第52話、チート対チート


 アークデーモンの防御の魔法を俺の解除魔法で破壊――


 ギン!


 ネージュの魔法剣が止められた! 解除魔法が効かなかったっ!?


 そうとは気づかなかったか、ヴェーガはネージュを見下す。


『馬鹿の一つ覚えが』

「王国の仇ぃ!」


 ネージュは怒りを露わにする。だがヴェーガの刹那に繰り出した蹴りを腹部に受けて吹き飛ぶ。


『王国の仇? はて……何のことやら』

「お前が、……私の国を、滅ぼした」


 鎧ごしに腹を蹴られたネージュが起き上がりながら言った。


 彼女のビランジュ王国は、邪竜と悪魔にやられた。俺はそう聞いていたが……。


『お前の国? ふん、知らんな』


 ヴェーガは冷徹に言い放った。


『人間の国など、いちいち覚えていない』

「貴様っー!」


 ネージュは激昂した。しかし彼女の剣は届かない。


『鬱陶しい!』


 ヴェーガがレイピアを振るった。ネージュの肩を、太ももを剣が貫く。


「姫様!」


 ヘイレンさんが邪竜刀で、それ以上の攻撃を防ぐ。


「おいおい、あいつマズいぞ……」


 俺のそばでフラム・クリムが呟いた。


「ツグ、例の結界を破る魔法で――」

「それならもうやった。だが破れなかった」


 どうしたものか。威力不足というなら、俺が直接渾身の一撃を叩き込めば、あるいはやれるかもしれない。だが相手はスピードも優れているときている。


「普通にやったら、手こずるな」

「あの悪魔の剣が早過ぎて見えねぇし」

「いや、あれは見える」

「ホントかよ!?」


 フラム・クリムが驚いた。俺は、ヘイレンさんと打ちあっているヴェーガの剣を見やる。


「俺は、この十年近くを冒険者やってきたけど、あの悪魔の剣は最速じゃない。世の中にはもっと速い奴もいる」


 ヘイレンさんは、何とかヴェーガの攻撃を凌いでいるようだ。あれはあれで刀の達人だろうが、たぶんあの動きは一分が限界とみた。年齢からの肉体の衰えは隠せない。


「俺の経験から言わせてもらえれば、正面の一対一なら、さばききれる」


 が、決め手に欠けるな。ゲートも早く破壊したいし。


「フラム、ちょっと時間をくれ。ヘイレンさんがやばかったら援護を――」

「アタシがやらなくても、セアっちと、黒騎士がやってくれるだろうぜ」


 セアとプラチナさんが、アークデーモンへと近づき、攻撃の機会を窺っている。ヘイレンさんがバテても、即交代できる態勢だ。


 ……うちの子たち、ホント優秀!


 俺は手帳を取り出す。執筆チートにお願い――ということで、筆を走らせる。


「何をしているんだ、ツグ?」

「おまじない」


 ガキン!


 ヘイレンさんに代わり、プラチナさんがアークデーモンに斬りかかる。


『今度はお前か。無駄なことを』

「それは……どうかな!」


 プラチナさんの魔剣が黒い闇をまとう。


「お前の防御の魔力を、この魔剣サクリフィスは吸収する!」

『魔剣使いか。フフ……』

「何がおかしい!?」

『果たして、魔力を吸収しきれるかな? 我はアークデーモンぞ!』


 魔剣を構えて動けないプラチナさん。その兜で覆われた顔面に、剣を突き立てようとするヴェーガ。


 バッ!


 その瞬間、アークデーモンの剣をもった腕が飛んだ。


『なにぃ……!?』

「そこまでだぜ、悪魔さんよ」


 俺は、サンダーブレードを手に、ヴェーガに斬りかかった。防御魔法が防ぐ――そう思っていただろう奴の胴体を雷の剣が切りつけた。


『うぐっ! バカなっ! 障壁が……』

「お前のチートは無効化した」


 俺が再度斬りかかれば、慌ててヴェーガが後ろへ飛び退いた。逃がすかよ!


『そんなバカな! 魔法で我の障壁を解除することなど不可能なはずだ――!』

「ああ、魔法じゃないんだな、これが!」


 今度はヴェーガの左腕が飛んだ。


「こいつはユニークスキルってやつだ」


 執筆チートにこう書いた。俺の攻撃はヴェーガのあらゆる防御を無効化する、ってな! 執筆チートは魔法じゃないんだぜ。


 チートにはチート。俺のチートがお前のチートに勝っただけだ。


『ぐぬぅぅー!』


 ヴェーガが腕が再生する。ほっ、まだチートを使うか。ただでさえ個体性能で、人間の敵う相手じゃないアークデーモン。これとまともに戦うなんて、不公平過ぎるが……。


「仕留める!」


 アークデーモンの心臓――まずひとつを貫く。鑑定――こいつの心臓は、さらに一個。これを切り裂き、しまいに脳を破壊!


『ぐおぉぉぉぉ……』


 ヴェーガの叫びはかき消え、その体は塵となって消滅した。


 ふぅ。ちょいと一息ついた時、俺の体に不意打ち! えっ、何?


「ツグくーん!」

「プラチナさん!?」


 なんと、抱きつかれていた。暗黒騎士姿のプラチナさんに。


「あっ、ちょ……怖いので、兜はとって」

「ツグ君っ!」


 言われたとおり、兜をとれば、その銀色の美しい髪がなびいた。


「ありがとう! 本当にありがとうっ!」

「大丈夫ですか!?」


 感極まっている彼女に、俺はついていけなかった。なになに、どうしたの?


「私、目の前に剣先が見えたの! このまま目を貫かれて死ぬかと思ったのっ」


 プラチナさんが俺に密着して涙声を出した。


「助かった。ありがとう! ツグ君のおかげ! 私、貴方に助けられた!」

「あぁ、はい。無事でよかったです」


 目の前で死なれたら、俺も困る。そうだ、確かネージュが怪我をしたような。それにゲートも早くどうにかしないと――


「おい、セアっち!」


 フラム・クリムが叫んだ。見れば、そこにはセアが立っていた。


 ヴェーガが持っていた闇の宝玉を手に。

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