勝手に使われるサーシャリアの名前

  人々から魔族への偏見が完全に消えたが、このような種の差別や偏見による争いを無くす事を誓い刻む意味を込め、かつて魔族達が住んでいた土地を、グランデウス領と名を変えて、人族が中心の国の領土となった。


「なるほど……では、このグランデウス領は人族の……セルファート王国の領土となった訳か……他の種族達から文句は出なかったのか?」


「はい。魔王グランデウスを討ったのが、一応勇者のアレですから、獣人属性もドワーフ族も文句は無かったそうです。エルフ族に至ってはそもそも領土的野心は皆無ですしね」


なるほどな。長命種であるエルフは確かに領土的野心にはまるで関心がないし、ドワーフ族も似たようなものだろう。グランデウス領に鉱山などがあったら飛びつくかもしれないが、特にそういった鉱山を見受けられなかったし、そもそも、人族とドワーフ族の仲は良好で、人族にある鉱山は全てドワーフ族が管理する条約を結んでいるので全く問題ない。

  唯一、獣人族は領土を増やせるなら増やしたいという気持ちはあるだろうが、彼らはだいたいがサッパリといか若干脳筋な性格で、魔王グランデウスにトドメを刺したのがクリストフなら、人族がその地を納めるのに文句を言う者はいないだろうな。


「あっ、それと師匠。師匠がさっき言っていた人族の国名。今は違いますよ」


「ん?違う?私の記憶では間違いなくセルファート王国だったはすだが……」


「あの勇者が王になった時に、古い体勢を変える意味で国名を変えたんです」


ふむ。つまり、私が死んだ後で国の名前が変わった訳か。だったら私の記憶に無くて当然か。


「なるほどな。それで、今はこの国の名前はなんというんだ?」


「はい!人族が中心に納めるこの国の名は……『聖賢女サーシャリア王国』です!!」


何故かリアンナが胸を張って高らかに国名を言った……はい?何だか聞き覚えがある名が聞こえてきたような……聞き間違いかもしれないからもう一度聞いてみるか……


「……すまん。どうやら目覚めたばかりでまだ本調子ではないみたいだ。悪いがもう一度国名を言ってくれるか?」


「はい!人族が中心になって納めるこの国は『聖賢女サーシャリア王国』です!!」


ん〜……どうやら私が目覚めてハイになってるのか、リアンナが何度も私の名前を入れた国名を言ってくる。


「リアンナ。落ち着け。お前の妄想はいいからちゃんとした国名を……」


「妄想じゃないですってば!?ほら!これを読んでくださいッ!!」


  そう言ってリアンナが私に手渡したの一枚の新聞だった。その新聞の日付は、私が死んでから約半年ぐらいが経った時の物だ。その新聞の一面に、撮影魔法で撮影されたクリストフが王都の広場らしき場所で演説してる姿の画が映ったものと、私を驚愕させる内容が書かれていた。




  王都暦156年×月○日


  魔王グランデウスを討伐を果たし、その功績を認められて王となった偉大なる勇者王クリストフは、拡声魔法を使い全国民に自身の声を届けるようにし、この日重大な発表を行なった。


「全国民諸君。今日は皆に重要な話を届けるべく、私の声を届ける為に拡声魔法を使用させてもらった。皆も知ってるとは思うが……」


勇者王クリストフは、魔族という言葉が生まれたきっかけ、魔王グランデウスの暴走が、自分達による偏見による差別が原因であると語った。

  勇者王クリストフの言葉を重く受け止め、国民は皆沈痛な面持ちで、勇者王クリストフの言葉に耳を傾けていた。


「……今更過去自分達が犯してしまった過ちを変える事は出来ない。しかし!今は!明日は!未来は!自分達の意思の力で変えていけるはずだ!今後このような偏見や差別による争いを無くす為!かつて魔王グランデウスが納める地をグランデウス領とし!この国を古い時代から新しい時代へと導く為!かつて私の仲間にして、最高の友……最強の英雄の1人!『聖賢女サーシャリア』の名を借り!『聖賢女サーシャリア王国』とする!そして!この地を!『王都サーシャリア』と名を変える事をここに宣言するッ!!」


勇者王クリストフの宣言に、国民全員が割れんばかりの大歓声を上げた。

  それもそのはずだ。『聖賢女サーシャリア』とは、勇者王クリストフ達と共に戦った偉大な魔法使いの名前である。多彩な魔法でクリストフ達を助け、グランデウス討伐の際も、その命を賭してグランデウスを弱める事で、勇者王クリストフ達を勝利へと導いた偉大なる立役者。まさに賢女に相応しい存在である。

  それに、グランデウスが魔王となる前から、魔法協会に魔族が魔法の行使の仕方の違いだけで、種族的にそこまで変わらないと真摯に訴えた、優しき聖女のような心の持ち主である。故に、偉大な魔法使いである称号の『賢女』と、心優しき『聖女』の名を合わせて『聖賢女サーシャリア』と呼ばれ、全国民全てに知れ渡っている偉大な英雄の1人である。


  そんな偉大な英雄の名前を借りるのだ。我々国民はそれを常に意識し、『聖賢女サーシャリア』の名の国に恥じぬ立派な民となる必要があるだろう。

  そして、この「セルファート新聞」も「サーシャリア新聞」と名を変えて、『聖賢女サーシャリア』に相応しく、どこまでも真実を求めて戦っていく所存である。


              著:ルーベルト

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人造人間〈ホムンクルス〉少女の冒険録 風間 シンヤ @kazamasinya

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