研究室

 研究室は元々領主館の離れだったものを先代領主がこの魔法使いに下賜たものである。その為造りとしては領主館と同じであるにも関わらず、陰惨とした威圧感がある。ハムとガジモドが現れた部屋は元々応接間として作られていた。今では壁全面にキャビネットがしかれ、その棚ゞは薬瓶や実験器具で埋められている。天井には大きな機器が所狭しと吊るされ元々あったであろうシャンデリアは邪魔だったのだろう撤去され、灯の変わりとして鬼火みたいな魔法の火が不思議にハムやガジモドの頭上を漂っている。

 部屋の中心には人が3人は寝れるほどの大きな机があり、研究途中なのだろう実験用のネズミみたいな魔物と魔法陣が書かれた羊皮紙等が置かれていた。

 魔法使いは弟子であるオドを呼び、机の荷物退けさせ、代わりにシオンを乗せた。

 改めてシオンと首をマジマジと観察し、心配そうにシオンを見る領主ハムに現状を説明した。

「現状の状態を端的に申しますと3つの事象が発生しております。

第一に先刻申した通りシオン様は魔法や呪いの類は受けておらずただ放心状態となっているだけとなります。容易く気付けする事は可能でございます。

第二にこの魔王の首は何かしらの契約により休止状態となっております。契約内容が不明である為、どの契機で休止状態が解除されるか不明である為、最初に封印魔法を施し対処しなければなりません。

第三にシオン様と首の繋がりですが、単純な束縛魔法が首に付与されているだけとなります。猟師が罠にかかった獣を取る様に容易に解除する事ができます」

 領主が持つ剣の切先が床に当たり甲高い音が部屋中に響いた。ハムは漸く未だに剣を抜いた状態だった事に気づき、剣を鞘に収めた。

「であるならば、順次対応してくれ。わたしはーー」

「承知いたしました。あの丘に関しては我が弟子とカナン様に調査させて頂くでよろしいでしょうか? 」

この領主は休む事を知らない。この領主は既に丘への扉を向こうとしていた。

先んじられたハムは少しバツが悪かったが、魔法使いの意図を汲まざるを得なかった。

「であるな。あの丘には敵もいない事だしカナンに行かせるべきだな」

 領主は半分自身に言いつける様に答え、部屋を出て召使を呼びカナンを研究室に呼ぶように指示した。ガジモドはその間に、オドを呼び2、3言付けをした。オドはすぐさま準備をしに部屋を出た。

 程なくしてカナンは研究室に訪れた。

 ただ父が呼んでいるという事だけで来たカナンは、机の上のシオンを見て激昂し目を血走らせた。父は状況を説明しシオンが無事である事、丘を調査する事を告げた。

「承知いたしました。別状が無かろうが弟をこの様にした魔物の痕跡を調査して参ります」

 血気盛んなこの息子は、魔物が残っていれば直ぐに切りかかるだろう、親から見て剣の才が無い哀れなこの息子が心配でならない。

「あぁ、ガジモドも確認したが敵は既に居なくなっている。お前は、オドと共に丘周辺の調査を頼む」

 心配を払拭する様に、自身に言い聞かすように父は敵が居ない事を強調した。

「オドは何処におりましょうか?」

 魔法使いは、魔王封印の為の魔法陣を羊皮紙に書きながら答えた。

「オドは準備し門に待機させておる」

「承知いたしました。では準備出来次第丘へ向かいます」

 そういうとカナンは加減無く扉を開け、扉も閉めずに出て行った。

「本当に大丈夫だろうか」

 押し殺そうとしていた言葉がつい漏れてしまった領主に魔法使いは安心させるべく手を停めた。

「カナン様は、ああ見えて思慮は深い為大丈夫でしょう。またオドはご存じの通り多少武芸の才が御座います故」

 オドは魔闘士の家に生まれたが国が滅び奴隷になり、5年前ネフという風変わりな商人から購入した。カナンと同い年で不憫に思ったハムは、才有るならばと兵士と対峙させた所、見事魔法と拳を織り交ぜ勝利した。それよりガジモドの弟子として魔法を習い、暇なときは道場破りの様に領内の兵士と訓練する様になった。

 オドの強さは知っているハムは、納得せざるを得なかったが歯切れの悪い言葉しか出ない。

「であるがーー」

「でございます」

 先代より仕える魔法使いの強い言葉にすがるしかなく、杞憂であれと言い聞かせる領主であった。

 魔法使いは中断していた儀式の準備を始めた。

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小さい頃助けたのが魔王だったらしく恩返しに俺を勇者にしようとする。 グシャガジ @tacts

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