後日譚
今日で私の休暇はあと二か月になりました。そんな昼下がり、小鳥の鳴く素晴らしい昼下がりに、私はカフェイヨの給与で昨年購入したバイオリンを味わいます。
「
チューニングが終わりました。では。
♪〈チャルダッシュ〉 作:ヴィットーリオ・モンティ
机の上にはバスケット一杯のフルーツ、そして私の手にはバイオリン。耳には情熱的な旋律が響き渡ります。それにもう少しでこの曲を奏で終われば、三時のティータイム。ああ、これ以上、幸福な人生に何が必要と言うのでしょう。
♪〈ドアホンの音〉 作:松本電気社員
そして至福の一時を現実へと戻す、日常の音。
「はい」
「こんにちはー、ヤマネコ運輸でーす」
「はい、ありがとうございました、今行きます」
差出人は、カフェイヨの支配人からでした。
―――――――――――――――――――――――――――
【本文】
やっほー、アントワーヌちん。元気してるかしらあ?
あたしはちょっと仕事に追われててね、というのも、
でもね、さすがは主席って感じで、ただ五割増やせってだけじゃないみたい。いまカフェイヨ向けに、人件費は向こう負担の作業員をあと百五十人確保するって。けど手続きとかが時間掛かってるみたいなのー。
というワケで、アントワーヌちんをはじめとするカフェイヨ給仕人連盟のみんなに、これ、やっておいてほしいものおくっておいたから。この前捕獲してきたラッコちゃんの毛皮。この子の全身の体毛の数、キ~ッチリ一本単位で数えておいてね💛 あ、最低でも十回は確認すること。ちなみに何に使うかはまだ言えないわ。
それじゃ、あたしほんとに忙しいからこれくらいで! 頑張るのよ。
―――――――――――――――――――――――――――
「主席ですか」
さながら私たちは、
私はしがない派遣社員でした。ルカは(そしておそらく支配人も)孤児でした。そうした弱者を一流に仕立て上げて富を分配するのが世界総資産分配機構。あなたの周りに、マラソンと称して山奥から水を運ぶ人はいますか? 鮪を手づかみで捕まえようとする無謀者は? エベレストの雪を持ち帰りたいという人もいるのではないですか? もしいるのなら、どうかそっとしておいてください。そしてあまり、仕事について根掘り葉掘り聞こうとしないでください。彼らはみな、カフェイヨに所属する労働者なのですから。
さて、私は早速ラッコの毛数を数える作業に取り掛かろうと思います。もしあなたがカフェイヨに労働者として招待されたときには、ぜひ承諾してください。私が自信をもって、良い職場であるとここに断言いたします。
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付加価値食堂。そこは膨大な付加価値をもって大富豪から金を巻き上げる、富の分配所。その富の流れの中には、あなたの周り、いや、あなたの元に直接たどり着いたものもあるかもしれません。
付加価値食堂〈カフェイヨ〉 凪常サツキ @sa-na-e
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