第14話  ドワーフの国③ 


 再びミリスが憑依して、着替えた3人と門に向かう。

 歩きながら、盗賊の襲撃を受けたという設定を3人にも説明する。


「……そして、幸運にも全員合流できた、という感じで行こうと思う」


「わかりました、無用な警戒をされないための方便という事ですね」


「そうだな、それで話の流れでマナ結晶の換金は無事にできたんだが、買取り金額が多いので残金を受取るのが3日後になってしまった。その間は宿をとってじゅうぶんに時間があるから残りの装備や備品を揃えたり、この国にあるはずの地の結晶を探したりしたいと思う」


「それでも時間が余るだろうから、暇つぶしがてら色々な店などを見て情報収集しようと考えている。宿が決まって落ち着いたら、なぜ情報収集しているのか、などのこちらの事情に関しても詳しく説明するから……と、そろそろ門番の視界に入るな。」


 そういう訳でよろしく頼むと言うと、3人とも了解した。

 前を向いて門番の方へ歩いていくと、門番のドワーフから声を掛けられる。


「よう、お前さんその様子だと無事に仲間が見つかったようだな」


「ええ、はぐれた周辺から捜索しようと向かっている途中で、幸運にも再会出来ました。それで……換金したマナ結晶の残金の受け取りが3日後という事になったので、彼等にも一時滞在の許可をお願いしたいのですが……」


「そうかそうか、良かったな。わかった、ザールにまた詰所まで同行させよう」


 前回同様に門番が短い金属の棒を取り出し、扉に向かって大きく振ると巨大な扉が開いていく。

 扉の内側で待機している兵士に向かって、手を挙げながら声を張り上げる門番。


「おーい、昼前に来た被害に遭った兄ちゃんの、はぐれた仲間が見つかったってよ。また詰所まで連れてってやってくれ」


 前回と同様に武骨なドワーフの後に続き詰所にやってきた。

 これまた前回と同じ兵士のドワーフに迎えられる。


「無事に仲間が見つかったんだってな?よかったな……それで一時滞在の手続きだったな、ちょっと待ってくれ、今手続きをするから」


「ありがとうございます。あと、いくつかお聞きしたいことがあるんですが……」


 ドワーフの兵士が奥から焼き印のされた一時滞在の木札を持ってきて机に並べる。


「それじゃ、人数分な。滞在可能なのは3日間だからな……それで、聞きたい事って言うのは?」


「はい、教えてもらった店で無事にマナ結晶の換金が出来たんですが、金額が予想よりも多くて残金の受け取りが3日後になってしまって……」


 そう言いながら一応、引換証を兵士に見せる。


「それで、4人で泊まれる宿を紹介してもらえたらと思いまして」


「そうか、だったら昼前に通った、酒場の二階が宿になってるって話したろ?そこに話してやるよ」


「ありがとうございます。助かります。あと……ちなみになんですが……国王陛下に謁見できる人って言うのはどういう人なのかと……」


「なに?陛下に謁見?何の理由があるか知らんが、無理だぞ?」


「いえ……知り合いの商人の大先輩にあたる方が、先日他の国で国王陛下にお目通りがかなったと言っていたので、いったいどのくらいの方なら謁見できるものかと……その……個人的に興味がありましたので、国に仕えてる方ならわかるのではと……」


「なんだ、そういう話か……俺も国に仕えてると言っても、ただの兵士だから直接お目通りがかなう事など無いが、一度だけ式典で整列した時に、お言葉を賜った事があるが……数千人が整列した中で後の方だったしなぁ、そんなものだよ」


「ましてや王国民でなけりゃ、王宮からお声でもかからない限りはまず無理だろうな。長年取引した実績のある商人なら……そうだな、特別な功績があるか、王宮でそれなりの地位にある方の紹介、他国なら国の重鎮かそれに準ずる方の紹介でも無ければ、まず無理なんじゃないか?」


「なるほど……大変勉強になりました」


(ミリス……これは行ったところで門前払い確定だな。どうする?)


(そうですね……ここでの準備が整い次第、水の国に向かって水の巫女に紹介してもらった方がよさそうですね)


(ここで粘っても無理そうだし、そうした方がいいな)


 一時滞在証を受取り、ついでに再延長の説明も受けたが、最初の3日で国を出ない場合の再延長は一度だけ。再々延長は無く、その場合は正式な手続きをすることになる。

 正式な手続きをするには身分を示すものが必要になるので、所持していなかったり紛失した場合には6日以内に取得せよ、といった感じらしい。

 村や町などで宿に泊まりながら旅をする分には、身分証を求められることなど滅多にないとの事だが、王都や大規模な都市、関所を通る場合や、移動に船を使う場合などは身分証が必要になる。

 しかし、身分証を作るには出自を示すものが必要になる、出身の村長に一筆書いて貰ったり、町に生まれたならそこのギルドで登録すればいい話なのだが……


 商人の身分証の再発行という設定の線は当然無理だし、水の巫女に助力を頼もうにも、ドワーフの国と水の国の関所は越えられない……あれ?詰んだかな?


「そろそろ宿の方に行くか?」


「はい、よろしくお願いします」



                  ◇


 4人部屋を三泊分前払いで済ませ、昼過ぎで全員昼食をとっていないこともあり、まずは腹ごしらえと、今は一階の酒場で料理を待っている。

 料金は通常一泊一人当たり銀貨4枚の所、常連の詰所のドワーフの紹介という事で、同じ値段で朝食の日替わりスープとパンのセット銅貨8枚分(0.4銀貨)をサービスしてくれることになった。

 ふーん、朝食付き1泊一人4000円って所か、安いな……と思っていたが、ロスタスの3人の表情を見るとそこそこ高いようだ……リアルとの物価の違いか?

 長年ひっそりと隠れ住んでいた、ロスタスの民の金銭感覚が一般的かというと疑問だが……


 とりあえず昼食に同じものを食べてみようという事になり宿泊代含めて銀貨49枚と銅貨12枚となったので大銀貨(銀貨10枚分)を5枚支払って釣りはチップにしてもらった。で、残金が金貨6枚と大銀貨4枚。装備は残金が入ってからとしても野営などで使う冒険者セットを買いそろえる分には問題なさそうだ。あ、靴も買わないとな……


 などと、考えていると4人分の大きめのパンと深めの大皿に日替わりスープが運ばれてくる。詳しくは無いがパンはおそらく俗にいう黒パンというやつで、スープは野菜多め肉少なめだが、いい香りがする。

 ミリスはずっと憑依したままだが、新しいものが味わえるとウキウキ感が伝わってくる。

 食べる前に手を合わせて、いただきますと小声で言うと、そういう風習だと思ったのかロスタスの3人も真似をしていた。


 正直あまり期待していなかったが、木のスプーンでスープを口に運ぶと優しい味で美味かった。ポトフに似ている感じだろうか……ミリスも満足なようだ。

 しかし、パンを一口ちぎって口に入れてみると、さすがのミリスからも微妙な感じが伝わってくる。最初にコンビニパンを食べたからというのもあるだろうが、とにかく硬くて口の中の水分が無くなる。すぐにスープを口に運ぶが、それでも正直微妙だ。


 他の3人はというと、ちぎったパンをスープに浸して食べているので、そうやって食べるのが普通なのだろうか……

 腹も減っているし、育ちざかりを2人預かっている。

 俺もさすがにこれだけでは物足りないし飲み物も欲しい。

 追加を頼もうと言っても3人は遠慮するので、果汁シロップのようなものを水で割った飲み物2つとエールをジョッキで2つ、ターキーレッグのようなものを人数分追加で頼む。

 ターキーレッグっぽいのはちょっと肉質固めかなと感じたが結構美味かった。

 レインはもうじゅうぶんとの事だったので、男性陣はさらに追加で1つずつ。

 昼食代は追加分含めて計、銀貨6枚と銅貨14枚……まぁこのくらいなら旅の間の食費は節約しなくても余裕があるな。


 食事も済んだので、部屋も見ておこうと、案内された部屋に入る。

 ドアを開けて正面に窓が一つ、左右にベッドが2つずつ。

 壁側が枕で毛布が一枚、小さなサイドテーブルが左側に書くひとつずつ、その上にはランプがそれぞれ置いてある。

 サイドテーブルの引き出しを開けてみると火をつける道具か、ヤスリのような金属の棒と穴があけられ紐が通してある小ぶりの石のセットのみ。

 入って左側のベッドにヘイルとレイン、右側にクロードと俺と、寝る場所が決まった所でミリスの憑依を解いて、5人で今後の予定について話し合う。


「とりあえず、今後について話しておきたい。現在の問題は正規の身分証が無く、作るのも難しい事。それによってドワーフ国から水の国に入る際の関所、どうにか関所をかわせたとしても水の国の首都に入る時にも身分証が必要になるだろう」


「なので正規か非正規の身分証をどうにかして人数分手に入れないといけない」


 それぞれのベッドにい腰かけて作戦会議を始める。話始めるとすぐにミリスの手が上がる。


「マスター、それについては考えがあります」


「水の国の首都アクアから周辺の町や村には水路が通っていて水の巫女を祭る泉に繋がっています。それによって水の巫女は国内の情報を得ているのですが、いずれかの泉で私がマナを込めて呼びかければ、水の巫女から何らかの反応があると思います」


「キャレス殿、ドワーフの国と水の国は長年の友好国。長い国境線で関所は街道の通っている2ヶ所のみ、巡回の兵士に直接発見されなければ、街道から離れた場所で国境を越えるのは難しくないでしょう」


 お、これに関しては結構難航しそうだと思ってたが……割とあっさり解決しそうな案が出たな。


「なるほど、じゃあその方向で進めよう。となると、とりあえずは旅に必要な物の買い出しをして、残金を受取ったら装備を整えて出発、になるかな」


 皆が頷く。

 さて、一息ついたら夕食の時間まで買い出しか……時間が余ったら装備品の下見をしてもいいかもな。

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マグナス 狐坂 @magnus_kosaka

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