第20話 陰陽術の修行

 陰陽術


 平安時代からある、お呪いのようなものである。


 それが、例えば幽霊のような、カクリヨに住む存在に対して効力を発揮するものらしい。


「……」


「その調子だ、ミコトちゃん。心を無にするんだ」


「その調子よ、ミコトちゃん。あぐらは崩さないでね」


 心を無にする、する、する……


 わたしはかれこれ30分以上、畳の上であぐらの姿勢のまま座禅していた。


 陰陽術の修行場、わたしも霧子春雨姉弟も袴を着て、かなり本格的に修行している。


 力に目覚めるためには、そういう修行が必要らしい。


「……う……ぐぬぬ」


 目を閉じてると思い出すいろんなこと。


 小学生時代の黒歴史、引きこもり時代の黒歴史、今日までの黒歴史。


 恥ずかしい。


 生きてることがもうすでに恥ずかしい。


(く、黒歴史が……フラッシュバックする……!)


「呼吸を整えるんだ」


「ふかーく、そしてゆっくりと」


 二人の声が聞こえる。


 これで本当に陰陽術が手に入るのか、わからないけど信じるしかない。


 そう、スケくんの為。


 そうだこれは愛の試練なのかもしれない。


 愛に試練なんて必要ないと思うけど、世の中はしょっぱくて、辛くて悲しいほどに無情なのだ。


 世の中はクソ、しょうがない。


 なのでこれは愛の試練だと受け入れる。


「……」


「よし、その調子だ」


「いい感じね」


 スケくんはもう人を殺すなといったし、わたしもそのつもりだ


 そう、そのつもり……


 でも仮に、わたしが殺したクソ野郎のような人がまた現れたらどうするのだろう?


 わたしはどうする?


 答えは決まってる。


 絶対にぶっ殺す。


 手加減できるわけがない。


 感情と怒りに任せて、死なせる。


 わたしが殺す。


 それがわたしなのだ。


「……ぅ」


「ミコトちゃん?」


「顔色、悪くない?」


 わたしは祟り神だったもの。


 誰かがわたしに願えば、人を殺したのだ。


 ただ無感情に、ただ無意味に。


 そういうシステムで、そういう神様だった。


 でも今は、ただのちっぽけな引きこもり20歳女だ。


 神様の力を持った、ただの人間がわたしだ。


「………………」


「ミコトちゃん、どうした……?」


「もうやめようか……」


 神様の力なんて、個人が扱えるわけない。


 死ねって思っただけで人を殺せる人なんて、社会に生きていけるわけない。


 いや、自分引きこもりだけど……


 引きこもりだからある意味助かったというか……


 ん? ということはこれからも人と会わずに生きていけばクリアじゃない?


 人殺さなくていいじゃん、わたし。


「…………あ」


「「あ?」」


 スケくんが言ったこと、クリアできるじゃん。


 あ、どんどん心が軽くなっていく!


 これが開放感ってやつ!?


 働かなければ万事OK


 ずっとスケくんと一緒に暮らして家でゲームしたりラブラブしたりなんか色々して生きよう。


 生活保護あれば何とかなるはずだし。


「夢が……広がりんぐ!! (びかーー)」


 その瞬間、体から凄まじい力に満ち溢れた!


「ミコトちゃん、ついに!」


「成功したのね!」


「何だか、何でもできそうな気がする!」


「何でもいいから陰陽術……スキルを使ってみてくれ!」


「使っても安全そうなのをね!」


「よーし、だったら!」


 わたしは気力を集中して、スキルを使った。


「風のいたずら!」


「こ、これは!?」


「なんて強い風なの!」


 霧子と春雨の着ている袴が、吹き飛ばされそうなほど揺れている。


 そして強い風は、霧子の袴の紐を解いてしまった。


「あ」


「きゃあああああ!」


 ピンクのパンツとブラがあらわになる。


 やりすぎた。


 調整できなくてすまんなと、心の中で謝る。


「おいおい、ちゃんと固く結んだのか?」


「見ないで春雨!」


「いやぁ、別に見ても発情しないしなぁ」


「ふん!」


「いて!」


 霧子は春雨にチョップするのだった。


 仲良し姉弟め、と思うのだった。

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すでに死んでるけど、タタリ神ちゃんに好かれすぎてやばい シャナルア @syanarua

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