第19話

 受験日まで後一週間を切った。

 二宮さんと、戸川、あと田村さんを入れた4人でラストスパートをかけている。

 古角はなんだかんだ忙しいらしく最近はグループに入って来ない。


 それから、由紀は三日に一度のペースで現れてだんだけど、最近ペースが落ちてきて5日に一度くらいのペースになってる。

 どうしたのか聞くと、

「私に酷いことした奴が他の子にも酷いことしてるの。酷いことされてる子に、これ以上言うこと聞いちゃダメって、夢の中で呼びかけてるんだけど上手く行かなくて」

 と嘆いていた。

「動画と写真を撮られてるみたいで、逃げられないって言ってれの」

 しばらく考えて、

「俺が説得してみるよ。今度その子の夢で8組の高橋くんが相談に乗ってくれるよって呼びかけてみて。で、その子がオッケーなら名前を教えてくれればいい」

 うん、でも……

「尚哉くんが振った子だよ。また好きになっちゃうかも知れないよ」

 俺は首を横に振った。

「そんなのは関係ないよ。助けるのが優先だ」

 俺がそう言うと、

「尚哉くんならそう言うと分かってだんだけどね。分かった。今晩でも呼びかけてみるよ」

「うん、頼むよ」


 その夜、先にその女の子の夢に現れた由紀は俺が相談に乗りたいと言っていることを告げ、オッケーをもらって、次に俺の夢に現れた。


「オッケーしてくれたよ。名前は伊藤玲奈ちゃん。分かるよね?」

 「あ~、確か2年になったばかりの時に告白してきた子だ」

 「明日、放課後に3丁目のファミレスで待つように伝えてあるわ。尚哉くんお願い、助けてあげてね」

「分かった、必ずいい方法見つけるよ」

 尚哉はそう言いながら、どんな方法がいいかある程度考えていた。


 放課後、3丁目のファミレスに伊藤玲奈はいた。

「こんにちは」

 尚哉がそう言うと、

 玲奈も挨拶をする。

「こんにちは」

 かなり落ち込んでる様子だった。

 玲奈がゆっくり話し始めた。

「私、酷いことされて、男の人なんて信用しないって決めてたの。でも、西山さんが度々夢に出てきて、あんな奴の言うこと聞いちゃダメって……夢だとばかり思ってて、アドバイス無視してしちゃってたんだけど、高橋くんが相談に乗ってくれるって言うから信用したの。好きな人だったし」

 一気にそこまで言って俯いた。

「相談には乗るんだけど、由紀との約束で、相手の男は詮索しないってことになってるんだ。いいかな?」

 玲奈は、

「うん、復讐に走るから絶対に言わないでって言われてる」

 根回しがいいな~と尚哉は頷いて、

「由紀は多分今俺たち二人を見てると思うんだ、伊藤さん、それは分かるかな?」

 玲奈は頷いて、

「幽霊って本当にいるんだね、びっくりした」

 と言った。

 

「俺の考えた方法は二つあるんだ」

 玲奈は真剣に聞いている。

「一つはシンプルにこれ以上言うことは聞けない。次、脅したら警察に通報するってことだね。ただ、この場合、本当にネットに動画や画像をばら撒くかも知れない」

 玲奈もそれは考えていた様子だった。

「で、二つ目は、君のスマホを使って俺がそいつにメッセージを送る。内容は……」


 内容はこんな感じだ。


女の子に酷いことするクソ野郎へ

 俺の名前は高橋尚哉、お前によって大事な西山由紀を失った男だ。分かるだろ?

 お前は由紀だけでは飽き足らず、この子にも酷いことをしているんだな。

 これは俺からお前への最初で最後の警告だ。

 金輪際そんなことはやめておけ。

 お前のしていることは全て由紀が見ている。そして俺に報告してるんだ。

 お前が酷いことしてるってな。

幽霊ってものをお前が信じるか信じないかは分からないが、由紀は幽霊になって俺のそばにいるんだよ。

 嘘だと思うなら、試しに今日、家で何桁かの数字を書いてみろよ。

 俺が明日このスマホからその数字を桁数も間違わずに打ち込んでお前に送信してやるよ。

 それでお前は由紀の存在を認めざるを得なくなる。

 

お前が自暴自棄にならないように言っといてやる。

 俺はお前がどこの誰か、本当に知らない。

 由紀が教えてくれないからだ。

 何故教えないのか?知れば俺が必ずお前を殺すからさ。

 殺人犯にはしたくないらしい。

 由紀に感謝しろよ。


もう一度言う。

 俺やこの子には由紀がついている。

 危害を加えようすれば由紀が俺たちを守ってくれる。

 お前はもうこの子にも他の子にも手出しできない。

 動画や写真をばら撒いたら、又、同じことを繰り返すようなら、その時お前の死が確定する。


以上だ。


 玲奈は文章を読んで、これで救われたと、安堵のため息をついた。

 この文章を送ればきっとあいつは諦めるだろう。

 それで傷ついた心と身体は元には戻らないけど、これからも酷いことをされるよりは遥かにマシだ。


 やっぱり高橋くんはいい人だ、この人を好きになったのは間違いじゃなかった。


 早速、玲奈のスマホに今の文章を送信した。

 そして玲奈が犯人に転送した。

 

 10分ほどしてから、メールが受信された。


 西山の存在が本当ならお前から手を引く。

 嘘なら、高橋にチクったのはお前ということになるから、その時は覚悟しておけよ。


 という内容だった。

 本当にクソ野郎だな。


 その夜、犯人が書いた数字を由紀に教えてもらった。


 数字は10桁で、

 5483911726だった。

 

 翌日、昼休みに玲奈に会い、早速数字を玲奈のスマホに送り、玲奈は犯人に転送する。


 またしばらくするとメールが届いた。


 内容は

 もうお前に手出しはしない


 それだけの文章だった。

 

 玲奈は何度もありがとうを繰り返した。

「私ね、高橋くんのことまた好きになっちゃった。でもね、西山さんがそばにいるから、この気持ちは自分だけが持っとくね」

「うん」

 俺はそれだけ言って、教室に戻った。

 教室に戻ると、戸川が言った。

「古角が顔色を悪くして早退したんだ。大丈夫かな?あいつ」

 俺も心配になってメールを送ったんだけど、

 家に帰って休めば大丈夫だと思う

 との返信だった。

 

 受験まであと少しなのに大丈夫かなぁって少し心配になった。


 続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

悪人には死を @gamacchi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ