第17話

 あれから、毎日ではないが由紀の夢を見るようになった。

 現れる由紀はいつも水色のワンピース、

「幽霊ってやっぱり着替えたりしないんだね」

 夢の中の自称"幽霊"の由紀に尋ねる。

「そうだよ。汗もかかないし、食事もしないし、お風呂にも入らないでいいから楽ちんだよ」

 俺は頷いてから、

「もし、俺が死んだりしたら、由紀のところへ行けたりするのかな?」

 急にものすごく怒った顔で、

「変なこと言わないで。私がこっちで尚哉くんに会うのは、尚哉がしっかり自分の人生を全うした時だけよ」

 由紀は俺が自殺するとでも思ったようだ。

「大丈夫だよ、そんなことはしないから」

 俺がそう言うと、

「よかった」

 と、安心したように言った。

 そして思い出したように、

「あっ、今日クリスマスイヴだよね?」

「そうだよ」

「クリスマス……尚哉くんと一緒に過ごしたかったな~自分で無くすようなことしといて、何言ってるんだろ……私」

 寂しそうに俯いた。

「あっ、今日、尚哉くんに告白してくる子がいるよ」

 由紀に聞いてみた、

「由紀は俺が他の子と付き合った方がいいと思ってるの?」

 すると、

「私は、こんな形でしか尚哉くんに会えないじゃない?尚哉くんは現実の世界に生きてるんだから、私だけってダメだと思うの」

 一旦考えるそぶりを見せて、続けた。

「今の私は"欲"が殆ど取り除かれてるの。だけど、尚哉くんには幸せになってもらいたい、ちゃんと彼女作って、その人を愛して……そういう"欲"っていうのかなぁ"願い"かも知れないけど、それはあるんだよ……私はそのために、現れたのかも知れない」

 由紀そう言うんだけど、

「今はまだ、無理……かな」

 俺がいうと、

「今は無理でも、私がそう思ってることは知っておいてね」

「分かったよ」

「あっ、そろそろ朝だから、またね」

 あっ、と思って、疑問を投げかけた。

「これって、やっぱり夢なのか?それとも、由紀は本当に幽霊で、寝てる時だけ会いに来てくれてるのか?よく分かんないんだよ」

 俺が言うと、

「私が現れるの嫌?気持ち悪い?それとも嬉しい?」

 そんなん、聞く必要ないだろ。

「もちろん嬉しいに決まってるよ」

「なら、それでいいじゃない?夢でも、幽霊でも関係ないよ」

 あれこれ詮索して会えなくなるのは嫌だから、それで納得することにした。

「じゃあまた、夢の中で……」

 そう言うと、由紀は胸のあたりで小さく手を振って消えていった。


 今日は12月24日、世間はクリスマスで盛り上がっている。

 俺は一人部屋で勉強をしていた。

 すると、昼前に二宮さんからLINEがきた。

 話があるので、ここに来たいという内容だった。

 別に断る理由もなかったので、いいよと返信した。

 30分程してから二宮さんが来た。

 

 俺の部屋に通すと、二宮さんはしばらく俯いていた。

 5分くらいだろうか、俺が「どうしたの?」と尋ねようとした時に、

 話し始めた。

「私ね、高橋くんのこと好きなの……大好きなの。由紀ちゃんが好きになった時と同じ時……助けてくれた時から……ずっと好きだったの」

 気持ちはすごく嬉しかった。

 だけど……

「俺、まだ由紀のことしか考えられなくて……」

 そう言われるのが分かっていたように、

「今すぐ付き合って欲しいとか、そんな贅沢なは考えてないの、ただ、由紀ちゃんが想い出になった時、そばにいるのが私だったらな~って。そ、それくらいなら思ってもいいよね?」

 俺は思ってることを伝えた。

「ありがとう。二宮さんって、自分じゃなくて、相手の気持ちを考えるよね。そういうところ、大好きだよ。ただ、今は由紀を思っていたい」

 二宮さんは頷き、

「それでいいと思うよ」

 と言った。

「俺はさ、これから先、誰かと付き合ったり、結婚ってなっても、由紀の墓参りは欠かさずしたいんだ。それをダメだって言う子なら絶対付き合えない。二宮さんってそうなった時、気持ちよく、いってらっしゃいとか、私も行くとかいいそうだよね?」

 俺が言うと、

「私はお墓参り全然嫌じゃないよ。二人で行こうよって、やっぱり言うかな」

 って、ちょっと笑った。

「あっ、伝えておかなきゃ、私ね高橋くんと同じS高に変えたんだ」

「え?そうなの?」

「高橋くんと一緒にいたいっていうのも勿論あるんだけど、私の行きたかったK高には女子の剣道部がないの」

 剣道?

「え?剣道するの?なんでまた」

「ビックリするよね。護身のためもあるんだけど、もう一つ理由があって……まだ内緒だけど」

 悪戯っぽく笑った。

 二宮さんは、由紀とは違う可愛さがあるよな~なんて思ってると、

「一つだけお願い聞いて欲しいな」

 って言われて、

「いいよ、なんでも言って」

 って、つい言ってしまった。

「キス……して欲しいの」

 え?俺は聞き返した。

「キス?ど、どこに?」

 おでこか?ほっぺか?って思ってたら、唇に人差し指を当てながら、恥ずかしそうに、

「ここ」

 と言った。そして、

「キスしてくれたら、S高の受験も他のことも頑張れるの、だから、お願い……します」

 真っ赤になって、頭を下げた。

「何も頭下げなくても……いいよ。今の二宮さんの顔、めっちゃ可愛いから、してあげる」

 そう言うと、

 真っ赤なまま、拗ねたように、

「それだと、いつもは大して可愛くない……みたいな……」

 って言ってるところへ顔を近づけて、キスをした。

 数秒だっただろうか?でも、少し時間が止まっていたような、不思議な感じだった。

「ありがとう、これで頑張れるよ」

 と言ってから、

「あっ、プレゼント持ってきたんだ」

 と言いながら、何やら20センチ角くらいの箱を取り出した。

「開けていい?」

 そう言って開けると、そこには三毛猫のぬいぐるみが入っていた。

「高橋くんの机、何もないな~って思ってたんだ」

 と、笑った。

「俺、プレゼント用意してないんだけど……」

 言うと、

「最高のプレゼントもらったよ」

 と言って唇に指を当てた。

「あっ、私、帰らなきゃ、夕飯の支度があるんだ」

「うん、気をつけて帰ってね」

「ありがとう」

 そう言って帰っていった。


続く

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