45 文化祭前日も変態と遊んでいます

 そもそも警戒すべきなのはひなちゃんと部室で二人きりだということ。

 それが頭から抜けてしまえば俺は即死するだろうと、動物的本能が俺に訴えかけていた。


 少し逃げ腰な姿勢のまま、出口の位置を常に確認しながらトランプを配る。

 配る時ももちろん彼女から目を逸らさない。


「やーん、先生ったら見過ぎー!そんなに私、色っぽいですかぁ?」

「怖いからだよ」

「かわいいから?やだーちょっきゅー」

「……」


 変態は耳が聞こえないのだ。

 だからいちいちツッコミを入れてしまうと相手のペースに陥る。


 冷静に、イリアが戻ってくるまで時間を稼ぐんだ。


「じゃあ、まずは先生から引いてくださいね」

「い、一回勝負ってのもなんだから三回勝負くらいにしないか?ほら、二人だとすぐに終わっちゃうし」

「うーん、いいですよー」


 よし、こういうところはやはり年下だ。

 三回もババ抜きしてたらさすがにイリアの奴も戻ってくるだろ。


「じゃあ俺から……」

「きゃっ、先生のえっちー」

「な、なんでだよカード引いてるだけだろ」

「とか言ってカード引くふりして私の胸の谷間にカード刺したいとか思ってたでしょー」

「思ってません」

「じゃあ〇×■の方?」

「思ってません!」


 なんですぐに挿れたがるんだこの変態は……


「ええと、どれ引こうかなぁ……」


 毎回悩むふりをして時間を稼ぐ。これほどまでに早くイリアに戻ってきてほしいと思ったことはまぁないだろう。 

 しかし遅い。一体あいつは何をしているんだ。


「あ、ちなみにノーパン先輩は戻りませんよ?今日は直帰すると」

「な、なんだって!?」

「今からドンキにコスプレ買いにいくそうです」

「あそこに売ってるのってエロいやつだよね!?」

「まぁ普通のもありますが……買わないでしょうね」

「……」


 イリアが戻ってこない。

 となるとこのトランプは一体何の意味が……?


「ほら、先生の番ですよ。勝ったらご褒美が待ってますからはやくはやくー」


 俺を催促するかのようにひなちゃんのおっぱいがぷるりんこ。

 それを見て俺の目はジャバジャバに泳ぐ。


 しかし、俺の手札は一枚。ひなちゃんは二枚。

 あのどちらかの正解を引いてしまったら、俺は禁断の谷間へレッツダイビング。


 ……いや、悩んでもしかたないのだ。引くしかない。


「じゃあ、こっち!」


 トランプが、そろってしまった。


「あー、私の負けです—。ざんねーん」

「ま、待て待て別に俺は罰ゲームなんていらないから」

「ダメですよーそれじゃあ勝負した意味がないですから。ほら、早く触ってくださいよせんせっ♪」


 眼前に、おっぱいぷるんと一弾み。これ触らずして、何が男ぞ。


 志門司の心の中で謎の句が読まれたところで勝手に手が伸びる。

 ああ、俺は今日からひなちゃんのおもちゃになるんだ。でも、どうせならこのおっぱいを触って、最後にいい思いをさせてもらおう……


 すうっと伸びた俺の手は彼女の胸めがけて一直線。

 しかしその時、ピリリッと俺の携帯が鳴る。


「はっ!あ、危なかった……」

「もう、いいところなのにー。早く出てください」

「あ、ああ」


 電話をポケットから出しながら「もう、いいところだったのに!」なんて思ってしまったのは一時の気の迷いである。


「もしもし」

「志門君、あなたはブルマとセーラー服どっちがいい?」


 イリアだった。

 ちょうど買い物に来ているところだそう。


「どっちでもいいから早く戻って来いよ。大変なんだ」

「ふーん。どうせ罰ゲームとか称してあの子のおっぱいを触ろうとしてしまってた自分を棚にあげて私のせいにしてるんでしょ小さいわね」

「すげえなお前!てかわかってんなら早く」

「小さいのはあなたのイチモツだけにしてくれるかしら」

「小さくない!」

「じゃあ適当に買って帰るわ」


 電話が切れた。

 その様子を見ていたひなちゃんが小さく「ちっ」と舌打ちをしたのは見逃さない。


「イリアのやつ戻ってくるって。だから今日はここまでだ」

「……いいでしょう。本番は文化祭ということですね」

「でも、文化祭はイリアと回る約束になってるから」

「知ってます。だから学校に百と八つのトラップを仕掛けます」

「文化祭がえらいことになるからやめて!」


 果たして俺はきちんと文化祭を完走することができるのか。

 そもそも去年もほとんど人のいない場所でぼーっとしていただけの俺にとっては実質初めての文化祭。


 だというのに変態と回ることになって、もう一体の変態からは妨害が入るというのだから嫌な予感しかしない。


 はぁ……っとため息をついたところで、イリアが戻ってきた。


「ただいま」

「あ、おかえりなさい先輩。いいのありました?」

「ええ、あなたにはこのスク水のエスサイズを用意したわ。すんごいことになりそうね」

「きゃー、これだと走ったらはみ出ちゃいそうですね!」

「絶対着るなよ!」


 文化祭当日にスク水姿の巨乳女子のポロリとか大事件だろ。

 即中止案件だ。


「頼むからもう少しマシなのはないのか?」

「志門君の趣味に合うような超短めで下乳だけがでるようなセーラー服はなかったわ」

「なぜ俺の趣味を知っている!?」


 ぐぬぬっ、こいつまさか俺の性癖を知っているのか?

 そうだ、俺は胸フェチだがその中でも下乳には特にうるさい。

 なぜか上から覗く谷間よりあっちの方が萌えるのだ。へそ出しとかとミックスされると尚良い。


「あなたの持っているAVは全て確認済みよ」

「お前俺の部屋で何してた!」

「知りたい?まずは×××ー」

「こらー!」


 人の部屋で何してくれてるんだよ!


「ちなみにあなたが先週コンビニで買った下乳特集の雑誌もちゃんと拝見したわ」

「な、なんで知ってるんだ!?」

「GPSよ」

「GPSはそんなに万能じゃねえよ!」


 もはや衛星から俺のことを監視してるだろこいつ……


「とにかく文化祭で着る衣装決めたら今日は帰るぞ。疲れたよもう……」

「志門君、私とのデートの約束覚えてる?」

「ま、まぁ」

「じゃあサラリーマン風のファッションのあなたの隣で不服だけどブルマ姿で手を繋いであげる」

「犯罪の匂いがするよ!」

「このシチュの名前は……そう『青い彼女を青田買い』とか」

「買ったの認めたらダメだって!」


 なんだよそのAVみたいなタイトルは……

 ていうか青い彼女に手を出したらダメだろ。


「ひなちゃん、あなたはこのウェイトレスの恰好にしなさい」

「えー、私トップレスがいいのにー」

「ちゃんと隠せ!」


 結局俺が彼女たちの衣装を決めた。

 ひなちゃんはメイド、イリアは和服。もちろんブーブー言われたがそこだけは譲らなかった。

 俺はコスプレはしないと言い張ったのだけども、それはさすがに通用せずなぜかしまむらで買ったような服を渡された。


「これは……?」

「あら、衛〇四郎よ」

「あの服装コスプレだと最悪にわかりにくいチョイスだよ!」

「じゃあ青タイツにする?」

「すぐ死んじゃうからやだよ!」


 とまぁ、ちょっとアニメの小ネタを挟みながら今日は解散になる。

 そして明日は文化祭。


 今日だけはひなちゃんの襲撃もイリアの立てこもりもなく平和な夜となった。

 

 しかし、その反動からか翌朝より早速自体は急変する。

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