第16話

 11月も後半になってくると、気温も下がり、ジャンパーやコートがないと風邪をひきそうなくらい寒くなってくる。

 朝は布団から出たくなくなるし、ましてや30分近くもの通学は苦痛以外何者でもない。

 毎年、この時期になると学校に行くのが嫌になる。

 そんなこと言ったところで行かなきゃいけないわけなんだけど……

 

 ところで俺は昨夜、由紀の夢を見たんだ。

 「尚哉くん、尚哉くん、起きて、起きてよ」

 俺が、目を開けると(勿論夢の中での話だけど)そこには由紀が立ってる。

 初デートの時と同じ、水色のワンピースに白のジャケットだった。

「初めてデートした時の服装だよね?」

 俺が言うと、

「分かった?そうだよ。覚えてくれてて嬉しいな」

 そりゃ、覚えてるさ。

「尚哉くんさ、前にタイムマシンとか幽霊とかは信じないって言ってたじゃない?」

 由紀にそう言われて、

「あ~、言ってたよね、覚えてる」

 俺がそう言うと、

「私は幽霊なんだよ。って言ったら信じる?」

 幽霊?

「幽霊でもゾンビでも、なんでもいい。また由紀に会えたんだから、こんなに嬉しいことはないよ。食べられたって、殺されたっていい」

 俺がそう言うと、

「何で私が尚哉くんを食べたり殺したりするのよ。人聞き悪いな~」

 って拗ねてる。

「いや、それくらい嬉しいってことだよ」

「私はゾンビじゃないけど……幽霊なのかなぁ?なんかね、私は死んだら"無"になって、自分っていう存在は消えちゃうと思ってたんだ。でも、目覚めちゃって、そうそう、尚哉くんの誕生日、みんなでお祝いしてるときに。あの時、尚哉くんの後ろにいたんだよ」

 え?何だそれは?

「え?それからずっといたの?」

 尋ねると、

「いたよ、学校にもついて行ってるし、恵ちゃんがお弁当作ってくれてるのも知ってる。私ね、恵ちゃんなら尚哉くん任せてもいいかな~って思ってるんだ」

 ちょっと俺はムッとして、

「俺はそんなに軽い男じゃないぞ、そりゃお弁当は作ってもらってるけど、好きとかは思ってない。俺が好きなのは由紀だけだ」

 そう言うと、

「その気持ちはありがたいんだけどね。尚哉くんは生きてるし、まだまだ人生は長いんだから、いつまでも私だけじゃあダメだよ」

 確かに由紀の言うことは分かる。だけど、

「そりゃ、いつかは他の誰かを好きになる時がくるかも知れない。でも、まだ由紀を好きでいたいんだ」

「ありがとう。今は尚哉くんの夢の中に入り込んでるんだけど、高校に行くようになったら、尚哉くんの前に現れるよ」

 え?どう言うこと?

「今じゃダメなのか?」

「ダメ、私は尚哉くんに前みたく元気になって欲しいの、そのために少しでも長く幽霊でいられる方法なんだよ。目の前に現れると、幽霊としての寿命が短くなるみたいなの」

え?なんだよそれ。

「え?寿命って……また死んじゃうのか?」

「そんな悲しそうな顔しないでよ~、死ぬわけじゃなくて、人間界を去らなきゃいけないって感じかな?いつまでも居られるなら街中、幽霊だらけになっちゃうよ」

 確かにそれはそうかも知れない。

 あっ、由紀に聞きたいことが、

「由紀、聞きたいことがあるんだ」

 由紀は俺が何を聞きたがってるか察したように、

「何……かな?」

 俯き加減でそう言った。

「由紀に酷いことしたのは誰なんだ?俺の知ってる奴か?教えてくれ」

 俺がそう言うと、

「ダメだよ。それは教えない。復讐は私がする。尚哉くんは警察官になりたいんでしょ?夢を叶えなきゃいけないし、警察官目指してる人が復讐とか考えちゃダメだよ。私が復讐し終わったら教えてあるよ」

 俺はため息をついた。

「確かに、由紀が復讐するのは理に叶ってるし、誰も犯罪者にならずに済むけど……俺はそいつが許せない」

 拳を握りしめた。

「許せないけど、何もしないで。私を悲しませたいならすればいい……でも、私は悲しんでも、喜びはしないよ」

 仕方ない。

「俺は、由紀が悲しむことはしない。分かったよ。この話はもうしない」

 「ありがとう。あっもうすぐ起きる時間だから、また夢の中で会おうね」

 それだけ言うと、スーッと消えていった。


 しばらくすると目が覚めた。

 やっぱり寒い。掛け布団にくるまりながら、掛けてある制服を取って服を着た。

「おはよう」

 母さんに挨拶して、トイレ、歯磨きをしてから、テーブルについた。

 夢で見た由紀との会話を話そうと思ったけど、本当に夢だったかも知れないし、変に思われそうだから、今日はやめといた。


 続く

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