第53話、ゲートを破壊した


「セア!」


 俺たちの見守る中、セアは闇の宝玉を自らの胸に押しつけた。それはグッと少女の体にめり込み、いや飲み込まれた。


「いったい何を!?」


 闇の宝玉を取り込んだ。俺の中で嫌な予感が込み上げる。


 確か、これを複数取り込んだネージュは、魔界の瘴気に冒されてカゲビト化という影の魔物になってしまうところだった。


 人体にとって有害なそれを、何故セアは自ら取り込んだのか?


 カゲビト化を危惧して鑑定を使えば……ん?


 状態変化中の文字が浮かんだ。セアの体から黒いオーラが出たのは、わずか数秒のことだった。


 次に起こったのは、セアの体の変化。十七、八くらいの少女の体に成長したのだ! ショートカットだった青い髪もロングに伸びている。


「えっ!?」

「何が起こっているの!?」


 ネージュ、そしてプラチナさんも驚く。


 体が成長したせいか服が鎧が、変化した。まったく別の、セアが使用している手甲、ラン・クープラと同じ色の鎧に変わる。


「セア……?」

「やばいぞ、ツグ! ゲートが……」


 フラム・クリムの声。魔界のゲートからレッサーデーモンが現れる。魔界からの増援か!?


「ゲートを――!」


 言いかけたその時、セアが動いた。ラン・クープラから闇色のブレードが出現。それを出てきたレッサーデーモンを切断する。


 下級とはいえ、悪魔の体があっさりと両断され、二つ、三つと出てくる端から倒されていく。


「ツグ!」


 セアが、俺を見た。


「ゲートにドラゴンスピアのブレス魔法を」

「いいけど、お前がそこにいると――」

「避ける。撃って!」

「っ! ちゃんと避けてくれよ!」


 異空間収納からドラゴンスピアを取る。


 疑似ブレスを放つ。それはゲートに迫り、セアは言葉どおり跳躍してかわすと、攻撃はゲートから出てきた魔物を吹き飛ばして、その中に飲み込まれていった。


「これで破壊できないか?」

「大丈夫」


 セアが両手をゲートに向けた。


「ゲート、封鎖!」


 その言葉と共に、魔界のゲートが歪み、やがて消えた。……消したのか? セアが?


 いったいどうなってるんだ?


 セアが急成長したのは? 闇の宝玉の副作用は? どうやってゲートを消した?


 色々聞きたいところだったが、またもセアの体に変化が起きた。ふっと力が抜けたのか、十代後半の少女の体が、元の十二、三歳くらいの小柄の体に戻る。


「セア!」


 慌てて駆け寄る。やっぱり反動が!? セアを抱き上げ……って、うわあ、服がない!?とりあえずマントをかけて裸を隠すぞ。


「セア! 大丈夫か?」

「……ツグ。力が抜けた」


 セアはいつもの無表情、と思いきや、ちょっと頬が赤いような。


「見た?」

「何を?」

「……ううん」


 そっとセアが目をそらした。どこか具合が悪いかと、鑑定をさらにしていく。闇の宝玉を取り込んで瘴気に冒されているかと思いきや、『正常』との診断結果。……何でなんともないんだ?


 ――セア・フォー。闇の魔力を取り込むことで強化される実験体。


 鑑定による補足。実験体ってのは、そういう意味か!


 闇の宝玉などの魔法物質を人体に取り込んで力に変える実験で作られたのがセア。邪教組織の仕込みだったということだ。


 そういえば、セアは以前、闇の宝玉とかカゲビト化を知っていたな。


 彼女自身には耐性があって、カゲビト化しないのだ。


「ツグ……恥ずかしい」


 わずかに拗ねたようにそっぽを向くセア。鑑定のためとはいえ、じっと見つめていたのたのがいけなかった。


「ああ、ごめん。……その、痛いところはないか?」

「平気」

「そうか。よかった。……立てるか?」

「うん」


 立ち上がるセア。マントの下は、手甲とブーツだけとか、ちょっと危ない格好だ。異空間収納で複製しておいたセアの服を渡しておく。後ろを見てるから、そのあいだに着替えて。


 と、その間に、ネージュを診ないと。確かアークデーモンの攻撃で負傷していたはずだ。ゲートもなくなったから、手当てする!


 俺はネージュとそれに寄り添うヘイレンさんへ向き直る。


「ネージュ、大丈夫か?」

「ツグ様……」


 ヒール――治癒魔法で、ネージュの怪我を治療。


「ツグー!」


 フラム・クリムが走ってきた。


「これで終わったのか?」

「多分な」

「そいつはよかった! それにしてもアークデーモンを倒しちまうなんて、大した奴だぜ!」

「いや、相手が存在自体がズルだからな。ズルにはズルで対抗しただけだよ」


 俺としては、まあ褒められるようなものでもないなと思っている。本当に強いやつなんて、チートに頼らなくても魔王をやっつけちゃったりするんだろう。俺は、そんな勇者じゃないし、使えるものを使っただけだ。


「ツグ様、ありがとう、ございます……!」


 ネージュが、泣いていた。


「国の、家族の、仇をとってくれて……ありが、とう……」


 ボロボロに泣き始めるネージュ。ヘイレンさんが彼女の背をさすり、俺を見た。


「私からもお礼を。ビランジュ王国と、散っていた者たちの無念を晴らすことができました」

「……」


 あのアークデーモンは、彼女たちにとって因縁深い敵だった。本当なら自分の手で倒したかったはずだ。……俺は余計なことをしてしまったかもしれないな。


「ありがとうございます! ……私の勇者様」


 ん? 最後、なんて言った? 私の、何?


「おーい、セアっち!」


 フラム・クリムがセアのもとに駆け寄って、声を弾ませた。


「お前、体大丈夫かよ!? お前も変化の術みたいの使えるんだなー」


 先ほどの変化をあっさり受け入れるオーガ娘である。上級鬼的には、それほど驚くようなものでもないのかな?


 ……一方で、プラチナさんは複雑な表情で、セアを見つめている。……うん、まあ、そうなるよな。


 俺だって鑑定で安全が確認できなければ『何故?』が先行してしまっただろうから。


 その辺り、俺がフォローしよう。彼女は大事な仲間だもんな!


 ともあれ、今回の魔界のゲートの発見とその処理、終了だ!

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