対岸の火事

 従妹が自殺した。

 昨日の夜のことだ。


「栞ちゃんが亡くなったって……!」


 母が慌てた様子で部屋に飛び込んできた。

 その言葉を聞いた時、俺は何を思っただろう。

 まるで遠くの国で起こったニュースを聞いている様だった。


 彼女は配信者だったらしい。

 最近注目され始めた新進気鋭の女子高生。

 そんな彼女の突然の自殺。

 普通であれば大々的に報道されるはずだ。


 そう、なら。


 普通とは何だろう。

 人間一人が自殺した。

 しかし、それは今の時代にとって珍しいことではない。

 SNS・ネットの重要性はここ数年で爆発的に普及しており、使用していない人は珍しいと言われるようになった。

 それと比例するように匿名での誹謗中傷の数も増えていった。

 今は、言葉で人を殺す時代。

 新たな社会問題の幕開け。

 だからこそ、俺はふと思うのだ。



 対岸の火事は、いつだってこちら側に移ってくる。

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