第24話(終)

 ようやく、ここまでのことを紙にまとめ終わった。私事が混ざっているが、どうせ読むのは勇者だけだろう。アイツも、私と娘との関係には思うことがあったようだし、丁度良い報告になる。


 そもそもの始まりは勇者の、「せっかく俺の子供たちと、ゼブるんの娘が受験するんだから報告書でも書くと思って、試験のことを物語風に書いてくれよ」という、一言(無茶振り)から始まっていた。


 試験は終わって、ルゥルも、レイルも、エーリーも整備士として仕事を始めようとしている。



「何してるんですか?」


 ビックリして紙を隠す私を見て、目の前に立つルゥルの表情が、怪しい人を見る目つきに変わる。


「いつの間に入ってきたのだ……」

「ノックはしましたよ、呼んだのは魔王様の方ですし。それで話っていうのは?」

「あぁ。話というほどのものでもないのだが、レイルとゆっくりと話せたよ。ありがとう」


 立ち上がり静かに手を差し出す。ルゥルはすぐにその手を握り返してくれた。爽やかな表情と共に。


「ようやく恩返しができたのでよかったです。皆には父さんに憧れて、ダンジョン整備士を目指してるって言ってますが、もちろんそれも本当なんですけど。整備士になろうと決意したのは、魔王様が助けてくれたことがキッカケなんです」


 手を握ったまま、私は目を見張る。その様子を見て、ルゥルはさらに言葉を続ける。


「嘘じゃないですよ。それに、レイルと魔王様がギクシャクしているのは、オレのせいかもしれないっていうのもありましたし」


 握っている手を離して、手を横に振って否定する。


「君が責任を感じることなどない。私の言葉足らずのせいだ」

「それでも、何か手伝いみたいなことだけでもできればって」


 思考が勇者に毒されているな。素晴らしい。


「とても手助けになったよ。帰ってきたレイルが、そこまで機嫌が悪そうじゃなかったのもルゥルのおかげだろう?」

「え?」


 口が薄く開く。ルゥルは何も知らないような顔をしている。


「違うのか?」

「オレは、魔王様がレイルの誕生日をどうしても祝いたいらしいから帰ってみたらどうだ? って。その時は少し不機嫌そうな顔をしていたような」

「そうなのか……」

「きっと、そのまま家に向かっただろうから、向かう途中で何かあったんじゃないですかね?」


 『何か』か。エスパーのような気づかいをしてくる男に一人だけ覚えがある。


「うむ、そういうことにしておこうか。そういえば、これからダンジョン整備だろう?」


 私の言葉に反応して、ルゥルは電話を取り出し、時間を確認する。


「そうだ! レイルとエーリーを待たせてるんでした!」

「それはすまないことをしたな。急いで向かってあげてくれ」

「はい! いってきます!」


 軽やかに駆けながら、こちらに手を振ってルゥルは国王室から去っていった。



 こうして、今年の試験監督は終了した。

 直前のルゥルとの会話を省いた『試験と私の報告書』を、勇者の机に置く。


「本当に……親子揃ってお節介なヤツだ」


 自分で言いながらも口元が緩む。そして、感謝の一言だけ書いた付箋を報告書の片隅に貼り付けた。

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ただいま、ダンジョン整備中! 雨田ナオ @Ameda_nao

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