恋の水やり…さぼっていませんか?

@yuichi7

第1話


「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ!え?何かの間違いですよね!てか…課長!!!」

「佐藤よ…もう決まった事なんだな~。ここでは決まった事は絶対なんだなぁ~…以上!」




以上ってなによ!いやいやおかしいっしょ。

てかそんな事、あんたの髪型くらいあり得んでしょうが!!!!!




ーーーーーーーーー




チュルッチュルッチュ、チュルッチュルッチュ♪




今日もいつものルーティーン。

朝の定番、カフェモカとデニッシュサンド。

もちろん支払いはプレミアムペイ




私は東京丸の内、「ランディック・インターベンション」の営業担当(仮)、佐藤珠世。




はれて今年の四月からランディックに入社できた。実はテレビで見てたんだよね~この会社。




ランディック=空間、インターベンション=治療。空間想像の造語。今急成長の空間プロデュースの会社なんだよ!実はなんだか良く解っていない。

でもね…わたしはこの「大東京」で最先端の仕事をして見せる!

そう思って入社試験に飛び込んでみたら…

結果は…見事合格!まあやれば出来る子なのよ!!




“東京か~…

クリスマスは表参道のイルミネーションか

南青山のカフェで休日はオシャレランチか

やっぱりスタイリッシュな朝食かな♥️”




でも最初はびっくりしたよね~

いやいや驚くでしょ!テレビで見てたカウンターに並んで注文?するやつ。本当にやってるんだから!

それにトール、グランデってなによ!




高校の時はアイスコーヒー、ガム抜きでって先輩はたのんでたよ!それ格好良くて真似してたんだけど…コーヒーには柿ぴーが付いたんだよね。今考えると笑える




「お待たせしました。アイスカフェモカ、トールサイズで御座います。」




いきなり出された透明のドリンク容器




「どうも」

珠世、ニヤニヤするなよ~。あくまでもクールにだぞ~




高校時代に禅修行で習った無我の境地をベースに、無表情をかなり装う(チーン)。

なんだ?そのモカなんとかって?未だに解らんが響きだけで頼み続けている。動じない動じない。これぞ東京なのだ!




無事に東京カフェデビューを果たし、ルーティン化するべくなんとか2ヶ月が経過した。

良く頑張ったぞ珠世

張り切ってるぞ珠世

でもまだ仕事らしい仕事はしていないぞ珠世




実はまだ配属部署は正式に決まっていない




でも今日決定するんだよね~

脚でも組んだら更にハクがつくか?

第一営業部か?第二営業部か?

私を欲している部署はどこだ!!!




ーーーーーーーーー




「珠世!メールみた?配属先来てたよ!」

彼女は加藤なつき。同期ってやつだ。

屈託のない性格に好感が持てる

ただ、少々天然傾向がある。




「私…私…SD1になったんだよ!あああ…どうしよう!!!」




おいおい、マジか?

ちなみにSDってのは営業の事。

この会社はなんでも横文字が好きらしい。

その「1」って一番の大所帯じゃないのよ!




「良かったね。で私はどこだった?」

「あ!ごめ~ん。自分の名前見つけたらびっくりして、あと見てない♥️」




♥️じゃね~よ!は~い、朝から天然炸裂!!!




じゃあじゃあじっくりメールを見させて頂きますか。




ポチっと




ーーーーーーーーー

SD1

奈良巧

加藤なつき

磯島憲右




SD2

白石瞳

田中了




Agriculture

佐藤珠世




design




ーーーーーーーーー




ん?私…いたよね




ん?Agriculture?




ん?しかも私一人?




なんかスペシャル感満載やんか!

見込まれたか?見込まれ過ぎたのか?

やはり大東京は私を必要としていたのか!




「課長~♥️私の部署って一人なんですかぁ?!」

「あのAGRなんとかってなんなんですか~♥️」




だって会社説明会にもなかった部署なのよ

未来なのか!未来がそこまで来ているのか!!




「…の…」




ん?課長、恥ずかしがらないで…

な~に?




「農…」




ん?




「農業!」




ダッダッダッダッダッ!

宮木課長…全力ダッシュ!

あし速え~~

ソッコーだったね

何だかテレビで見た昔のエリマキトカゲに似てたんだけど。笑える♥️




でもね…どういう事?

聞き間違いですよね?

さ~て、元陸上部の私の足、なめんなよ!




タッタッタッタッタッタッ!!!




ーーーーーーーーー




「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さいよ!え?何かの間違いですよね!てか…課長!!!」




数秒後に捕まえたエリマキトカゲ…

もとい、宮木課長(45)




「なんなんですか、農業って。え?私の聞き間違いですよね?何の説明もないんですか?」




こんなん間違いに決まってるよね~💢




「佐藤よ…もう決まった事なんだな~。ここでは決まった事は絶対なんだなぁ~…以上!」




以上ってなによ!いやいやおかしいっしょ。

てかそんな事、あんたの髪型くらいあり得んでしょうが!!!!!




「課長…課長…♥️私が入社した会社はなんですか~?誰にでもミスってあると思うんです♥️大丈夫ですよ~ちゃんと話聞きますから~♥️」




課長、訂正するなら早くしてよね!




「佐藤…無駄なブリブリは無用だな。決定事項は覆んないんだな。短い付き合いだったが検討…祈る…ぷっ(笑)」




(笑)って…あんた最後笑ったよね!

絶対圧し殺して笑ったよね!




「それじゃ!」

また走ってったよ…




そうして私はエリマキトカゲの後ろ姿を見送った…




ーーーーーーーーー




「な…つ…きぃ~ほげっ。何で私が農業なん?おえっ」

「珠世飲み過ぎだよ。確かにAgriculture(農業)って事だけど…バイオ関係か何かかもしれないじゃない!もしかしたらコンセプトイタリアンのプロジェクトだったりして!」




バタン!思わず立ち上がっちゃった。

なつきは天然だけど、時々良いツボを突いてくる




「そうよね~、何も説明がないっていうことはマスコミ関係にも知られたくないシークレットプロジェクトだからよね!隠密で進められる秘密プロジェクト。だから人員は最小限。だから…」




バタン!




珠世!珠世!




私にしか出来ないプロジェクト…




ーーーーーーーーー




あの~ここって完全に田畑ですよね~




「いいところですよ~空気は美味しいし…昨日なんて白鷺が飛んできてね!」




軽四で迎えに来てくれた素朴なお兄さん。

キラキラ顔で地元自慢も良いけど、ここ完全に田舎ですよね!




「あの~私会社から東京都内だから心配しなくて良いよって言われたんですが…ここどこですか?」




「東京ですよ!そうそう、都内ですよ都内!でも村ですけどね!」




はぁ~キラキラ顔で言われてもね…

それどころかどんどん山に入っていくんだけど!




「もうちょっとで着きますよ!」




到着したのはやけに古そうな古民家

その前に綺麗な畑が並んでいる




「源さ~ん!」




畑を耕しているおじさんに声をかけるキラキラ男子




「おお…もう着いたんですか」




大きなクワを肩に抱え、額の汗を拭いながら手を振る源さん

って誰だか知らないんだけど…




「も~待っておいてって言ったじゃん。いっつも言うこと聞かないんだから源さんは!」




どうも源さん、人の話を聞かないらしい




「ごめんごめん、早く綺麗に並んだ畑が見たくてね」




目の前に綺麗に広がる畑の列




「どうですか?綺麗でしょ?何だかホッとするでしょ!」




何だかパターンの違うキラキラ男がここにいるよ。は~…田舎は男を清々しくするのか。




私はね、スーツ男子が好きなんですよ!ネクタイを弛めて残業したりして…そこにコーヒーなんか差し入れちゃったりしてね

手と手が触れ合ったりしてね

外には夜景が広がっててね




「源さ~ん、今日はおかかのおにぎりが美味しいから早く食べなよ~。漬物もいっぱい切ってあるからね~」




ホッカムリをして集まっていた御婦人方が源さんを手招きしている。




はぁ…私の妄想を邪魔しないでくれます~?




「あ~お腹減った!有り難うね」




大きな麦わら帽子を脱ぎ、埃避けのタオルを外す源さん




ん?案外若いね…

ってかどっかでみたことないかい?あんた




「おかか最高!やっぱりマサさんのおにぎりは最高やね」




顔の汗を拭い眼鏡をかけた源さん




「ちょ…ちょ…社長?!」






ーーーーーーーーー




株式会社ランディック・インターベンション

代表取締役社長

源下藍(35)

25歳の時に株式会社ランディック創業

当初は小さなデザイン事務所だったが、インテリア部門などを買収

33歳の時に社名を

株式会社ランディック・インターベンション

に改名




ああ、なるほど源下で源さんね…

ってちょっと!!!




「社長!何やってるんですか!」

「えっ?君は?」




そりゃそうだ。

面識なんかないし当然話すのもはじめて

しかも本物も見たことなくって、入社式には社長はニューヨークからのリモートコメントだけだったし。眼鏡かけるまでホント解らなかったわ!




てかそんな事はど~でもいい!




「今年入社致しました佐藤珠世と申します!お初にお目にかかります!」




解りやすく頷く社長




「ああ、君が…最先端!」




さ…さ…最先端?

何それ?




「ああ、ごめんごめん。佐藤さんですよね。源下です。ようこそ」




なんだ、普通じゃない。

社長のオーラもないし何だか気さくなおじさんっていう感じ




「社長!ところで…」




「ああ、源さんで良いよ。ここではみんなそう呼んでるから…」




げ…げ…源さん?

八百屋のおやじじゃね~んだから…




「では…ところで源さん!ここは何なんですか?」




素朴すぎる質問…失礼しました!




「全くドストレートだね~。まあとりあえずおにぎり…たべない?」




綺麗なおにぎりが並んでいる

ここまで綺麗に並ぶおにぎりって…

お米の粒がありえないほど美しい




「まあ良いから食べてみなよ」




正直お腹はへってる

いや、それどころかかなり激へりだ




「えっあっ…うま!!!」




煌めくおにぎり

渋すぎるお漬物たち…

良く聞く台詞だ

嘘だ~って思い勝ちな…

でも正直素直な気持ち




うまーーー!!!




「だろ~。」




源さん満足気

なんだかちょっと悔しい




「すいません、もともとのもともとの話ですが、これはなんですか?」




「ん?どいうこと?」




「いやいや、何で源さんが…社長がここにいてこんなことやってるんですか?」




やっとですよ。

やっと核心の話になりますよ




「畑が好きだから?」




はい!答えになってな~い!




「佐藤ちゃんはなんでここにいるの?」




突拍子もない逆質問…

いやいや質問してるのはこっちだし…




「だってエリマキに…じゃなくって宮木課長に言われて…」




「えっ!課長は部署を告げただけで君が望んだんじゃないの?」




何を言ってんだ?源さんは?




さらに源さんは続ける…




「君が入社面接の時に希望したって聞いたけど…」




とうとう幻覚が見えるようになったか!




「源さん…いやあえて社長!私は希望なんかしていません!私はただ最先端の仕事をしたいだけなんです!」




「じゃあ間違ってないよね」




いやいや意味不明だって…




「すいません?…社長?」




「ようこそ!最先端へ!!」


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