魔族と魔王グランデウス
そもそも、魔族と呼ばれている者達は皆、人族や獣人族やドワーフ族と変わらぬ見た目をしている。それも当然の話で、彼らは見た目通りの種族で間違っていないのである。では、魔族と呼ばれる者達と何が違うのかと言うと、それは魔法である。
この世の魔法の行使の仕方には2通りある。一般的な魔法の行使の仕方は、精霊を介して行使するやり方である。この世界には無数の精霊が存在しているが、普通の人にはだいたいその存在を視る事は出来ないが、皆ちゃんと精霊が存在していると認識している。その精霊に自身の魔力を与える事で、魔法を発動する事が出来る。これが、一般的な魔法の使い方と認識されている。
しかし、これとは別にもう一つ別のやり方で魔法を発動させるやり方がある。それが、自身の魔力を具現化して放つやり方である。この世界では皆が魔力を有しているが、残念ながら誰もが精霊を介するやり方で魔法を使える訳ではない。
その人の魔力の質が精霊と合わなかったり、高すぎる魔力を分け与え過ぎて精霊すら受け入れられなくて魔法を発動出来ない者達がいる。そういう者達は、だいたい魔力が高かったり、特殊な魔力を有している。
小さな子供ですら出来る魔法を使えない。当然それは一つの優劣を付ける差別が発生する。故に、その者達が魔法を使えるように編み出したのが自身の魔力を形にして放つ魔法である。
これで魔法が使えない事による差別は無くなるかと思ったが、精霊の波動を感じない魔法に人々はその者達を異質な存在にしか見えなかった。それ故、人々とその者達を異質な存在として迫害し追いやったのである。
こうして、精霊を介して魔法を扱えない異質な存在を人々は『魔族』と呼称し、彼らを自分達と同じヒトであると受け入れようとしなくなった。
こうした迫害や差別を無くす世界を目指したのが、我々が討伐した魔族達を率いていた王グランデウスである。グランデウスは最初こそは、自分達と人々とは何も変わらぬ種であると訴え続けた。しかし、当然ながらグランデウスの言葉を人々は受け入れるどころか、魔族達に侮蔑や嘲笑の言葉を浴びせるだけでなく、魔族はヒトではないから奴隷扱いしたり、とんでもない扱いをする者まで出てきたのである。
当然、これに魔王グランデウスは怒り狂った。もはや、全ての種を滅ぼし、魔族のみの世界を創るしかないと判断し、グランデウスは世界への侵攻を開始したのである。こうして、グランデウスは魔王と呼ばれ人々に恐怖と絶望を与える存在となったのである。
私達は、旅先で出会った魔族の老人に魔王グランデウスの真実を聞かされた。それを聞いたクリストフ達は、魔王グランデウスを討つのに躊躇いが生まれてしまう。
しかし、もう魔王グランデウスは憎しみや怒りに支配され、破壊や殺戮を尽くす暴徒となってしまっていた。
『魔力とは自分自身。自分そのものじゃ。覚えておくが良いぞ。サーシャリア。お主は特に魔力が高いからのぉ。その心が負の感情に染まれば、魔力は負の力となり荒れ狂うじゃろう。高い魔力を持つ者程、それが如実に現れるじゃろうて』
その話を聞いた私はかつて孤児であった私を引き取り育ててくれた師の言葉を思い出した。グランデウスは魔族達を率いるだけあって、強大な魔力と異質な魔力を備えていた。故に、グランデウスは師の言葉通り、魔力が負の感情に支配され破壊の暴徒と化してしまったのだろう。
私やクリストフ達は何度も話し合ったが、どうしてもグランデウスの暴徒化を消し去る方法が見つからなかった。故に、私達はグランデウスを討つ事を決断した。その代わり、グランデウスを討った後は、必ずグランデウスの真の望みを叶えると誓って……
「あの勇者の功績を言いたくはないですが……アレが勇者王となってすぐ、魔族やグランデウスが魔王となった真実を公表した事で、人々は自分達の行いが間違っていた事を認識し、皆魔族と呼ばれた者達を受け入れました。そうした結果、もう彼らを『魔族』なんて違う種と扱う呼び方はやめようって事になり、今はもう誰もが彼らを『魔族』と呼ぶ人はいなくなったんです」
そうか……『魔族』が無くなったとはそういう意味だったのか。グランデウスの話を聞いて1番悩んでいたのはクリストフだったからな。余程苦労して皆の認識を変えていったのだろうな。私はそんなクリストフの事を考え笑みを浮かべた。
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