第18話

 尚哉は少し後悔していた。

 二宮さんとキスしてしまったことである。

 眠りについて、夢の中で由紀がまた話しかけてくるだろう。

 その時、なんて言えばいいのだろうか?

 今夜か明日の夜あたり由紀が現れそうな気がする。

 まぁ、してしまったものは仕方ない。

 由紀は俺が幸せになることを望んでいると言っていた。

 それが本心なら責めるようなことはないだろうとは思うのだが……


 そんなことを思いながら眠りにつくと、案の定由紀が現れた。

 

 私の言った通りだったでしょ?告白されちゃったね。キスするところまでは想像出来なかったな~

 恵ちゃん、大胆になったな~

 

 言いながら、にこにこしてる。


 なんか、そんなにこにこしながら言われると、めっちゃ複雑なんだけど……

  

 なんで?この前言ったじゃない、私は尚哉くんの幸せを願ってるの。

 好きになる相手が恵ちゃんなら、最高に嬉しいことだよ。


 それは分かるんだけど、由紀にそう言われるのが複雑というか何というか……


 私がね、また生き返れる可能性がほんの少しでもあるなら、相手が恵ちゃんでも、嫉妬すると思う。

 でも、その可能性はほんの少しもないんだよ。

 でも、私はそれを悲しいとは思わないの。

 だって、こうして尚哉くんと会うことができてるわけだし、それで十分だって思うんだ。


 ここにきて俺は由紀に確かめなければいられないことが頭に浮かんだ。

 "キスまでするとは思わなかった"と由紀は言ったのである。

 つまり、キスしているところを"見た"わけであり、俺からすればキスしているところを"見られた"わけだ。

 それは今後、二宮さんと限ったわけではなく、女性とキス以上の関係になったとしたら、それも全部由紀に見られてるってことにならないだろうか?

 そしてもう一つ、今現在においても、トイレやお風呂を覗かれているかも知れない。

 

 由紀、ちょっと質問していいかなぁ?


 どうしたの?


 キスするとは思わなかったってことは、見たってことだよな~?


 え?うん、見たよ。


 ってことは、俺の行動が全部見えてるってことじゃないのか?


 あ~深く考えてないけど、そうなるね。


 え?じゃぁ、トイレや風呂だって覗けるんじゃないのか?


 トイレは流石に覗かないよ。


 ト、トイレはっておい、そこは"トイレやお風呂は"じゃないのか?お風呂は覗いてるのかよ~


 お風呂はたまに覗いてるよ。尚哉くんって、逆三角形でいい身体してるよね~


 いや、逆三角形はどうでもいい、つまり下も見てるってことだよな?


 全部見えてるよ、だってお風呂なんだから尚哉くん裸でしょ。


 由紀はなんとも思わないのか?


 え?だから"欲がない"って言ったじゃない。欲がないから何見ても、そこに特別な感情は全くないんだよ。

 私にあるのは尚哉くんに幸せになって欲しいって感情だけ。これだって"欲"なんだろうけど、そもそも尚哉くんに幸せになって欲しい気持ちがないなら、私がここに現れる必要自体がないわけだから、ここの部分だけは除かれてないってことだよ。


 キス以上の関係も当然見られることは分かったが、今はまだ、そんなことをするつもりも、相手もいないわけだから、聞かなくていいだろう。

 そう思って、この件は追及しないことにした。


 由紀が現れるのは俺の夢の中だけなのか?ご両親の夢にはいけないのか?


 お父さん、お母さんの夢にも行ってるよ。思い出話たくさんしてるんだ。

 二人ってほんとに仲がいいんだよ。

 夢の中に行けるってことは、心が読めるってことにもなるんだけど……あっ、心が読めるのは夢の中だけだから、安心してね。で、心の中覗くんだけど、悪く思う感情が全くないんだよ。

 ほんとラブラブなんだ~


 頭の中の煩悩を全て消し去らねば……


 そんな必要ないよ。煩悩があるから生きてる人間なんだし……


 マジ、心の中読まれてる(汗)


 気にしない気にしない。

 今日はこのくらいにしようか。

 私と話してる間は寝てるようでちゃんと寝れてないんだよ。健康に悪いからね。

 

 毎日現れないのは気を使ってくれてるんだ?


 一週間会えないのは長いけど、毎日はね。ペース考えてるんだよ。あと、伝えなきゃいけないことがあれは現れるかな。

 

 なるほどね。

 分かったよ。

 付かず離れずってやつだね。


 そうなるかな~

 じゃぁまた、少し間空けて会いにくるね。

 

 そう言って、由紀は消えた。


 これって、実際に起こった出来事に沿って話をしているんだから"夢"では片付けられないよな…………

 定期的にでも由紀と話ができるんだから夢にしろ幽霊にしろ、俺にとってはプラスだからよしとしよう。


 そう思いながら眠りについた。


 続く

 

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