超短編推理小説・『理想のパートナー』

夢美瑠瑠

超短編推理小説・『理想のパートナー』

(これは、今日の「パートナーの日」に因んでアメブロに投稿したものです)


掌編推理小説・『理想のパートナー』


 私たちはSとMです。

 いわゆるサド役とマゾ役…押さえつけられた体勢のマゾを、攻撃して苛(さいな)むのがサド。そうしたSMプレー?をいつもやっていて、絶妙のコンビになっています。

 そう、お互いがお互いにとって「理想のパートナー」なのです。

 二人ともそれぞれがいないことには話にならない、半分も実力が発揮できない、剛球派のピッチャーと堅守のキャッチャーのような相性抜群の絶妙の組み合わせなのです。

 鋭敏な動きをするS役の間断ない容赦ないストロークをM役はしっかり受け止めて、時には傷つくことがあっても悲鳴も上げないし、気絶したりましてや絶命したりはしない。

 時には血だらけになっても、水をぶっかけると息を吹き返します。

 S役も無傷では済まない。攻撃して、お互いが切磋琢磨するという毎日のルーチンの中で少しずつ「その個性的な居住空間の中で随一の切れ者」という唯一無二の特性をすり減らしていく。

 だが、S役はスポンサーからメンテナンスを受けることができて、十分に英気を(鋭気を?)養うことで瞬く間に復活します。

 こうした「SMプレー」は日常的な営みなので、誰からも奇異な目で見られることはありません。

 ですが、やはり緊張や一種の興奮なしには執り行えない。だって、不断に血や肉が飛び散る儀式のようなものですから…

 残酷かって?

 いいえ、残酷とは言いません。コンビによる営業?なしには誰も一日も食べていくことができないほど必要不可欠で、すっかり人間の暮らしに、それは定着しています。

 S役の別名にはいろいろあって、「関の孫六」というのもそのひとつです。こういう名匠に鍛えられたS役が特に優秀で、珍重される。

 M役については正真正銘のSMショーがこういう比喩の元で、つまりM役のベストパートナーの名称を冠して大勢の前で上演されたり…するのは有名で、周知の事実です。


 もう私たちの正体がわかりましたね。

 そう、私たちは「包丁とまな板」です!


 包丁にとってのまな板、まな板にとっての包丁は文字通りの「理想のパートナー」。

 そうして文字通りの「まな板ショー」というのが典型的なHなSM実演ショーみたいに行われているのもこのコンビのどことないエロチックなニュアンス、あるいは食べることとセックスの象徴的な類縁性、そうした表れでしょうか…


 最初のところで謎が解けたあなたは天才かも!

 最後までなんだかわからなかったあなたは相当勘が鈍いかも、ですね。


<了>

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