仮面舞踏会

 彼女の葬式は身内だけで執り行われた。

 式場に慟哭が響き渡る。

 彼女の母親は泣き崩れ、父親は肩を支えながら涙を流す。

 彼らは知っているはずだ。

 自分の娘が誹謗中傷によって殺されたことを。

 だが、何もすることは出来ない。

 匿名かつ不特定多数の人間を探し出すことは不可能であるからだ。

 恨みの感情は何処にも行けず、宙に舞う。



 彼女の事件について、SNSで検索をかけた。


 #しおチャン


 彼女の配信に関連する単語であり、呼称でもあった名前。

 このワードで調べれば関連する最新の話題が見えてくる。

 ほら、出てきた。


『しおチャンが入水自殺したらしい……』

『ご冥福をお祈りします』

『マジふざけんなよ』

『まさかこんな事になると思ってなかった』

『信じられません』

『誹謗中傷した奴を絶対に許さない』


 そこは、彼女のことを愛していた人たちのコメントで溢れていた。

 優しい言葉に満ちた世界。

 だからこそ恐ろしい。


 この中に、を被った奴がいる。


 誰が仮面を付けているか分からない。

 いや、逆かもしれない。

 インターネットという世界。

 誰もが匿名という仮面を被って生きている。



 この世界は、偽りだらけの仮面舞踏会だ。

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