聞こえてるけど聞いてない
晴れ時々雨
👾
ケイくんが私の髪をくんくんしだす。
ケイくんの足の間に入り、スマホでお菓子を作る動画を観るひととき、彼はサッカーゲームに夢中になっているはずだった。
彼の体は私よりふた周りかみ周り大きくて、体を預けるのに抜群だ。すっかり力を抜いてたまに体勢を変えたり、お尻で座り直したり本当のソファみたいに私を受け止めてくれる。だから彼が生き物だってこと忘れちゃう。固まった体を解すのに伸ばした手が彼を殴ってしまうこともあって、それが彼の眼鏡を吹っ飛ばすなんてことは割とよくある。
今夜もやってしまって、ごめんと言う前に腕を掴まれた。
「コノヤロー」
そういうと私の手首を捻りあげ噛みついた。
「あん、痛いじゃない」
「オレのセリフだよ」
彼は私をよけながら飛んでった眼鏡を掛け直し、私を座り直させると髪をぐしゃぐしゃにした。私は癖っ毛なのでそうやられるのが嫌いだった。
「やめてよ」
「エミの毛柔らかくて好き」
そう言って私の髪をどけ、首筋にキスする。彼の柔らかい唇が這って少し鳥肌が立つ。ケイくんが私の首とディープキスをしている。は、は、と聞こえる息づかいと舌を動かす音が耳に近づいてぞくぞくっとする。
「いい顔してる」
ぼんやりと目を開け前を見ると電源の落ちたテレビのディスプレイに、蕩けた私の顔が映っていた。
「やだ」
「え、なんで、可愛いじゃん」
彼はたじろいだ私を後ろから抱き竦め、顎を持ち上げて唇を食べた。
私はケイくんに食べられる。彼はゆっくりと大きく私を咀嚼していく。口溶けのいいケーキか何かになったみたいに私はすんなり彼の口へ運ばれどんどんとけていく。
彼は大きい舌で私の口内を溢れさせ無意識で呼吸を止めようとする。私は不足する酸素を手っ取り早く取り込むために口を開き、さらに彼の侵入を許してしまう。そうして洩れる声が彼をねだっているように聞こえて恥ずかしくなり、彼の胸を叩いて逃れようとするけど許してもらえない。
彼の長い舌が私の弱い部分に当たり、私のささやかな抵抗は崩れ去る。
「エミュ…」
掠れた声が愛しい。彼を精一杯受け止めたくなる。全部欲しくなる。今まで閉じていた部分から急ににょきにょきと欲望の芽が伸び、養分を取り込もうと大柄の彼に巻きつく。
私は正面に向き直り彼の頭に腕を絡ませる。私たち、今ひとつになりたい。欠けた岩が磁力で引き合って合体するみたいに。それでさ、堆積した土の中でこのまま化石になって、発掘した人にひとつの石だとおもわせるんだ。
彼は背中に回した両腕をほどき、襟に手を掛けて服を開き私の肩を出した。
すっかり気持ちよくなった二人って、これをキスしながらやるんだよ。考えたらマルチタスク処理だよね。すごいね、出来る子。
私は、デスクでパソコンに向かいながらOLにフェラチオさせるミドルエイジメンの登場するエッチな漫画を想像し、ケイくんだったらどうなるだろうと考えた。彼なら左手で私の髪をまさぐり、リズムに合わせて右手でEnterを連打してる。何ページかの白紙の書類。そこには愛があったりして?
いつの間にかはみ出している私の胸に何度もキスをするケイくんの髪をもみくちゃにする。彼は片方の乳房を丸ごと口に含み、じゅっと音を鳴らして大きくしゃぶった。
「あんっ…」
習った覚えのない声が辺りを憚らずに響く。
「いやっ」
それを聞いてますます体重をかけて私を押さえつける彼の眼鏡が曇っている。彼は私の服の裾を一気に上へ捲りあげて剥ぎ取った。そしてもう一度乳首に吸いつくと歯を立てる。白く揃った歯が乳首を挟む強さが徐々に増していく。そうしながら舌先で弾く。
「エミュ、気持ちい?」
答えずに呆然とする私を上から見下ろすケイくんの目はとっても優しい。
「ねぇ、オレもして」
彼はズボンとパンツを膝まで下げ、そそり勃ったペニスを目の前に突きつけた。
それはずおおおおっと音を立てるように、有り得ないくらい重力を無視して息づいていた。
おずおずと手を伸ばし彼を握る。
唾を飲む音がした。
「エミュ、今ツバ飲み込んだでしょ」
「嘘!ケイくんが…」
彼は笑い混じりに囁き、私が言い終わらないうちに頭をぐいっと股間に近づける。それがつんと上唇に当たり、離れるとき細い糸を引いた。
ケイくんの匂いと熱。立体的な質感。私は頭がいっぱいになった。彼のペニスと私の口のサイズが合わなくてもどかしい。
「エミュがんばって、」
ケイくんの応援を受けて一生懸命になる私。
「あ、あ…気持ちいいよエミ、」
吐息混じりに彼の喘ぐ声が私の堤防を決壊させる。
拙く上下する私の頭を彼は掴んで思い通りに動かし始め、それが激しさを増しまた息ができなくなる。
「んっ…あ、イクっ…」
ぱっと彼が離れ亀頭の先からびゅっびゅっと粘液を発射する。白濁した涎を垂らしびくんびくんと跳ねる彼のペニスを見るのが好きな私はしばらくそのままでいる。
精液が私の胸とカーペットを汚していた。
「あぁ気持ちいい、汚してごめんね」
いいよ。ティッシュで適当に拭き取りケイくんの残滓を始末する。
「エミ、オレを跨いでよ」
「え、いやよ」
「そう言わないでさ、」
彼は優しい口ぶりとは裏腹に一瞬で私の最後の一枚を抜き取り、ちょっと力を込めて自分の上に据えた。眼鏡を掛けたまま。
「わ、ちっちゃい」
「イヤ」
そして中指で眼鏡の位置を整えると私の太腿に手を掛け開かせて低くさせ、柔らかくなっている部分をあらわにする。暖かい舌が冷めた分泌液のこびりついた私の芯を溶かしていく。
「まだ触ってもないのにもう濡れてたの?」
「いやっ」
「ちんちん好きか」
卑猥な軽口を叩いていく彼を否定し続ける私。
彼の一点が私をどんどん探っていく。その動きはソフトタッチだけど迷いがなくて、私は逃げ場所を求めて足掻く。
「ダーメ、ね、向こう向いて」
「いや」
彼は易々と私を持ち上げ体を互い違いにする。でも屹立しつつある彼に自然と手が伸び、その上で喘ぐ。
ケイくんの唇が私の無声の唇を塞ぐ。ぴったり密着した口の中の彼の舌で軽く叩かれ続けると、自分の襞がびびびびと動くのがわかる。
「あぁ、いやっ、いやっ」
「ごめんね」
んもう、口ばっかり!
彼は、力が抜けて膝を立てて居られなくなってもじたばたする私の腰を押さえつけ、唇でいやらしい音を立てる。
「あーんやだやだぁ」
「腰が動いてるゾ」
「いやぁっ」
かろうじて自由の効く膝下をばたつかせ虚しい抵抗をし続ける。
「オイ、二ーキックはやめろ」
そう言って脹ら脛を強く噛んだ。
「あーっ」
全身を痺れが貫いた。
「へへ、エミュは弱いなぁ」
「…」
何が何だかわからない感覚に目の前がちかちかして私はダウン寸前だった。
「よい、しょっと」
ぐにゃぐにゃになった私を自分の上へぐいっと抱え上げ向かい合わせに抱く。ケイくんの肩に頭を預けぐったりしていると彼は自分のほうへ向けた私の唇を舐めながら一瞬私を持ち上げ、緩みきった膣口にペニスをあてがった。
「はっ、ああ、」
いきむような呑むような、吐息とも声ともつかない声が知らずに迸る。あのケイくんが凄い存在感で私の中に割り入ってくる。
「ああすげーいい。すげーいいよエミ」
口早に囁き、眼鏡を放り投げた彼が下から突き上げてくる。私は何度も短い叫びを繰り返し、激しい動きに振り落とされないよう彼にしがみついた。
出し入れするタイミングで彼も呼吸のついでに小さく声を出す。
「エミュ、エミュ、エミュ、」
「あっケイくん、ケ、イ、くんっ、あ、いやぁっ」
ひどく揺さぶられ脳震盪を起こすかもしれない。
真っ暗などこかでしゅっとマッチを擦る。一瞬で火がついているように見え、スローの世界ではミクロの火花が不規則に散っている。その火花が、近寄る塵に燃え移り音もなく焼き尽くすのが何故か今ははっきりとみえた。
膝の震えが止まらない。
目蓋を開けると、目の周りの乾いた涙がぱりぱりと剥がれ落ちるのを感じた。
「おはよー」
皮脂で曇った眼鏡をずらして掛けた彼が、ゲームの手を止めて私の背をさする。
「…脹ら脛痛い」
声が掠れている。目を擦りながらぎしぎしする体を捻り、足を見ると彼の噛んだところに途切れた歯型がついていた。
「ごちそーさん」
「……いや…」
彼は優しい怪獣だ。だから私のノットが通じない。
聞こえてるけど聞いてない 晴れ時々雨 @rio11ruiagent
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