46 変態と文化祭に行くとすぐ咥えたがります

 文化祭。

 それは文化部の人間にとってはまたとない一大イベントであるが、それでもやはりこういったイベントを楽しむにはそれなりに学校での立ち位置というものが求められるもの。


 学校では陰キャラ扱いの俺とイリアにとっては肩身が狭い、はずなのだが彼女はそんなものなど知らぬと言わんばかりに文化祭を愉しんでいる。


 がやがやと多くの人が出入りする文化祭初日。

 仮装した人も多く、出店も過去最高という話の通りに所狭しと正門からグラウンドに向けて多くの店が連なっている。


 その間をうろうろと。隣にいるのはもちろん変態。


「志門君、チョコバナナ売ってるわよ」

「ああ、でも高いんだよなお祭り価格ってやつで」

「私が食べてるところ見たくない?」

「何するか想像がつくから遠慮します」


 りんご飴、チョコバナナ、串焼き。なぜか棒状のものをひたすらに求める彼女はやはり美人であっても変態。

 それになぜか俺の指定したコスプレではなく、その辺で売っているような安っぽいセーラー服を着ているから少し目立つ。


「なんだよそれ」

「昨日あなたが買ったアダルトな雑誌に載ってた子を意識したのだけど、ダメかしら?」

「なんで知ってるんだよ」

「あら、それについては柚葉ちゃんに調べさせたから一発よ」

「あ、あのやろう!」


 そういえば、朝食の時に柚葉が一度部屋の方に戻っていったのって実は俺の部屋を散策するためだったのか?

 敵は身内にあり、だな。気をつけないと……


「それよりどこから回るんだ?俺はあんまり目立ちたくないぞ」

「志門君の傾向と対策はばっちりよ。まずメイド喫茶から行くわよ」

「そんなのやってるんだな。ちょっとおもしろそう」

「志門君ってメイドさんに裸エプロンさせそうよね」

「そ、そんなわけないだろ」

「そのくせソックスはニーソじゃないとダメとか拘りそう」

「そそ、そんな趣味ねぇよ」

「そのうえおっぱいは見えない方がそそるとか言い出したり」

「なんで全部俺の趣味知ってんだよ!」


 ええ、彼女の言った通りでございますよ……

 こいつ、俺が部屋で見てるエロ動画とかハッキングして覗いてるだろ?


「そういえばひなちゃんは?今日は姿を見ないけど」

「ええ、彼女なら詩ちゃんと柚葉ちゃんと三人で出かけたわ。気を利かせてくれたわけね」

「いらん気遣いだな」

「で、今からホテル行く?」

「行くか!」

「とか言いながら?」

「その飲み会みたいなノリやめろ!」


 結局チョコバナナを買った。買わされた。

 はむっと一口、それを頬張る彼女は口の周りを黒くしながら「エロい?」とか聞いてくるのでもちろん無視。

 いちいち相手をしていたらきりがない。そう思ってそっぽを向いたところで彼女が少し怒る。


「ねぇ、今日は恋人デートの約束だったわよね」

「だからこうしてデートしてるだろ」

「いいえ、これじゃあ普通よ。恋人デートを所望する私としては不服ね」

「じゃあどうしろと」

「うーん、とりあえず一発やっとく?」

「おっさんか!」


 とても女子高生の発言とは思えない殺し文句だった。

 ていうかこんな人混みの中で一戦交え始めたら即通報だよ。


「とにかく、恋人デートしてくれないなら私、ひなちゃんにあなたのこと売るから」

「そ、それは……」

「あーあ、せっかく聖なる護符の力でひなちゃんから守ってあげてるというのに扱いが雑だわー」

「急にファンタジーな力出してくんな」

「いいえ、あなたのポケットに入れてあるわよ」

「なに?」


 見ると、いつのまにかポケットがぱんぱんだ。

 手を突っ込むと何か布が詰められている。


 ……パンツだ。


「い、いつのまに?」

「まぁ、こんなところでパンツ広げないで。みんな見てるわよ」

「へ?」


 人混みの中で女子のパンツをポケットから取り出す高校生男子。

 そんな変態の噂はすぐに広まり、やがて志門司というとんでもない変態がこの学校にいるという話は誰もが知る事実となる。


「……最悪だ」

「あーあ、あなたの高校生活終わったわね」

「誰のせいだよ!」

「責任とって彼女になってあげるから許して」

「結局それかよ……」


 もう数え切れないほどイリアにはめられてきたが、しかしそこまでして俺と付き合いたい理由とはなんなのだ?

 単にこいつが変態で、エッチなことをする相手がほしいだけならこの見た目だし選びたい放題ではあるだろう。


 でもそういうことじゃないとなると、一体……


「なぁ、今更だけどお前ってそんなに俺のことが好きなのか?」

「ええ、あなたと付き合いたくて仕方ない私はパンツを濡らして眠っているほどよ」

「高校生でそれは問題ありだよ!」

「私、志門君の優しいところとか真面目で不器用なところとか、好きよ」

「な、なんだよ急に……」

「あと、面白いし一緒にいると楽しいところとかも好き。あなたの小説も好きだし、そんな人の彼氏になりたいのは当然じゃない?」

「お、おう……」


 おいおい、なんでこいつは急にスイッチ入ったみたいにまともになるかねぇ……

 この空気だと、今流れで告白されたら断りにくいだろうが。


「あとね……あなたに一つ言いたいことがあるの」

「あ、ああ……」


 きた、告白される。

 でも、よく考えてみたらだけどイリアって美人だし、変態だけどひなちゃんみたいにやばくないし、こうして一緒にいる時間も長いから、案外付き合ってみたら楽しかったり?

 お、おいおいなんか緊張するじゃねえか……


「あのね」

「う、うん」

「部屋で一人でする時にVR使うのはいいけど部屋の鍵は閉めといた方がいいわよ」

「な、なんでそれを!?あ、お前もしかして最中に部屋に!?」

「いえ、柚葉ちゃんと二人でこっそりとね。でもフィニッシュの時に少し声大きいわよ」

「やめろー!」


 愛の告白はされなかった。

 代わりに俺の性事情が覗き見された事実を告白された。


 まだまだ文化祭初日の朝。

 学校中の信用を失い、プライベートを失い、そして変態だけが隣に居残る。


 ……最悪のスタートだ。

 

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美人で孤高な銀髪碧眼クラスメイトが、実はお喋りな変態だった件。 明石龍之介 @daikibarbara1988

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