3.ミノタウロスってどこを食べるの??②


 「やれー! ぶち殺せー!」


 「滝のほうへ行ったぞー! 追いこむんだ!」


 村の中でも屈指の強い男たちがミノタウロスを仕留めようとしている。人間の魔法を暗唱する声やミノタウロスのうめき声があたり一面響いていた。「こういうのは魔法が得意な人と腕っぷしが強い人にまかせとけばいいのよ」女将さんは早々にいなくなった。

 そんな様子を、山本涼那(ヤマモトリョウナ)は呆然と見ていた。


 (いやミノタウロスでっか!!)


 涼那はミノタウロスが気になって捕獲するところをのぞきみしようとした。そしたらそのあまりの大きさに腰を抜かした。それくらいミノタウロスはデカかった。大型のクレーン車ぐらいあるのではないだろうか。こんなでかい動物現在の地球にはいるのだろうか。


 (わざわざこれを仕留める必要ある……?世の中もっと美味しいものあるんじゃない……?)


 それをいったらなにも始まらない。


 この村ではメスのミノタウロスを主に飼育している。名産のアイスクリームのためだ。そして週に一度、捕われたミノタウロス♀を求めてミノタウロス♂がふもとまでやってくる。そのミノタウロス♂を食用として仕留めるわけだ。

 もちろん村の人たちも全てのメスを飼育していたり永遠と縛り付けておくわけではないらしく、一か月サイクルで野生のミノタウロスといれかえるようだ。「ストレスは大敵だからね」なるほど、味がおちたら元も子もない。


 こうして涼那が腰を抜かしている目の前でミノタウロスと人間の戦いは展開されていった。




 「いやどっからどう見ても人間だろこれ」


 涼那のまえにはミノタウロスの死体が三体あった。頭と胴体が首チョンパの死体である。ミノタウロスは頭が牛でそれ以外は人間だ。規格外な大きさの完全な猟奇的殺人事件の完成だ。


 「いやー、怪我人もなくてよかったなー! 今回はでっかいのが何体か狩れたし! よかったよかった」


 「そ、そうですよねー、美味しそうですよね、この上腕二頭筋」


 ミノタウロスを見ている涼那に隣にすんでいるおじいちゃんが声をかけてくれた。

 とりあえずおじいちゃんに合わせて話を進める。涼那からしたらただの牛の頭と頭のないおっさんの死体だ。まずどこをどう食べるのか分からない。おじいちゃんは

不思議そうに言った。


 「涼那ちゃん変わってるねぇ……身体もそのまま食べるのかい?」


 (いや身体は食わんのかい!)


 まるでおかしなものを見るような目で見られてしまった。くやしい。聞くと身体の部分は筋肉がかたく歯がまったくたたないらしい。干したり燻製にして非常食にするようだ。「そんなもん知らんがな」涼那は泣いた。


 そんなこんなでミノタウロスの頭の部分は料理された。普通の何倍も大きい牛の頭だ。こうやって頭だけ見ると普通のでかい牛だ。一体どうするんだろう。涼那は期待に胸を膨らませて料理ができるのを待った。




 「おまたせー!さぁ、召し上がれ!」


 女将さんは笑顔で食卓に料理をおいた。涼那はドキドキしながら料理を見る。

 出てきたのはなんと唐揚げだった。こんがりと焼けた唐揚げは良い香りを放っている。油がつやつやと光っていた。


 「え?唐揚げ?」


 涼那は思わずびっくりする。思ったより普通のものだった。第一にどこを揚げたのだろう。


 (とはいえもう牛みたいなものだしな……変なところはないか)


 唐揚げを見るとハイボールやビールが欲しくなる。条件反射だ。ギトギトとした油を冷えたビールで流しこみたい。とはいえ今てもとにお酒はない。あとで聞いてみようかなと考えながら涼那はアツアツの唐揚げを口に放りこんだ。出来たての唐揚げはやけどがしそうなくらい熱かった。


 (あれ?)


 はふはふと口の中で唐揚げをころがす。想像していたようなサクサクとした食感ではない。ふわふわとしていて中身がトロッと出てきた。


 (なめらかな舌ざわり……口の中でとけるクリーム系な濃厚な味……ほんの少しのくさみ……これは)


 「白子だ!」


 そうだ白子だ。あの味とまったく同じだった。「ということは」涼那は考える。白子と似ている部位なんて限られている。


 「美味しいでしょう、"ミノタウロスの脳の唐揚げ"」


 女将さんが笑顔で答えを言ってくれた。


 (美味しい……!すごく美味しい……!あんまり食べる機会はないけど脳みそなら元の世界でも食べるしね……!けど……!)


 涼那は思った。あれが欲しい。濃厚だが後をひかないインパクトが強いものにあうもの。そう日本酒。日本酒だ。これにはかの日本酒様必要なのだ……!


 (辛口の後味すっきり系の純米大吟醸酒と飲みたいぜ……)


 涼那は口内で日本酒を想像した。

 ちなみに大満足の涼那だったがこの後、脳のソテー、脳の蒸し焼き、脳のソースがけ、脳の……といった脳料理が続いてどんどんげんなりしていく。ミノタウロスから取れる脳の量は当たり前だが普通の牛の何倍もあった。


 「痛風になりそうだ……」


 涼那は遠くを見ながらつぶやいた。



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酒狂いヤマモトさん! 〜倫理破綻の異世界ゲテモノ生活〜 87U25 @amatou1996

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