44 ロリリスクとは
何事も不可抗力という便利な言葉で片づけられる範囲で俺は今まで変態との攻防戦を潜り抜けてきた。
というのも、俺が望んでではなく相手から。そう、相手から無理やり変態行為を強要されてきた被害者として、俺は理性を保ってきたわけで。
しかしだ、自ら進んで変態の体を触りに行く―――しかもそれがおっぱいであれば話は別だ。
もう言い訳はできない。
俺は自分の意思で彼女の胸を触りましたと、裁判になっても警察に連れていかれてもそう自白せざるを得ない。
つまり、これぞ本当の既成事実だ。
ああ、この胸を俺がもみっとした瞬間、俺は変態嫁とのすばらしき変態ライフが確定してしまう。
多分、人生ゲームの離婚マスに止まっても変態なら車の後ろを猛ダッシュで追いかけてくるだろう。
きっと、彼女と四六時中一緒にいたら俺も、来年の春頃にはノーパンで登校し、見られていることを快感にしながらニヤニヤしていることだろう。
……ダメだ、まだそっちに行っちゃだめだ。
暗黒面に落ちてしまったら、俺は戻れなくなる。
「だー!」
「どうしたのよ早く触っていいわよ?」
「うう、ダメだ。手が勝手に」
「もう一つ付け加えておくと、ちょっと汗かいててしっとりしてるわよ」
「ほふー!」
やばい、俺の指が意思に反してピクピクしている。
だめだ、俺の指は変態の胸を揉むためにこの世に生を受けたわけではない!
考え直せ俺!
「あ、ちょっと乳首立ってきちゃった」
「あー、失礼しまーす!」
もう理性という理性がぷつんと切れたのがわかった。
お手手ではいしゃーくと言わんばかりにイリアの胸めがけて手が一直線に伸びる。
その時
「おにい、イリアお姉ちゃん来てるんだからいつまでも寝てんなよ!」
柚葉ー!
あー、ブレーキブレーキ!
切れたはずの理性の糸が妹によってキュッと元通り。
すぐに俺の腕は回避行動をとることに。
「はぁ、はぁ……あぶね、マジでやばかった」
「惜しかったわね」
「……くそ」
今日は完敗だった。
柚葉が来なければ俺は今ごろ、イリアのおっぱいをひたすら好き放題して、責任を取る形で変態の彼氏の名を襲名していたところだっただろう。
「柚葉、助かったよ……」
「何言ってんの?それより、遅いからお姉ちゃん送ってあげて」
「は、はい……」
夜道に変態と二人放り出された俺は、イリアが隣でずっとクスクス笑っているのが気になる。
「何がおかしいんだ」
「いえ、志門君ってほんとうにおっぱいが好きなのね」
「男はみんな好きだ」
「でも、まな板にアポロチョコこそが正義って人もいるわよ」
「それはロリコンだろ」
「私の胸でも興奮はしてくれたんだ。嬉しい」
ほんのりと顔を赤らめるイリアは、少しだけ変態な様子を封印して俺に迫る。
「ねぇ、なんで触らなかったの?」
「そ、そんなことしたら責任問題だろ」
「いいのに、別に」
「ダメだ、俺はそういうところはきっちりしたい人なんだ」
「ふーん。ひなちゃんのおっぱいには欲情するくせに」
「してない。あれはけしからんだけだ」
しかしこう連日と俺の好きなおっぱいネタをかまされたらさすがの俺だって理性がおかしくはなる。
ううむ。このまま押し切られてしまうのはどこか釈然としない。
「とにかく、おっぱい攻めはなしだ」
「いいわ。正々堂々と私の持ち味を全面に勝負するわ」
「お前の持ち味ってなんだよ」
「利き味付きゴムなら絶対負けない」
「逆にすごいなその特技!」
いや、舐めたことあるのかよこいつ?
……
「あ、今変なこと考えてたでしょ」
「考えてない」
「安心して、私は処女よ」
「別に心配してない」
やれやれだ。
どうして俺がこいつのことでモヤモヤさせられないとダメなんだ。
「もうそこが家だろ、俺も帰るぞ」
「ええ、ありがとう。それと」
最後に一言、といってイリアは家の門をくぐる前に俺に言う。
「柚葉は処女じゃないかもね」
そう言い残して彼女は消えていった。
……え、おい、どういうこと?
え、ちょっと待って、柚葉は違うの?え、だってまだ中学生だよ?お兄ちゃんはまだ童貞だよ?え、待って、何をあいつから訊いたの?
イ、イリアさーん!
◇
結局イリアの発言のせいと、夕寝したこともあって夜は全く寝つけず。
昨日と同じく徹夜となった。
「おはようおにい……ってどうしたのその顔?ひどいクマよ」
「柚葉……お前彼氏とかいるのか?」
「な、何よ急に」
「いるのか、いないのか、どっちだ」
「い、いないよ」
「いたことは?」
「……ないわよ。何よスケベおにい、さっさと飯食え」
いないんだ、というのが正直な感想。
眠気のせいでそれ以上考えが巡ることはなかったが、まぁ彼氏いないんなら大丈夫だろうと勝手に安心していた。
昼休みまでは爆睡。
そして飯を食って放課後まで爆睡。
気が付けば放課後、詩に起こされる形でようやく意識を取り戻す。
「今日寝すぎよ。授業大丈夫?」
「やばいかも。ていうか体がそもそもやばい」
「どうせイリアちゃん捕まえて夜な夜な変なことしてるんでしょ」
「それならどれだけマシなことか……」
実際は変態に捕縛されるのが怖くて寝れなかったり、妹の性事情にやきもきして寝れなかったりと様々だが、なんにせよ変態が原因であることに変わりはない。
「はぁ……部活行きたくない。詩は水泳部そろそろか?」
「今は文化祭実行委員の仕事。それよりあなた達読書部も何かする?」
「しようかって話もあったけど、まとまってない」
「エントリー期日は明日までだからね」
そう言い残して彼女は教室を出て行く。
詩が行ってしまったので俺も仕方なく部室へ。
すると今日は、イリアの方がいない。
「あ、先生遅かったですね」
「ひなちゃん……イリアは?」
「今、先生のところに文化祭用の部費申請に行ってもらってます。せっかくなので私たち、コスプレでもしようかなって話になりまして」
「コスプレかぁ。ま、いいんじゃないか楽しそうで」
「え、先生もするんですよ?」
「ん?」
よく思うのだが、美男美女以外のコスプレって、よほどクオリティが高いもの以外は結構見てて辛いものがある。もちろん趣味で誰がどんな格好をしようとそれについてどうこういうつもりはない、あくまで私見だ。
でもなぁ、どうしてもエロいイメージが付いて回るんだよなぁ。
「コスプレってちなみにコンセプトは?」
「うーん、私はFFとかやろうかなって」
「ゲームか。で、俺は?」
「働く魔王様のマグロナルドスタイルで」
「いやほとんどマックの店員だろ!」
なんでそこチョイスなんだよ。
「ちなみにイリアは何をするって言ってたんだ?」
「ええと、変身途中のセーラー戦士をって」
「裸だよ!」
コスプレに手を抜いて露出するな!
「とにかく、当日は私とノーパン先輩でがっつり稼ぎますから客引きよろしくです」
「まぁ、わかったよ」
「それでー、少し申請に時間がかかるみたいなのでそれまでの間……ヤりません?」
「随分直球になってきたな。でもしない」
「もう、やるのはババ抜きですよー」
「そ、それならやってもいい」
「あ、ババアが抜けてるなんてひどいですね先生」
「口悪いなお前!」
最近の女子高生って一つ先輩なだけでババア呼ばわりするの?こっわ。
「じゃあババ抜きやるぞ」
「なにか賭けましょう!」
「……俺が負けたらジュース奢ってやる」
「はい、私が負けたらおっぱい触り放題で」
「なんだとぅ!?」
なんというローリスクハイリターンなババ抜きなんだ?
もう五十パーセントは既にあのおっぱいを触る権利がある、ということだよな?
……いや、ダメだ負けないと。
「ロリリスク、でも
「ロリはリスクしかねぇよ!」
こうしてババ抜きが始まった。
勝てば楽園が待っているが、しかし勝ってはいけない、そんな勝負。
俺は人生で、多分これまでもこれからも含めて人生で一番真剣に、ババ抜きをすることになった。
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