第5話
第5話
私はヤシダを連れ、イーサの元へ向かう。彼は部屋でくつろいでいたようで完全に無防備だった。
「な、何のようだ!?」
私は無言でヤシダを突き出す。イーサはこちらの考えを察したらしく、ヤシダに詰め寄る。
「お、お前まさか…」
そのまさかだ。
「イーサ、全部吐きましたよ」
それを聞いたイーサは憤慨し、感情をあらわにする。
「ふざけるな!!お前を今まで育ててやったのは誰だと思ってるんだ!!」
ヤシダは完全に萎縮してしまい、反論の一つもする様子はない。彼に代わり、私が話をする。
「…慎重なあなたが、改ざん前の資料をそのまま捨てるはずはない。けれど、そんな危ないもの監査部だって引き受けてはくれない。じゃあ資料はどこにあるのか?」
「…」
イーサは黙ったままだが、かなりの焦りが表情に出ている。私は間をおかず、告げる。
「地下の専用書庫、ですよね?」
「…!?」
イーサは一瞬狼狽えたが、すぐに視線をヤシダに戻す。ヤシダはただただすみませんと繰り返している。ここまで来ると少し可哀想なので、私は最後の一撃を加える。
「地下専用書庫には、限られたものしか入る事はできません。しかし書庫の管理官に、あなたも改ざんに関わっていたことを統括に言うと脅したらすぐに開けてくれました」
「そ、そんな…」
「そこには確かに、正しい記載内容の資料、すなわち改ざん前の資料がありました。つまり、改ざんは私が資料を作成してから貴方が統括に提出するまでの間に行われたことになり、あなたが犯人であることの何よりの証拠です」
「…」
もはや、反論の余地なしだ。イーサもヤシダも膝をついてうなだれ、意気消沈といった様子だ。2人はもう、ここにはいられないだろう。
「それで、お前これからどうするんだよ?」
「決まってるさ」
この王宮には、まだまだ表に出ていない不正が大量にあるようだ。監査部だけでも、いくつの不正を抱えていることか。ならば力に目覚めた私がしなければならない事は…
「正しいことを正しいと言えるように、王宮を正してみせる」
彼女の本当に戦いは、始まったばかりだった。
完
私が選んだのは、論破スキルです 大舟 @Daisen0926
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます