!)ではなく、見たような車が…ん?あれは?




「お待たせ~」




げっ!社長!!




「し…失礼します」




いそいそとプリウス君に乗り込む私




「社長、本日は研究所の視察との事で…」




言いかけようとしたとき




「ああ、源さんで良いよ、源さんで!」




えええ!もう意味解らんがな!

あんた朝私を睨み付けたがな!

2度と呼ぶなって目で見とったやないの!




「今日は畑に行くからさ!」

「え?研究所?」

「畑だよ」

「え?研究…」

「畑だよ」




もう話にならん

これが社会人の辛さか

しかしこの格好で…




私は丸の内女子を意識し、なかなかイケてるコーデをしたきたつもり。それなのに…




「着替え、後ろにあるぞ!」




あるぞじゃね~わ!

心の声が聞こえるんか~いあんた!

しかも麦わら帽子まで…




てか、なんでそんなにニコニコしてんのかい?

あんたバッチリ農家ファッションじゃない!

さっきの高そうなスリーピースのスーツはどないしたんですか?

鼻歌歌ってるしね…




「昨日の話だけど…」




ああ…昨日の核心のお話の続きか!




「どこまで話したっけ?」




おいおいおい、ジムの需要だよジムの需要!

忘れたんかい自分の話




「あっそうか、ジムの需要ね」




むむむ…本当にこの人、心が読めるんじゃないの?




「いままでアクセサリーやインテリア、目に見えるものにお金を使っていたセレブがその先を見出したわけ。つまりファッションも素敵なライフスタイルも、《健康があってからこそ》というベーシックな事に気づき出した。」




ふむふむ




「ジムは大盛況。テレビもネットもジムを使った番組を作り始めた。ダイエット番組も山の様にある」




ふむふむ




「その中で更に大事な事に目を向けようとする流れが出来つつある。それは食事」




ん?それは今までもあったんじゃない?




「それは今までにあったダイエット食の様なものではなく…」




また出た!読心術!!




「体に入る物…という基本的な視点からみた素材の安全性や大切さ。今までの大量生産大量消費の薬品を使ったそれではなく、手間がかかっても安心安全なものを提供する。そんな当たり前だけど何より大切な事…それが…」




「最先端!」




思わず叫んでしまった。

少し私恥ずかしい…




「最初はそんな事考えてたんだけど…」




ん?




ーーーーーーーーー




「源さん悪いね~、村長が変な電話するから…」




この人はトメさん

本名は…知らない

でも何故か皆がトメさんと呼んでいる




「大丈夫?トメさん。あと俺がやるから…」




トメさん昨日畑仕事中に足首捻っちゃったらしい。せっかく出荷準備が出来たのに、馬鹿だよね~って村長が源さんに電話をしたみたい。




村長は言うまでもなく、トメさんにこっぴどく叱られている。

でも…




トメさん微笑みながら源さん見てる

トメさんを見ている源さ…社長もなぜかニコニコしている。




君たちは親戚か?気心の知れた親戚か?




トメさん、私の表情を察したのか…




「もちろん源さんとは何の関係もないよ」




あんたも読心術なのか~い!




「最初に源さんがここに来た時はゴツい外車かなんかで乗り付けてね。お付きの人も数人いて…」




トメさん懐かしそうに続ける




「村長と大喧嘩よ!ハッハッハッハッ」




へ?ハッハッじゃないわ

どういう事?




「最初源さんはここの農地全体を買おうと思って来たみたい。来て直ぐに村長にお金を積んだらしいの。ここを全部買うとね。」




ちょっと源さんのイメージと違う?




「最初は全く笑わなくてね、源さん。」




え?今のニコニコは?




「お金出すから全部買うと。村民の移住費用も出すからと。ここを大きな商用農場か何かにしたかったみたい。お金は言い値で出すと。でも村長、ご先祖さんから受け継いだ土地を簡単には渡せるか!って怒っちゃって…でもね、村長帰って来てさ…もったいなかったかなぁ~って落ち込んでるのよ~笑うでしょ!」




笑うでしょ!じゃないわ

私が思う嫌な大企業じゃない




「その後も大分強引な話もあったみたい。まあ大きなところにはかなわないよね~…」




そんな話をしていると、噂の村長登場!




「いやぁ~トメさん良かったなぁ~」




村長が言うやいなや、トメさんの一撃




「余計なこと言って~!!もう村長はいつも他人を巻き込んで…!この前の会合の時も…」




トメさん、とうとう本題を外れ遠くへ行ってしまった

お~いトメさ~ん!!




「いやいや参ったね。でも今、源さんの話してなかった?」




村長、トメさんの話聞いてあげなさいよ




「そんなんです、源さんが最初にここに来た時の…」




村長ニコニコ




「ああその時ね。源さん…完全に買ってやるモードだったねぇ~。大規模な農地にするっていう話を聞いた時もそれも皆の為になるならって少し心が動いたんだけどね。」




やっぱり動くわな。どんな金額か知らんけど、話聞く限りは無茶しそうだもんね




「村長が、先祖から受け継いだ土地を簡単に売れるか!って啖呵きったんですよね!」




私が嬉しそうに話すと、少し村長苦笑い




「まあ…格好良くいうとそうなんだけど、ホントの理由はね…」




核心に迫ったその時…




「じゃあお昼にしましょうか~」




えっ?お昼は嬉しいけど、話の続きを村長…

って、村長!かなりの勢いでテーブルに走って行った。そんなに腹減ってたんかい、あんた

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