刃の殺傷力

 俺はずっと疑問に思っていたことがある。

 人は何故、ナイフで人を刺さないのか。

 もちろん例外はある。

 殺人犯などは故意にナイフで人を刺そうとするだろう。

 しかし、ほとんどの人間がナイフで他人を傷つける事はためらうはずだ。


 何故か。

 

 それは自分自身がナイフの殺傷力を知っているからだ。

 指に刃を添わせれば、皮膚が裂け血が滲む。

 それが人生の経験上分かっているから、人に対して無暗に振り回したりしない。

 細心の注意を払ってナイフを扱う。


 しかし、SNS上において人を傷つける事はためらわない。


『死ね』


 その一言を打つだけで、人の心に言葉のナイフを突き立てる。

 現実ではナイフを振り回すことは悪とされ、言葉のナイフを振り回すことは黙認される。

 その理由は実に単純。

 


 からだ。


 

 その一言でどのくらい人を傷つけているのか。

 どの程度で人が死ぬか。

 傷は目に視えない。


 だから気づいた時にはもう遅い。

 心はすでに死んでいて、肉体が後追いするように死んでいく。

 自殺という方法で。


 『現実のナイフ』と『言の葉の刃』の違いを教えてあげよう。

 身体を殺すか、心を殺すかの違いだ。

 俺たちは人を殺せる刃をその手に握っている。

 だからこそ知るべきなんだ。



 人を殺してしまう前に、自分自身の刃の殺傷力を。

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言の葉の刃を握る 裕福な貴族 @Yu-huku_Kizoku

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