第51話、魔界のゲート


 カリダ小遺跡にたどり着いた。オークやレッサーデーモンが襲いかかってきたが、セアとネージュに、後続が追いつき、こちらも総出で攻撃する。


「はああああっ!」


 プラチナさんの魔剣が、レッサーデーモンを一刀両断した。兜を被った姿は、まさしく暗黒騎士。堂々たる出で立ちだ。


 ふっ――フラム・クリムの邪竜弓から放たれた矢が、空のレッサーデーモンを撃ち貫く。


 ヘイレンさんが流れるようにオークを切り捨て、ネージュがシールドバッシュからの斬撃で敵を仕留める。その周りを素早くセアが動いて、オークを次々に死体へと変えていく。


 うちのパーティーメンバー、めっちゃ優秀だ。


「むっ……?」


 四角い岩を使ったとおぼしき、小さな遺跡である。その奥に祭壇のようなものがあって、そこに黒い大きなリングがあった。


 こいつが、魔界とやらに繋がるゲートか。


 その時、ゲートが揺らいだ。中から何か出てくる!


 ズウン、と巨大なる足が大地を踏んだ。


 ところどころに炎をまとう巨人……いや、ゴーレムだ!


 鑑定結果、マグマゴーレム《強》


 溶岩を蓄え、炎をまとう魔界石でできた巨大ゴーレムだ。高さは七、八メートルくらいはある。


 さらに、マントをまとう人型が一体。……こっちは――


「アークデーモンだと!?」


 上位悪魔アークデーモンは、グレーターデーモンよりさらに上の強さを持つ悪魔だ。オーガ上位種と同じく、人のような姿をしている。


 黒い髪に二本の曲がった角、灰色肌。目は黄色い宝石のようだ。若い男のその姿は魔術師か、はたまた魔界の貴族か。


『ギルクゥよ、とんだ不始末だぞ』


 そのアークデーモンが、ゲートの前にいるグレーターデーモンを見下している。


『も、申し訳ございません、ヴェーガ様! よもや人間にデビルドラゴンが倒されてしまうなど……』


 グレーターデーモンが平伏する。ヴェーガと呼ばれたアークデーモンは唇の端を歪めた。


『さらに、人間どもにゲートまで攻め込まれおって!』

『も、申し訳……おおっ!?』

『死んで詫びろ』


 マグマゴーレムの足が、グレーターデーモンを踏み潰した。凄まじい蒸気と肉の焼ける音が響いた。


 グレーターデーモンの死体のそばにあった何かが、宙に浮かぶ。あれは――闇の宝玉か!?


 デビルドラゴンの額についているのと同じ宝玉が何故そこに? あ、あれか。ゲートを制御するのに必要なのか? なら、まとめて消えろ!


 俺はドラゴンスピアを、マグマゴーレムに向けてブレスを発射した!


『ふん!』


 アークデーモンが手のひらを突き出す。すると防御魔法なのか、疑似ブレスが弾かれてしまった。


「ドラゴンブレスも無効にするのか!?」


 何という防御性能だ。


『人間どもに、邪魔されるわけにもいかんのでな』


 ヴェーガ――アークデーモンが闇の宝玉をとった。


『ゆけ! マグマゴーレム!』

『オオオオオオオオオン!』


 重量のある巨大ゴーレムが歩き出した。そこへ、ネージュが氷の塊を飛ばした。それはマグマゴーレムというより、ヴェーガを狙ったように見えた。


『無駄だ。愚かな人間め』


 アークデーモンの前に、氷魔法は防がれた。


『私に魔法は通用せん! 喰らえ! 氷華!』


 ヒュッ――


 周囲の空気が一気に冷え込んだ。


 バシュッ!


 無数の氷が辺り一面から突き出した。俺は飛び退く。効果範囲ギリギリ!


 ネージュはとっさに盾で防ぐが吹き飛ばされ、セアは危うく氷に串刺しにされるところを間一髪で回避した。

 プラチナさんは、魔剣で氷を切り払った!


「フラム!」

「あたしは無事さ!」


 俺より後ろにいたからな。そのフラム・クリムが、邪竜弓でヴェーガを狙った。放たれた矢は、しかし寸でのところで、ヴェーガの指先手前で止められた。


『ほう、いい攻撃だ。だが届かん』


 余裕のヴェーガである。物理攻撃も防ぐのか!


『雷光よ、貫け!』


 雷の矢がフラム・クリムを貫――く寸前に、俺が割り込み、阻止!


「え、あ……?」


 まばたきの間の出来事に、フラム・クリムの動揺の声が上がる。


 くそっ、防御魔法をかけて出たんだが、あの雷、それを貫いてきやがった。


 じゃあ、なんで俺が無事かというと、サンダーバックラーを構えていたからだ。


『我の雷を防ぐか。驚かせてくれる』


 ヴェーガが唇の端を歪める。


「ふふん、俺の盾は雷のスペシャリスト、雷獣の素材でできてるのさ」


 でも、これがなかった防御魔法を貫かれて、俺もフラム・クリムもやられていたぜ。くわばらくわばら。


 しかし、参ったな。アークデーモンには物理も魔法も効かないってか。鑑定した時に、無効とは出ていなかったから、単に威力が不足しているだけか? 生半可な攻撃じゃなかったはずなんだが……。


 化け物だな、マジで。また槍投げでもするか? 邪竜を仕留めたように。


「……って!」


 マグマゴーレムが手に巨大な火球を作り出して、放り投げてきた!


「フラム!」

「んなくそっ!」


 慌てて退避! 着弾した火球が破裂し、周囲に溶岩を撒き散らした。……当たったらやべぇ!


「だがよぅ……マグマっていうなら、こいつでどうよ!」


 広大なる海、その膨大なる水よ、かの者に降り注げ!


「アクアブラスト!」


 マグマゴーレムの頭上より多量の水を滝のごとくぶつける。消火、消火! 全身の火が消えるまで水をかけるのをやめない!


 すさまじい蒸気がマグマゴーレムの体から上がる。蒸気の音が木霊し、嫌がるように身悶えするゴーレムは、次の瞬間、大爆発を起こした。


『マグマゴーレムが……!?』


 ヴェーガが予想していなかったのか驚いた。しかし爆発の衝撃波が効かなかったあたり、アークデーモンはやはり手強い。


 つか、危ない。もう少しこっちにゴーレムが近づいていたら、セアやネージュも巻き込まんでしまうところだった。


 と、そのセアがアークデーモンへ突撃した。ドラゴンダガーを突き刺そうとするセアだが、ヴェーガの防御の魔法で防がれる!


『効くか、そんなもの!』


 アークデーモンの手に、漆黒のレイピアが現れる。それによる恐るべき素早さの突き。一瞬の一撃だが、セアの常人離れした反射がそれを躱した!


「アークデーモンッ!」


 ネージュが鬼のような形相で、ヴェーガへと挑みかかった。俺は、敵の防御の魔法の解除を試みる。


 魔法剣スノーホワイトがきらめいた。

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