第19話 ステータスオープンの秘密

 すけくんは、わたしを見て言った。


「タタリちゃん、お願いしたいことがあるんだ」


「お願い……?」


「特訓してほしい」


「……え?」


「その力をもっと引き出せるように……これからの戦いに備えて……」


 戦いとはどういうことだろうか?


 わたしが誰と戦うというのだろうか?


 わたしの喧嘩歴なんて、親と何回かした程度でしかない。


 いやいや、自分のための喧嘩ならともかく他の誰のために喧嘩なんてするはずがない。


 故に——


「……戦う! 特訓します!」


「……おお、さすがタタリちゃん。

 決断が早い」


「必要なんだよね。そうなんだよね! 何だってする、どんなことだってする! なにのどんなだれだって——戦って蹴散らしてぼっこぼこのボコする!」


 今日、この日までのわたしは、偽物だったのかもしれない。


 愛を知った。


 これがどれだけ世界を変えることなのか思いもよらなかった。


 ああ、ああ!


 すけくんの為なら誰だって相手するし、殺してもいいとすら思う。


 いいや、むしろ殺すべき!


 すけくんの敵は、わたしの敵!


 この世の絶対的なコトワリ!


 有頂天で、空だって飛べる気分!


「ありがとう、でも説明は聞いてね」


「はい!」


「【新真宗】って知ってる?」


「分かった! 【新真宗】の奴らを殺せばいいのね! 今すぐ殺してくる!」


「待って!? 待って! スキル発動、バナナの皮!」


「ぐえ!」


 わたしはすっ転んだ。


「最後まで聞いてね」


「……はい」


「もともと今から500年前の戦国時代に、【新真宗】は誕生した」


「はい」


「教祖だった男は、タタリちゃんの前世……祟り神を利用してたくさんの人々を祟り、殺した」


「え」


 つまり、過去のわたしが関係していたということだ。


 しかし、その時の記憶なんて全くない。


 もっと言えば、前世の記憶そのものがない。


 すけくんが好きだ、という愛だけが今のわたしの中に残っていた。


「だが、最終的にはタタリちゃんの手によって、その教祖は幽世<カクリヨ>に閉ざされ、封印された。

 しかし、今、教祖は復活しようとしてる」


「どうして?」


「俺が、【生まれてくるはずの子供たち】に、人生を与えたからだ」


 【生まれてくるはずの子供たち】というのは、すけくんのそばにいる子供の幽霊で……たしか、神様の力によって親になるはずだった人が殺された結果、生まれてこれなくなった子供たちのことのはずだ。


「【生まれてくるはずの子供たち】が生まれないことが原因の【穢れ】、それこそが災いの火種である教祖本人を封印していたんだ。

 そして俺は500年間、穢れの浄化を続けた結果、封印そのものが解けようとしている」


「それじゃあつまり……この子たちを救えば、やばいやつが復活するってこと……?」


「その通り。

 のこりの子は、今いる3人。

 その子たちを救った最後に、教祖は復活する。

 現に今の日本で、新真宗という組織は復活した。

 奴が力を取り戻しつつある証拠だ」


 新真宗は、わたしのママを惑わせた奴らで、その恐ろしさは身に染みて理解していた。


 その教祖がとんでもない力の持ち主ならば、きっととても悪いことが起きるに違いない。


「……」


「……なーに?」


 わたしは、子供たちの顔を見る。


 無垢で、可愛らしく思う。


 もし悪いやつが復活するからこのまま生まれないでくれ、なんて言えるだろうか?


 くそくらえである。


「戦う、戦わせて」


 浮かれた気持ちが吹き飛んだ。


 自分が、これは戦うべきだと感じたからだ。


 すけくんは、深くうなずいた後、「ありがとう」と言ってくれた。


「ではまずは、タタリちゃんの今のステータスを教えるね」


 すてーたす……?


 突然のゲーム用語に、頭がはてなになる。


「ステータスオープン!」


***


職業:一般人

レベル:1

スキル:人見知り、おねだり、オタク知識、年齢詐称、引きこもり、無我夢中(愛)、呪殺


***


「——ふぇ?」


 なろう小説ばりに、縁結びの神様がわたしのステータスをオープンした。


 というか自分の視界に、薄青いウインドが表示され、文字として浮き上がる。


「ちなみに戦国時代からステータスオープンしてた」


「え???」


「スキル発動、も使ってた」


「は????」


 嘘だろ戦国時代!?


 なろう小説は古典だったのか!??


「最初に始めたのはタタリちゃんだね。

 神様は、過去、現在、未来、すべての時間軸から知識を引き出すことが出来る。

 だからタタリちゃんが今、こうして現代日本に転生したからこそ、戦国時代のタタリちゃんはステータスオープンという現代知識を使えたわけさ」


「はぁ」


 始めたのわたしだったんかい。


 とはいえ、驚きよりも先に腑に落ちる。


 確かにわたしだったらする。


 ステータスオープンも、スキル発動も、戦国時代とか関係なくするだろう。


 そりゃ間違いない。


「少なくとも、今のステータスだと教祖とは戦えない。

 だから、春雨と霧子の二人から、陰陽術を習得してほしい」


「そんな……」


「不満かい?」


「いいえ、あの二人は嫌いじゃないけど、どーせなら、すけくんに修行をしてもらいたく……その……だめ……?」


「まだその時じゃない。

 1週間、修行したら、自分が教えよう」


 わたしはうれしくなる。


 一週間後にまた出会えるという事だし、なにより二人きりになれるからだ。


「やった! 絶対、絶対だよ! 何が何でも強くなってやるから! 驚かせて見せますから!」


「うん、ありがとう。成長を楽しみにする」


「はい!」


「あとそれから」


「なんでしょう? すけくん!」


「これは忠告だよ」


「……?」


 言葉の雰囲気が変わった。


 怒りのような凄みを感じる。


 突然のストレスで、わたしの気が静まった。


「もう二度と、その力を使って、人を殺すな」


 それを破った時、おそらくわたしは、たとえどんな言い訳をしたところで、すけくんから見放されるだろうということを、直感した。



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