私の中の黒い悪魔

ささたけ はじめ

悪魔が目覚めるとき

 私は私の中に一匹の悪魔を飼っている。

 私はいつも、その悪魔と闘いながら創作を行っている。

 先日もそうだった。


 その日、私は今までと毛色の異なる作品に挑戦しようと意気込んで執筆していた。

 それは人間の内面からにじみ出る感情を表出する――深く深く読者の内面をえぐり出すかのような作品である。

 そして、ストーリーの完成間近――果たして悪魔は現れた。


 ――よお。


 うるさい。創作中だ。話しかけるな。


 ――なんだ、つれねぇな。俺様はお前の一部なんだぜ? そう邪険に扱うなよ。


 勝手に住み着いて何を言う。私はお前など飼った覚えもないというのに。


 ――おいおいおい、ひでぇこと言うじゃねぇか。傷付いちゃうぜ。俺様は繊細だってのによ。


 やかましい。お前が繊細だとしたら、私にとっては戦災だ。戦うたびに負担が増える戦債でもある。邪魔するな。


 ――往生際の悪い男は好かれないぜ? いい加減正直になれって。


 私は最初から正直だ。いつもお前が惑わすのだ。


 ――俺様はお前の一部だといっただろう? 俺様を否定するのは、自分自身を否定することだって、なんで気付かないのかね。


 そんな気付きなどありえない。


 ――いいや、気付いているはずだね。その証拠にほら――今は筆が止まってるじゃねぇか。迷ってるんだろう?


 お前が横から余計な口を挟むから、推敲が捗らないんだ。邪魔をするなよ。


 ――ひゃっひゃっひゃ! 「推敲が捗らない」だって!? 物は言いようだな、おい! 本当は迷ってるんだろう!?


 迷ってなんか――いない。


 ――いいや、迷ってるね。断言してやるよ。お前は迷ってる。俺様は知ってるぜぇ? 最後の一文を足すかどうかで迷っているのをさぁ!


 煩い、黙れ。


 ――どうしたどうしたぁ! 否定が弱弱しいじゃねぇか、宿主様よぉ!


 弱弱しくなんかあるものか。


 ――立派に弱弱しいっての! いじらしいくらいになぁ! さあ、ほら――心のままに、足してやれよ。


 う、うう――。


 ――その一文を足しさえすれば、お前はこの葛藤から解放されるんだ。早く楽になっちまえよ!


 うう、うう、ううう――。


 ――ほら! ほら! ほら!


 あああああ! ち、畜生! 駄目だ――!


 そして私は抗い切れず――今日もまた付け足してしまった。




 くだらないオチを。




 ――へへへ、よくできました。それでいいんだよ。誰もお前に感動や哀愁なんて求めちゃいねぇって。


 悪魔の言葉を受け入れられない私は、今日も公開ボタンを押せぬまま――後悔を重ねるだけだった。

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