第54話、最強助っ人


 アルトズーハの町へ帰る道中、俺はプラチナさんに、セアについて説明した。


「……邪教組織の実験体」


 その言葉に、プラチナさんの麗しい眉が揺れる。


 俺が話す間、珍しくセアが緊張しているように感じた。ネージュとヘイレンさんは、どこか微妙な表情をしている。一方、まったく気にする素振りがないのがフラム・クリムだった。


「ドラハダスが、こんな子供で禍々しい実験をしていたなんて……」

「そっか、セアっちは、その『どらはだす』って奴らにいじめられていたんだな」


 深刻なプラチナさんの横で、フラム・クリムはお姉さんぶってセアの頭を撫でた。


「じゃあ、セアっちもツグに助けられたんだな。仲間だ仲間」

「うん……」


 セアが目を細めた。俺は適当に話をでっち上げる。


「セアを保護した時、彼女を利用していたドラハダスの男は魔獣に殺されたんで、それ以上のことはよくわからないんですが、セアをひとりにはできずに、今に至るわけです」

「そうだったの……」


 同情的な目を向けるプラチナさん。


 うん……? 俺は何やら視線を感じて振り向けば、ネージュがとても熱っぽい視線を向けてきた。


「どうした、ネージュ?」

「ツグ様は、ドラハダスを追いかけていたのですね」


 ん……?


「邪教組織ドラハダスは、悪魔と結託し、私の故国を破滅させた者たち……。それを討伐し、実験体にされていたセアさんを助けた。ツグ様こそ、私たちの求めていた勇者様。ええっ、本当の本当に、勇者様」


 うっとり、とはまさにこれ。


「私、ツグ様に一生を捧げます。ドラハダスを討ち滅ぼすため、私もこの身を粉にして尽くさせていただきます!」


 嘘を混ぜた話だったのだが、俺を救世主か何かに思ったようだった。セアに不利になるような話はできないから、今さら嘘ですとは言えないし……。やばいな、邪教組織は別に追ってないんだけど!


 そんなこんなでアルトズーハの町についた時は、すっかり夜だった。


「お帰りなさい、ギルド長!」


 ウイエさんやギルドスタッフが出迎える。さらにロッチとオルデンメンバーが武装してそこにいた。


「おう、帰ってきたか!」


 ロッチがやってくる。


「お前ら水臭いぞ。魔界の出入り口とやらを探しに行くなら、オレたちにも声をかけろ」

「すまんすまん。こっちは終わったから、もう大丈夫だ」


 俺が答えると、ロッチが目を丸くした。


「終わったって……?」

「魔界のゲートは塞いだよ」

「はい!? あったのか、というか、お前らだけで片づけちまったのかよ!」


 何でオレたちを連れて行かなかったんだよ!――と地団駄を踏むロッチ。なおオルデンのメンバーたちは、とても安堵していた。……悪魔と戦わなくて済んでホッとしているんだろう。


「いやあ、貴方にも見せたかったわ。ツグ君の活躍」


 突然、プラチナさんが、ロッチを見てドヤった。


「悪魔たちは、ゲートを死守するために巨大な溶岩のゴーレムとアークデーモンを繰り出してきたのよ」

「溶岩のゴーレムにアークデーモンだと!?」


 声を張り上げるロッチに、ギルドスタッフやフロアにいた冒険者たちも振り返った。


「誰も触れないマグマゴーレムを、滝のような水魔法で爆発させたり――」

「……!」

「強大なアークデーモンを前に絶体絶命の私を、颯爽と救ってくれたわ! ああ、もう今思い出しただけでも、胸が高鳴るわ!」


 プラチナさんが両手を自身の頬に当てて身悶える。


「……え、あの、プラチナさん……?」


 年甲斐もなく、といっては失礼なのだが、ふだん冷静なギルドマスターが乙女のような仕草を取ったことに、ロッチや場に居合わせた人々が驚愕した。こんなことあるのか?――という顔で。


「だー、くそう! ツグ!」


 ロッチが俺の肩に手を回した。飲んではいないが酔っ払いに絡まれるように。


「今日の防衛戦で、すでに酒場は出来上がっているが、ゲート云々がねえならオレたちもそれに加わる。お前も付き合え! そしてお前たちの武勇伝を聞かせろ、この野郎!」


 ガハハッと笑いながら、俺はギルドに併設されている酒場へと連行されてしまう。


「おー、ドラゴンスレイヤーだ!」

「英雄殿が来たぞー!」


 すでに酒場で飲んでいた冒険者たちがコップ片手に声をかけてきた。ロッチが喧噪の中でも聞こえる大きな声を出した。


「お前ら、アルトズーハは救われたぞ! 魔界のゲートとやらは、このツグ様が壊しちまったらしいからな!」

「マジかよ!」

「おおー!」


 周りから声が上がる。ロッチは続けた。


「さあて、お前ら、ジャンジャン酒を飲め! アルトズーハを救った冒険者に乾杯だァ!」

「「「うおおおおおおぉっ!」」」


 どよめきだか歓声だかが、酒場だけでなく冒険者ギルドフロアにまで轟いた。



  ・  ・  ・



 翌日、俺たちは、ポルトン村廃村にある拠点に向かっていた。


 おうちに帰って、ゆっくりしよう。


 昨日は、それはもう大変だった。悪魔の軍勢、邪竜にアークデーモン――


 魔界のゲートはなくなったので、しばらく休んでもいいだろう。


 万年Eランクの冒険者で、パーティーを追放された。おまけに死にかけた。でもそこで、執筆チートを得て、セアに出会った。


 そこから始まったんだ。俺の新しい人生は。


 それからあっという間にランクが上がり、今ではAランクの冒険者だ。


 頼もしい仲間たちを得た。セアに、ネージュ、ヘイレンさん、フラム・クリム。……そうそう、みんな今回の戦いの結果、冒険者ランクが昇級した。


 アルトズーハ防衛戦での活躍はもちろん、ギルドマスターであるプラチナさんが個々の戦果を確認したことで昇級だ。


 アルトズーハの町有数の上級冒険者パーティーである。デビルドラゴンを倒したことを含めて、またも多額の報酬を得た。当分は、何かあった時の助っ人として活動するくらいでちょうどいいだろう。


 ああ、そうだ。せっかくのんびりするのだから、これまでのことを書にまとめよう。そして小説を書く!


「ツグ」


 セアが俺を見上げる。


「ありがとう」

「ん? それは何のお礼だ?」


 俺は首をかしげるが、ツグは微笑を浮かべた。


「秘密」

「お、おう……」


 気になるが、セアの小さな笑顔に、内容なんてどうでもよくなった。

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執筆チートで成り上がり! 追放冒険者、最強助っ人になる。 柊遊馬 @umaufo

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