第9話 昼飯が一番の強敵
マーシはその後の試合も順調に勝ち進み残すは午後から行われる準決勝と決勝戦のみとなった。
「これより午後一時まで昼休憩となります」
校内アナウンスで昼休憩が告げられる。
「いやあ腹減ったな」
お前何もしてないだろと言われるかもしれないが応援しているだけでも結構腹は空いてくるものなのだよ。
「ルイス君お昼どうするの?」
マーシが中庭の机の上に弁当を並べながら俺に問いかける。
本来ならば食堂でと言ったところだがどうやら今日ほかの生徒は各自で弁当を持参しグラウンドのベンチや中庭で食べている。
そんなことになろうとはつゆ知らず俺は弁当を用意していなかった。
なのにロジエとマーシはちゃっかり弁当を用意している。
そんな話を聞いた覚えはあるのだがそんなことはすっかり頭の中から消え去っていた。
「取り敢えず購買でパンでも買ってくるわ」
購買に行けばある程度の食料は確保できるだろ。
「ん?」
向こうの方からこっちに駆け寄ってくる見覚えのある影が一つ。
「兄さん、お疲れ様です。今日は一段とお綺麗ですね」
女装しているのにも関わらず一発で見破るとはやはり俺の女装は無理があるのか?
「実は私お弁当作ってきたんです。兄さんのことですから忘れてると思いまして」
何という幸運、愛する妹の手料理がこんな所で拝めるとは。
「おうその通りだよ。じゃあ一緒に食おうか」
俺と楓はマーシと同じ机の椅子に座り弁当を広げる。
「ルイス」
後ろからシャルロットの声が聞こえる。
振り返るとロジエも一緒だった。
道中で出会ったのだろうか、二人とも大きな弁当箱を持っている。
「おや? 弁当は持っていたのか? 私はてっきりルイスのことだから忘れていると思ったんだが」
楓といいシャルロットといい俺は一体第三者からどんなイメージを持たれているんだろうか。
「いや、これエルサのやつなんだよ。お前の言う通り弁当忘れてな」
「そうなのか。忘れてると思って一人分多めに作ったんだが」
シャルロットはそう言いながら机の上に弁当を置いていく。
「シャルロットも兄さんに弁当を? 偶然ですね」
「でもどうすんだ? ブシャールさんの弁当も相当量あるぞ、マチョスさんの分どうすんだよ」
「ふ、甘いなロジエ。俺が二人の好意を無駄にする愚か者に見えるか? ちゃんと両方いただく」
せっかく二人が俺のために作ってくれたのだ、両方食わなければ失礼だろう。
「だ、大丈夫なのかルイス? 無理しなくてもいいんだぞ?」
「心配すんな俺は大丈夫だ」
「兄さんなら大丈夫ですね、はいどうぞ」
俺は楓から差し出されたものを手に取る。
「お、箸だ。懐かしいな」
十年ぶりぐらいに箸を手に取った俺は懐かしさに浸っていた。
「この前外出した時に偶然見つけたんです。私のとお揃いですよ」
楓が嬉しそうに箸を見せてくる。
可愛い、それに尽きる。
いや、尽きない。
これを表現できる言葉はこの世界には存在しない。
「それが箸と言うものなのか、聞いたことはあったがこの目で見るのは初めてだ」
シャルロットは物珍しそうに箸を眺めている。
「さて、じゃあ食べようか。いただきます」
楓とシャルロットの弁当に箸を伸ばし自分の口に運ぶ。
「うめえ」
口に入れた瞬間感じたことのない程のうま味が広がる。
美味過ぎて箸がどんどんと進む。
店を出したら近隣の店が潰れるのではないかというほどだ。
え? それはいくらなんでも言い過ぎじゃないかって? ぶっ殺すぞ。
「美味かった」
「相変わらず早いなお前」
もう見慣れたとばかりにロジエがそう言う。
「飯は美味い内に食ってしまうのが礼儀だ」
俺はそう言いながら風に吹かれてゆらゆらと揺れるウィッグの後ろ髪をゴムでくくりポニーテールを作る。
「な、慣れてるね」
「ん? ああ俺昔ポニテだったからな」
中学の頃、一瞬だけロン毛が流行った時にもしかして今ロン毛にすればモテるのは?と思い学校中の男どもがこぞって髪を伸ばした。
その中に俺もいた訳だ。
だってモテたいじゃん、モテたくない男とかいないだろ。
「最近ルイス君が何をしてても驚かなくなってきたよ」
言うほど驚かれることしてないだろと言いかけたところで自分が今女装をしている事を思い出した。
確かにこの姿で驚かない奴はいない。
取り敢えず笑っておこう、ハハハハハ。
転生したので楽しい学園生活を送ります 久佐郎 @syoyu_sakaguchi
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